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シゾフレニア  作者: 民音慧可
第二部 原点回帰の物語
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小さな奇跡の終わり


「……」


―――…リズムよく身体が揺れることに気づく

目の前に広がるのは暗闇。

肌からは何も感じず、ただ身体ごと揺れているだけが感覚として伝わってくる


――――…ああ、そうか。俺は目を瞑っているのか。

場所はそう…あの電車の中で。

ならば起きよう…。


もう…夢に浸ることはないのだから。


眼を開くと予想通りそこは車内。

そして窓から見える光景は、霧に包まれた世界が、朱く染まり夕暮れ時を意味していた。


「―――…目覚めましたか。いやぁ、もうすぐ終点でしたので起きなかったどうしようかと思いましたよ~」


片側から可笑し気な声で語りかけられたため、そちらに目を向ける

そこには乗る許可をくれた形状し難い光体が笑っているように見えた。


「よほど気持ちよかったのですかねぇ~。いい寝顔でしたよ?」

「…そうかもな。確かにスッキリする気分だよ」

「それはなにより……おっと」


乗車している電車が動きを遅くすることが会話中でも分かった


「そろそろ終点ですね~。降りるならこれが最後ですが…まさか乗り過ごしましたか?」

「いや、終点でいい。乗り物にも慣れてきたからな」

「それはなにより。…猫も夢から覚めるものですからね~。執念も憎悪も、9回目には置いて逝けるものです。」

「9回目もそんなこと繰り返しているようじゃぁ、どれが夢か解らなくなるものだぜ?」

「おやおや、知っているように語る」

「知ってるさ、経験済みだ。」


9回どころじゃない。

俺の思っていることが確かなら、9回どころで済むはずがない


――――…ああ、やっとだ

やっと、スタート地点に立つことが出来たんだ。

ここから始められる。

ようやく、進められる。


電車のブレーキ音が車内に響く

そして、目の前の扉が開き、俺を外へと誘う


「さぁ、終点です。長い…長い旅、お疲れ様でした」

「・・・・」


俺は無言で立ち上がり、その扉へ歩き始める。


――――扉を出れば後戻りは出来ない

…分かってる

――――その先に何があるかも解らないよ

分かってるさ

――――ここに居る方が楽だよ

ああ、楽だろうな。けどそれは望んじゃいない。望まれちゃいない。

――――楽を捨て、苦を進むのは理解出来ない。

嘘つけ。解ってるはずだ。有川湊はどこまでも何よりも知りたがり屋だってことが

――――なら、君は何を知りに行く

決まってる…有川湊の過去と周囲の真実だ。それ以外の何物でもない。それ以外興味もない

――――だったら、その真実を知ってどうする?

それこそ決まってんだろ・・・・


「全ての原因を殺しに行く」


こんなことになった原因を、全てが狂った原点を

俺は殺さなきゃいけない。現実から消さなきゃいけない。

それこそが俺の目的、唯一の原動力。


「大切な女を殺されて、愛してくれた女を壊されて、家族だった人たちを傷つけ、傷つけられた。」


一歩、また一歩と進み―――


「そんな理不尽を受け入れろと?やられっぱなしでいろと?それは、本当に有川湊が望んだことか?」


前へ。前へ。前へと――――そして目の前の扉の先へ――――


「違う、断言できる。望んでいたことは今までとこれからの理不尽を超える強さだ」


一歩、踏み出した


「そのために生まれたのが…俺なのだから」


最初の人格、クソガキの湊

その裏の人格、ミーシェに恋した湊

そこから続く生まれては消えて、生まれては消えてを繰り返した数多の人格たち

その残滓こそが、最強おれを創った

理不尽を受け入れられなかったが故に、受け入れれる俺を創った。

理由は簡単。この有川湊からだは生きたかったんだ。

本能のままに、生物らしく純粋に。

ややくしくしていたのは人格おれ達だった。

根底にあったのはたった一つ。

ただただ、普通に生きて、普通に死にたかっただけだったんだ。


けど悪いが、老衰なんている幸せな結末は待っちゃいない

俺が生まれて出向くってのはそういうことだ。

言うなれば最終手段。せめて一矢報いたいという小さな負けず嫌いに過ぎないのだから。


だからまあ、この身体の全てを使うぞ。

問答は聞かねえ。決定事項だ。

必ず目的を成し遂げる為に、全て余さず使い果たしてやる。


俺が信じられるものは、自ら歩んできた経験とこの身体しかないんだから


―――――――――――――――――――


…彼は…現実に行ってしまった。

これで私の役目も終わり。


「…まっ、こういう形で存在出来たのは奇跡なんだろうね」


色々な状況が混じり合って生まれた副産物。

いや…バグと言った方が正しいんだろう。

ここまで意識を持っていたほうが不自然だったのだから。

故人の特権なのか、網の中で彷徨う漂流物だから

原因は…まあ彼とあの子が居たからなんだろうけど


―――形状し難い光体は徐々に光を失っていく


「心って複雑ね。ヴェーちゃんのように単純明快なのが稀だったんだねぇ…」


―――光を失いながら、形を成していく

―――本来の姿に。長い黒髪の女性へと。


「皆もありがとう、協力してくれて」

《なぁに、最後に美人さんのお願いを叶えることが出来て満足っすよ》

陽來あきの言うことはともかく、一矢報いたいのは湊君だけじゃないからね~》

《彼以外、適任がいなかったしな》


詰まる所利害の一致程度の関係だったわけだが…


「…皆、何だかんだで彼が気に入っていたんだね」

《そりゃあ勿論そうっすよ~。だって…》

《湊君は、私たちに無いもの持ち続けていたんだから》

《慕うのは…当たり前だ》


「…そう、だね」


三人の言う通りだよ。

多分…いやだから私もここまで全力で手助けしようと思ったんだから。

でも、負担をほんの少しだけ和らげることしか出来なくてごめんね。


「湊君…ミーちゃんを愛してくれて…ありがとう」


―――光る身体が薄くなっていく中、そこには確かに有川湊を支えた4人が笑いあっていた。


「そして勝手だけど…ソーちゃんのこと…よろしくね……」


―――刹那

頬に一筋の雫が零れた時、その存在は小さな粒となって消えていった…。

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