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ふんじょしっ!  作者: 真木あーと
エピローグ 俺のふんどし人生は始またばかりだ。
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エピローグ 第一節

 さて、推古が忍者だというのは、元から苑子も翔子もその苗字で知っていたんだそうな。

 で、苑子が言ってた一つ年上の忍者の家系の女の子って心当たりは推古だったそうだ。

 よくは知らないが、百地家と藤林家はお互いに服部家に次ぐ家系なので、ピンと来たそうだ。

 あ、高坂家の方が格上というのは本当だが、実権は百地や藤林の方が上だったらしい。

 なんていうか、分かりやすく江戸時代の将軍家に例えると、服部家が将軍家だとすると、高坂家は松平家で、百地家と藤林家は大老・家老の一族、という感じだったらしい。

 将軍家が途絶えれば松平家から将軍が生まれるのは当然だが、そうでない限り、権力(ちから)としては大老や家老の方が持っているわけだ。

 で、今回は血を絶やしたい、という希望だったので、実子をあえて高坂家には託さず、家臣である藤林家と百地家に託したようだ。

 で、推古はとっくにその事実を知っており、だが、何もなければ百地家でいるように父、つまり百地家の養父に言われていたようだ。

 だが、高坂家のような家は数家あり、服部家が途絶えたことで、そのうちのどこかが服部家の跡を名乗るかもしれない、その時には服部家を名乗れ、と子供の頃から教えられてきたそうだ。

 百地家では、服部翔さんが出来なかった服部家としての教育を、代わりにやっていたようだ。

 そして、百地家と推古は、高坂家の動きについては既に知っていたようだ。

 だが、確たる証拠もなかったので警戒のみしていて、いざとなったらすぐに服部家を名乗れるように準備だけしていたそうな。

 で、例の水晶みたいなものは、百地家にもあるそうな。

 なんでわざわざ服部家が再興しそうな道具を破壊しなかったのか、と言えば、百地家と藤林家のどちらかがそれを使って服部家を復活させようとした時、もう一方がそれを止めるようにだ。

 で、百地家は推古にはそれを渡さなかったようだ。

 まあ、藤林家も俺に託して苑子には託してないけどな。

 そりゃ、出来た子とはいえ、十五、十六の小娘に全ての忍者を思うように動かせるような道具(オモチャ)を持たせられないよな。

 だから百地家は親が預かり、藤林家は何故か俺に託したんだが。

 さて、結局二人は高坂家には何の処分もしなかったそうだ。

 一応、一番ダメージの大きかった翔子の望月家に謝罪に行くよう令はあったものの、それだけだ。

 ここまでの事をやっておいて何もしなければ、今後謀反(むほん)を起こそうとして失敗して謝れば許されるって事が広まるんじゃないかと言ったんだが、そもそも、強権の服部家は今後もない、という事にしたいそうだ。

 今後も彼女らは藤林家、百地家を名乗り、何かあった時だけ服部家を名乗ることにしたようだ。

 それがいい、その方がいい。

 俺はこれまで通り、推古と仲良くし、苑子の「おやかたさま」でいて、翔子と友達としてたまに遊ぶ関係を続けたい。

 ただ、変わりゆくことはある。

 どれだけそこに留まろうとしても、激流に流され、動いてしまう事がある。

 俺たちの関係も、完全に元通りとは、いかなかった。


「おはようございます、おやかたさま」

 起きたばかりの俺の部屋に、いつの間にか苑子がいた。

「……おう、おはよう」

 寝起きの頭が回転するまで、何も思わなかった。

 が、ちょっと待て、何で朝一の俺の部屋にこいつがいるんだよ!

 こいつ、俺が寝てる隙に部屋に入ってきやがったな。

「何でここにいるんだよ!」

「今日はふんどしの初日。きちんと着けられるか確認に来ました」

「いや、確かに着けたことないけどさ、大丈夫だろ」

「着けたことないなら無理です。ふんどしのプロである某にお任せください」

 苑子は手をわきわきとしながら近寄ってくる。

 いや、ふんどしのプロて。

 パンドルショーツも知らなかったくせに。

「自分でやってみるからいい! お前は、帰って親父さんの弁当手伝ってろ」

「父上はしばらくお弁当を作れません。手に怪我をしたので。なのでしばらく某が作ります」

「ああ、まあ、その方がいいけど……大丈夫か、親父さん?」

「……ふんどし某子(そのこ)が悪いのです」

「ああ……じゃ仕方がないな」

 まあ、あのおっさんが悪いなら仕方がない。

 元をたどればこいつがふんどし笑子(しょうこ)なんてカードを作ろうとしたのが悪いんだけどな。

「そんなわけで某も忙しいのです。さっさとおちんちん見せるのです!」

「ちょっと待て! 目的が変わってるぞ?」

「しまった、本音が!」

「ひどい本音だな! 帰れ!」

「せめてふんどし姿だけ見せてください!」

「帰れ!」

「某とおそろいのところを見たいのです!」

 必死に訴える苑子が可愛いと思ってしまった俺は負けそうになった。

「……また後で見せてやるから、帰って弁当作ってろ」

「分かりました。それでは帰ります。父上からもらったという某とのおそろ、楽しみにしてます」

 そう言い残して、苑子は帰って行った。

 て言うかあのおっさん、(うやうや)しくくれたから、いわくのある品かと思ったら、単なるペアルックかよ。

 あ、そう、俺は今日から二ヶ月、ふんどしの刑となりました。

 まあ、下着なんて人に見せるもんじゃないし、特に問題ないだろ、と思っていたが、冷静に考えると、体育で着替えるんだよな。

 しかも二ヶ月となると、休んでしのぐには長すぎる。

 更にあいつらの事だ、ちゃんと穿いてるか確かめるとか言って来るだろう、っていうかたった今言われた。

 あいつらみたいな女の子にふんどし姿見せるのも恥ずかしいっていうか、悔しい。

 まあ、これも二ヶ月の苦労だ。

 悪いのは俺だしな、本当なら推古に絶縁されてもおかしくはない事をしでかしたのに、このくらいで(ゆる)してもらえるのなら安いもんだ。

 俺よりも翔子が大変だろうな。

 いまだにどうして翔子がそんな罰を受けるのかよく分かってないんだが、忍者の世界には俺に分からない掟ってのがあるんだろう、そこに突っ込むと推古も苑子も怒るので、これ以上は突っ込まないことにした。

 お嬢様学校の女の子が体育で着替える時、ふんどし穿いてたら、恥ずかしいってレベルじゃないだろう。

 まあ、生理については安心だと推古が保証してるから問題はないと思う。

 さすがに苑子じゃあるまいし、推古が初潮前ってことはないだろうからそこは心配しなくてもいいだろう。

 ていうか、俺の心配するところじゃないだろう。

 あの時も顔真っ赤にして恥ずかしがってたし。

 ……そう言えば、今日からあの子もふんどしなんだよな?

 あのお嬢様学校の制服来て、今日も学校に行くんだよな、ふんどし穿いて。

 ……やばい、想像してきたら、興奮してきた。

 落ち着け、落ち着いて……。

 あ、一応翔子も落ち込んでたし、元気づけた方がいいかな?

 携帯でメール送るくらいならしてもいいが。

 よし、とりあえず「今日からだけど大丈夫か?」と送ってみた。

 すると間髪置かずに「頑張ります! 苑子から可愛いのを送ってもらいましたが、逆に引いてしまってましたが、四谷さんも同じだと思うと力が湧いてきます。恥ずかしいから見せることは出来ませんが、頑張ります」と帰って来た。

 あの数秒で送ったとは思えないくらい長文だった。

 ん? もう一件メールが来た。

 苑子から「急いだのでお弁当失敗しました。かなり見た目が悪いので、今日はパンにしていいですか?」と届いた。

 おいおい、ここでこいつの弁当褒めちぎって親父弁当やめさせる計画はどうなる!

 なんとしてでも持ってこさせないと。

「見た目とか飾りとか、どうでもいいんだよ。問題は中身だろ。多少形は悪くても、俺はそれが食べたいんだ。お前だから絶対おいしいに決まってるだろ、自信を持て!」

 そんな熱いメールを返信した。

 すると、すぐに返信が……おっと、苑子じゃなく翔子か。

 なになに……「いきなりそんなことを言われて、戸惑いました……ですが、受け入れようと思います。どうか私をおいしく食べてください」と書かれていた。

 何だこれ?

 あ、しまった! 苑子に送るつもりが翔子に送ってしまった!

 ちょっと待て、この子、何を勘違いしてんだ?

 えーっと、ふんどし恥ずかしい→大切なのは中身だろ、俺がおいしくいただいてやる→受け入れようと思います……。

 ヤバい! 俺、大変なメールを送ってしまった!

 翔子思いっきり誤解してるし、受け入れようとしてるし!

 とりあえず、翔子の誤解を全力で解こう。

 苑子には「弁当持ってこい命令だ」とだけ送って、翔子への謝罪に時間を費やした。

 そんなことをしてたら、もう時間もない。

 さっさと、ふんどし締めて行くぞ!

 俺は急いで着替えることにした。

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