第四章第三節
「実はさ──」
俺は翔子に事情を話し始める。
「ええっ!? 苑子が服部家の血筋?」
「そうです、偉いのです。今までの無礼を詫びたいなら全裸で町内一周回ってから土下座するなら許さなくもないです」
「何でよ! そもそも悪いのはあなたのお父さ……あ」
怒ろうとしていた翔子が気づく。
あの親父さんが苑子の親でないなら、確かに苑子に怒ったのは筋違いであり、何の非もない服部家の娘に無礼を働いていたことになる。
「そうです、あれは某の……」
苑子がその機に乗じて責めようとする。
まあ、本気で走らせるとは思えないが、さっき逆さ宙吊りで放置しようとした前科があるからな。
いざとなったら止めよう。
「……あれは、某の父上です。父上がご迷惑をおかけしました」
ぺこり、と頭を下げる苑子。
親父さんが自分の父親でない、とはまだ言えない心境なんだろう。
「え? あ、うん。まあ、苑子には関係ないし……」
翔子の方もそれを感じたのか、少し同情の目で苑子を見る。
「今度出す『ふんどし笑子』シリーズもよろしくお願いします」
「何よそれ!?」
「次に出すらしいですよ?」
「くっ! 今お父さん家にいるわよね? 何か武器貸して!」
「はい、ワルサー」
「ワルサー!?」
その武器の名に妙な違和感を感じた俺が振り返ると、苑子は手裏剣を翔子に渡していた。
「どうかしましたか、おやかたさま?」
「いや、さっきワルサーって聞こえたから、拳銃か何かだと思ってさ」
「拳銃? ご存じないようですのでお伝えしますが、日本の法律では拳銃の所持は出来ないのです」
「知ってるよ!? いや、そうじゃなくって……ああ、まあいいや。翔子、殺さない程度にな。あと、ピンチになったら『翔子に何かあったら四谷景冶は弁当を食べない』と言え」
「分かりました。ありがとうございます」
翔子はにっこりと笑って手裏剣を手に出て行った。
「ふう、で、姉貴はどうやって見つける?」
「何か考えてください」
「丸投げするな、俺も考えてやるから自分でも考えろ」
「……この辺りで、約一年ほど年上の忍者の家系の女の子と言うと、一人心当たりがありますが、どうしましょう?」
「どうしましょうってどういう事だ?」
俺が聞くと、苑子はうつむいた。
「向こうの家では、養子とも告げられず生活している可能性が高いです。それを知っているのは親御さんだけで、隠す可能性もありますし、下手に本人に知らせると、あちらの家族が崩壊したりすることもあります。もしそれで違ったとしても、疑惑は残りますから、余計な事をしたことになります」
「……そうだな。そうかも知れない。ただ単にそいつが姉貴だと確認したいだけでも、姉貴の側の色々なものが崩壊される可能性もあるからな」
苑子は、あの親父さんが自分と血がつながっていない事で、少なからずショックを受けた。
まあ、こいつと親父さんはなんだかんだで仲がいいから、これからもし藤林苑子としてやって行くにしてもやって行けるだろう。
だが、姉貴の家庭がどんな状況にあるかは分からない。
場合によっては家庭そのものを破壊することにもなりかねない。
「大丈夫な人だとは思いますが……こればかりは分かりません」
不安そうな苑子。
「ちなみにそれって何家だ?」
「それは掟で言えません」
「ああ、そうだったな」
そいつが多分俺と同じか一つ上なら、知ってる奴かもしれない。
まあ、女の子にはそんなに詳しくないけど、そっちに顔が広い推古に聞けば分かるかもしれないとも思ったが、掟という壁でそれは出来なかった。
「ま、何とかなるさ。どうにかなっても俺も何とかしてやる」
何も状況が分からないまま、俺は苑子を安心させるために頭を撫でてやった。
「おやかたさま。某はおやかたさまがいればいいです。姉上は、しばらく心に留めておきます」
「そっか」
「服部家の事も、しばらく待ってもらいます」
「そっか……」
それでいい。
急いで傷つかなくても、今の傷を治してからでいい。
今は親父さんと血がつながっていなかったことだけ悲しんでいればいい。
俺はしばらく苑子の頭を撫でてやり、苑子は気持ちよさそうに黙って俺を見上げていた。




