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11話 愛しているのは

 俺たちはセンティネルの駐屯所を後にした。

大人の事情を察しろという圧力で、引き返せざるを得なかった。

仮にあそこで反発し、衝突が起ころうとも俺は武力で強引に事を進めることができるが、それは何も生まれない。

俺はそこまで考えなしのバカではないからな。


「ウル、一度センティネルを頼ったことがあったんだな?」


 ウルはコクリと頷く。

その時も門前払いということか。さぞ絶望しただろうに。

⋯⋯この世界の闇、といったところか。超巨大組織とやらも内部はどす黒いものが蔓延っているようだな。

いきなりアテを外してしまい途方に暮れる。


「レイくん、もしよかったらうちで匿ってあげよっか。お父さんとお母さんが残してくれた資産にはまだ余裕あるし、ウルちゃん一人ぐらいなら⋯⋯」


 姉さんならそう言うと思っていたよ。

本心を言えば俺は姉さんと2人きりでいたかったが、ここで断るほど酷な人間ではない。

ウルもまた俺と同じで愛情に飢えているだろうからな⋯⋯。


「もちろんいいよ姉さん。ウルもそれでいいか」


「⋯⋯っ! うん!」







 2人の手を繋ぎ、我が家までテレポートする。

肉体の疲労は能力のおかげで全くないが、精神的に疲れた一日だったな⋯⋯。

結局デートのアドバイスは何一つ実行できないまま終わってしまった。

 それでも、姉さんの楽しそうな姿は脳内に刻み込んだから良しとするか。

記憶を紙に焼き付ける写真のような魔法でも生み出せないかな。


「ウルちゃん汚れちゃってるね。私はお夕飯の準備するから先にお風呂入ったりしててねー。レイくん、案内してあげて」


「わかったよ姉さん」


 そうか、今日のデートで食材を購入したんだったな。いつもは姉さんの創造の能力による食事だったが念願の手料理が味わえるということじゃないか。

 良くないことの後には良いことがあるんだね。神様、これは人助けした俺へのご褒美でしょうか。

ちょいちょいと服を引っ張られた。あぁすまんなウル、感動しすぎていた。


「レイ⋯⋯、レイは昼間のこと、怒ってないの?」


「昼間って⋯⋯、あぁ、カプセルのことか。全然怒ってないよ。むしろ入れた相手が俺でよかったな」


「っ!」


 不安だろうからニッコリと笑顔で返してやる。

あの時は本当に何も考えられず、ただ逃げることだけを優先したんだろう。

俺以外の人間に預けていたらもっとひどい事態になっていた可能性も考えると、ウルは運がよかったな。



「ウルね⋯⋯、レイのこと、すき」


「ははっ、ありがとう」


⋯⋯は?


「レイもシーラもすっごく優しくて、奴隷にされてから、こんなに優しくされたの初めてだった⋯⋯。もう二度と普通の生活には戻れないんだろうなって思ってた⋯⋯。だから2人のこと、すき」


 あぁそういう好意ね。まぎらわしい言い方はやめような。

いくら姉さん以外の女性に興味がないとはいえ、女性慣れしてないんだからびっくりするだろ。

俺は、焦って落としたタオルを拾った。


「レイはね、怖い人たちからウルを守ってくれて、その時に神様だ!って思ったんだけど神様じゃなくて⋯⋯、なんか上手く言えないんだけど、胸の中がぎゅーってなって⋯⋯」


 あ、あぁ⋯⋯。


「いっぱい迷惑かけたのに怒らないで笑ってくれて⋯⋯。だから、その、ウルはレイのことがだいすき!」


 息が詰まった。

こう見えて俺は一度も女性から告白を受けたことがないのである。当然か。

今俺にはウルが、泣きそうな顔をして抱きついている。

 この状態で硬直しない、彼女いない歴=年齢の男がいるだろうか。いや、いない。

せっかく拾ったタオルをまた落としてしまった。

ウルのスカートの下から尻尾が顔を出し、ぶんぶんと勢いよく振っている。犬みたいだな。


「ウルね、レイとちゅーしたい」


 は!??!脳天に爆撃を食らった。

こんなにすぐ発展するものなのか!?俺が子供すぎるだけか!?

ダメだ!俺のファーストキスは姉さんと⋯⋯。


「やめろウル!そういうことはキチンとした手順を踏んでからであって神聖な儀式をだな⋯⋯」


「レイは、嫌?」


 ウルの耳と尻尾が垂れ、しょぼんとする。

そんな顔をするな!罪悪感がこみあげてくるだろ。俺は姉さんが助けようとしなかったら、もしかしたら無視していたのかもしれないんだぞ。礼を言うのは俺ではない。俺はそこまで立派な人間じゃない。俺を見つめるな。俺には姉さんという人が――――


 唇に柔らかい感触が伝わってくる。


 15cmほどの身長差を埋めるために、ウルは背伸びをして、首の後ろに手をまわしてきている。

ほんの数秒のはずだが、俺には長い時間に感じられた。

ファーストキスってなんの味だっけ?味⋯⋯してるか⋯⋯?なにもわからない。

静まり返る脱衣場で、俺は一つだけ、大人の階段を上りました。







 俺は放心状態のまま、リビングに戻った。

キッチンではフライパンでなにかを炒めているのだろうか。

香ばしい匂いが空腹を刺激し、きゅるると小さな音を立てる。

風呂場のほうからはシャワーの流れる音が聞こえる。


「ウルちゃんにお風呂の使い方教えてきたー?」


「あぁ⋯⋯」


「タオルと着替えも持っていったよね?」


「あぁ⋯⋯」


「ちょっとレイくん聞いてるー?」


「あぁ⋯⋯」


 すみません姉さん。ちょっと頭の情報処理がうまくできないです⋯⋯。

俺は姉さんのことが大好き、ウルは俺のことが大好き、姉さんは⋯⋯?

姉さんは俺のことが好きかもしれない⋯⋯。だが、その好きは姉から弟への好意であって恋愛のそれじゃないというのは当然のことだ。

 俺が姉さんに告白すれば姉さんは困るだろう。

俺がウルの告白を受けるのは⋯⋯?誰も不幸にならないのでは?

しかし中途半端な気持ちではウルに対して不誠実だろう。いくらなんでも申し訳ない。

あぁいったい俺はどうしたらいいというんだ!


「ねぇレイくん、どうしたの?熱でもある?」


「姉さん、俺、は⋯⋯っ」


 な⋯⋯、姉さん⋯⋯その格好は⋯⋯!?


「その格好は!!」


「うわびっくりしたぁ。買い物してたときにレイくん、この服が好きだって言ってたから着てみてもいいかなって。ちょっと恥ずかしいから家の中だけだからねっ!」


 そこにはメイド姿の姉さんがいた。

あんな少しの間のことを、俺のためにと思ってやってくれたというのか⋯⋯。



 ごめんな、ウル。



「!? どうしたのレイくん!涙出てるよ!どこか痛いの?」


「なんでもありません姉さん、それより今はご主人様と呼ぶべきでは?」


「あ、レイくんそういうことさせたかったんだね~。でも今日は楽しかったしがんばってくれたから特別だよ、ご主人様っ」



 やっぱり俺は、姉さんのことを愛しているよ。

最終回ではない⋯⋯!

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