表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふんじょしっ!  作者: 真木あーと
第四章 子供のデートに親父が出てくる。
16/26

第四章第二節

「はい、某も初めては自分の部屋がいいです」

「いや、そういうんじゃないから」

 深刻だと思っていた苑子の呑気な言葉に、イラッと来るとともに少しほっとした。

「某の部屋は二階です、こちらへ」

 苑子が案内する後をついて二階へ上がる。

「ここが某の部屋です」

 案内されたのは十畳ほどの広い部屋。

 そこは、苑子の匂いがして、そして、ファンシーなもので溢れている部屋だった。

 ベッドには苑子と同サイズくらいの巨大なぬいぐるみが並んでおり、おそらく抱いて寝ているのだろうと想像できる。

 まあ、ここまでは女の子の可愛い部屋だ。

 だが、ちょっと気になることがあった。

「なあ、そこら辺にあるこの取っ手は何だ?」

 部屋のそこかしこ、壁や天井に、何だが取っ手というか、棒のようなものが突き出ており、そのファンシーな部屋でそれだけが異様に目立っていた。

「それはもちろん、壁や天井を這うための足がかりです」

「いや、それを何故自分の部屋に付けて……登らなくてもいい! 今ミニスカートだろ!」

 上からぶら下がる苑子のスカートの中から、桜色のふんどしがちらりと、いや、丸見えになっている。

「大丈夫です、おやかたさましか見てませんから」

「だから俺が見てるだろ!」

「はい。それが?」

 心底純粋にそう言われると、こちらも返答に困る。

「そこはさ、恥ずかしがってもらわないと、男として見られていないようで悲しいんだよ」

「おやかたさまは殿方ですが、殿方である前におやかたさまです」

「いや、そうじゃなくて……まあいい。とにかくもう少し女の子としてだな」

「某が服部家の血筋なのは、さすがに驚きました」

「ええ!? このタイミングで独白(モノローグ)?」

「何より、父上、母上が某と血がつながっていない事がショックです。あと、弟の満遇須(まんぐうす)も」

「DQNネーム! あの親父さん何かいいところあるのか?」

「身寄りのない某を育ててくれました。そして、某に道を選ぶ選択権をくれました」

「……まあ、そこは確かに、いい親父さんだが」

 俺は色々と納得が行かないが、まあ、苑子からすれば、いい親父さんなんだろう。

「……某は、どうすべきでしょう。某の本当の父上のお考えに従うなら、服部家という最上位の命令系統は必要ない、それどころか、あることで忍者の末裔たちを不幸にする、とも思いますが」

「そうだな」

 服部翔という人は、よく出来た人だと思う。

 最大権力を持った家系に生まれながらも、それを子孫に残すことを拒んだ。

 よくは知らないが服部家という名前は、その世界じゃ物凄いものなんだろう、一旦権力(ちから)なしと言い張っても、その子供がやっぱり権力(ちから)必要というと、権力(ちから)は復帰するくらい。

 だから、家を潰しすかなかった。

 自分の家を潰すっていうのは生半可な覚悟じゃなかっただろう。

 だからこそ、それは尊重されるべきなんじゃないかと思う。

 服部家が途絶えても、誰も困らないなら。

「…………」

 苑子は俺の答えを待っている。

 本当に、自分ではどうにも考えがまとまらないのだろう。

 俺の答えが、苑子の決断に大きく影響すると思うと、俺も半端な事は言えない。

「苑子が嫌でなければ、苑子はこのまま藤林家にいるべきじゃないか?」

「ですか……」

「それで誰も困らないし、先代の翔さんの心を汲むなら、そうすべきだと思う。だって、苑子が服部家とかいう首領になって、何が出来る?」

「事業を興して、大儲けします」

「意外にまともな答え! いや、それをしたいならすればいいさ。でもな、それは服部家の名のもとにすべきじゃないだろ?」

「はい。某がふんどし一貫で立ち上げます。ハイパーメディアクリエーター派遣会社を」

「いや、事業内容はもっと考えような?」

 どんな派遣会社だ、それ?

 なんかどんな奴が派遣されてくるのか気になってみんなで金出し合って呼びたくなるよな、それ。

 少なくとも俺はその様子が想像できない。

 あと、突っ込まなかったけどふんどし一貫って何だよ。

「まあ、とりあえず藤林家にいてさ、ゆっくり考えればいいさ。将来名乗る姓をさ」

「あ、それは決まってます。四谷家です」

「俺んちじゃないかよ! そんなことはどうでもいいんだよ!」

 一気に疲れた。

 なんでこいつこんなに呑気なんだろう。

「とりあえず、姉上がいるなら会ってみたいですね」

「そうだな、でも、それもやめた方がいいと思うぞ?」

「おやかたさまという兄上がもういるからですか?」

「一体お前は俺の何になりたいんだ。本来の目的から全力疾走で離れてるぞ?」

「なぜやめた方がいいのですか?」

「だからさ、お前って服部家と知ってショック受けてただろ? 姉貴がいたら、同じようにショックを受けるだろうし、それに藤林家みたいに既に世継ぎがいるならともかく、いないならその家にも迷惑かけるだろ?」

 藤林家はたまたま弟が生まれたから、苑子の決断を委ねることにした。

 だが、もし跡継ぎが生まれていない家に養子に出されていたら、その家はその姉貴がいなかったら家が断絶してしまう。

「家がどうこうまでは踏み込みません、ただ、会いたいだけです」

 苑子が言う口調は真剣だった。

「まあ、気持ちはわかる。だが、いざ見つけるとなると、手がかりは何もないぞ?」

「某は生まれたばかりですから別として、姉上は一歳まで育っていたのです。何か手がかりがあるのでは?」

「うーん、服部翔さんの手がかりか……翔……翔子……翔子?」

「翔子です! それです! 姉上は本当の父上が名付け親ですから、父上の名がその名に入るのも当然です!」

 そうか、そうなのか。

 何だか引っかかりを感じるが、そうだよな、翔子だったら苑子の面倒見てるし、苑子の姉にぴったりだ。

「おやかたさま! すぐに翔子、いえ、姉上を呼んでください!」

「え? いや、別にお前がかければいいだろ?」

「おやかたさまが『今すぐ苑子の部屋に来てくれ』と言えば五秒出来ます」

「そんなわけないだろ! ……まあいいか。かけてやるよ」

 俺は携帯を取り出し、さっき作った「苑子関係者」フォルダの翔子を選ぶ。

「あ、翔子? 今すぐ苑子の部屋に来てく「来ました、何ですか?」れないかな?」

 電話で話していたはずの翔子が、いきなり目の前に現れる。

 あれ? 今こいつ、どこから出てきた?

 服が私服になってるから、尾行してきたわけでもあるまい。

 え? 本気で今の時間で走ってきた?

 ……なわけないか、なわけない事にしておこう。

 ちなみに翔子の私服は黒いリボンで胸元を留めた白い上品なブラウスと、藍色がかった黒のひざ下スカートで、いかにもお嬢様(コンサバ)系の格好だ。

「そ、それで、四谷さん、何の御用でしたか?」

 何だか知らないが、めちゃくちゃ期待の目でこっちを見つめる。

「いや、俺じゃなくてさ──」

「姉上!」

 苑子が翔子を抱きしめる。

 感動的な姉妹の出会いだった。

「え? ええっ!? 何なのよこれ!?」

 翔子は戸惑いながら、俺に助けを求める。

「どうも苑子は翔子の実の姉みたいなんだ」

「ええっ!? でも、私、苑子より一月くらい誕生日遅かったわよ?」

「あ」

 そうだ、なんか引っかかると思ったが、よく考えたら同じ歳で姉貴って事はほとんどないよな。

「人違いか……」

「がっかりです」

「何なのよ! 何でそんなに落胆されなきゃならないのよ!」

「あー、翔子はもういいです。帰ってください」

 さっきまで熱く抱擁していた苑子は、冷たく言い放った。

「説明くらいしなさいよ!」

「めんどいです。察するといいです」

「これまでの状況から何を察しろっていうのよ!」

 翔子が怒る。

 そりゃあまあ、怒って当然だろうな。

「ごめんな、翔子、呼び出して無駄足踏ませて」

 苑子に謝る気配がないので、俺の方から謝っておいた。

「いえっ! 大丈夫です、無駄足ではありません! こうしてまた四谷さんと巡り合えたんですから! むしろ何もないのに呼び出してもらっても構いません!」

 放置プレイがいいとか、この子はマゾなのか?

 可愛い顔してるのに可哀想に。

「あー、いや、そういうんじゃなくてさ。実はさ……なあ、苑子、言ってもいいか?」

 翔子に事情を話そうとしたが、これは苑子の重要な秘密なので、苑子の許可なしには言えないだろう。

「……まあ、翔子にならいいです」

 苑子は静かに答える。

 なんだかんだでこの二人って仲がいいんだろうな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ