別れ、始まる。
足に力を入れながら歩む。
ヒールの音は白い廊下に響き渡る。
雑音をかき消してしまうほどに、強く、強く、響く
「……」
その女性は常に不機嫌そうな面をしてた。
常に、失敗しているような面をしていた。
そんな強面だから誰も近づこうとはしない。
しかし、有能であることは過去の実績から分かるため、周囲は仕方なしに助言を求める。
身勝手なは話だが、何かに縋りたいという気持ちは、誰もが抱いていることだ。
そう…この強面な女性だって、実のところ神様でも仏様でも縋りたい気持ちで一杯だ。
だが、仮にも科学者であり医学者である。
非現実的なことを論じることなど、それこそ論外なのだ。
ーーーとある扉の前で立ち止まる。
ナンバープレートにはよく知った名前が一つだけ刻まれていた。
それを確認すると、すぐさま扉を開け、中に入る。
そしてそこには、一人の青年が眠りについてた。
まるで、死んでいるかのような状態で…
「……必ず、治してみせるからね」
彼女は何かに迷ったとき、必ずこの青年の元に会いにくる。
縋っているわけじゃない。ただ確認するためだ。
自分の行いに間違いがないことを、誤りがないことを
目的に、着々と近づいているはずだと――――
彼の手を握ると、体温が伝わってくる。
呼吸もしている。でも、ずっと、動く気配がない。
ずっと眠りについている
「……大丈夫、大丈夫よ。お姉ちゃんがついているから」
その言葉は、まるで自己暗示のような危うさを醸し出している。
それに気づかない彼女ではない。が、そうでもしないと精神が持たないのも事実だった。
何度も失敗を繰り返した果てに、ゴールが近づいていると確信している。
しているが…不安で不安で仕方がないのだ。
科学者で医学者でありながら
「――――中津先生!!!」
突如、勢いよく開かれた扉の先には
普段は助手として活躍してくれている眼鏡を掛けた女性、如月美月が血相を変えて現れた。
「……どうしたの、美月。貴女は今監視当番のはずじゃ―――」
「そんなことより、彼らが――――ヴ・・・ぁ―――っ!!!」
―――刹那、そうまさに一瞬だ。
理解するのに数秒掛かった。
・・・蹴りだ。誰かが如月美月の腰に蹴りを入れ、窓際まで吹っ飛ばしたのだ。
「美月!!」
気づけば窓際の壁に打ち付けられた美月の元へ駆けていた。
…彼女の身体を診ると、完全に気を失っている。
でも。死んではない。ならよか―――
「そんな声も出るんだな。天音」
その声で、ようやく頭の回転が事態に追いついた
同時に発した声の先に恐る恐る振り返る
そこには――――
「お前ら、どういう了見だ?」
「なぜ…まだ、目覚めるはずが…」
黒髪が長く、表情すら見えない程に覆われている。
しかし、そこから覗き見る眼は鋭く、分かりきった感情を私に向けていた。
「俺は憶えているぞ。何もかも…言葉よりも、記憶よりも…この身体がハッキリと憶えている。」
その長い前髪を手でたくし上げ、怒りを露わにした見覚えのある顔がそこに現れる。
「中津天音。知っていること全て答えろ。でなければ、そこの弟を窓から突き落としてやる」
命令と脅迫。
声色から分かる。ああ、こいつは本気だ。
目覚めたばかりで身体に力が入らないはずなのに、必ず実行に移すだろう。
その見せしめに、美月を蹴り飛ばしたのだから…
「………みなと」
‐―‐―‐―‐―‐―‐―‐―‐―‐―‐―‐―‐―‐
「今のみなとのお父さんとお母さんは、本当のお父さんとお母さんじゃない」
淡々と、そしてまっすぐぼくの眼を見て真実を告げられた。
その言葉の意味くらい、当時のぼくにだって分かる。」
血液から分かる情報から、今の家族が偽物だってことが…
「…ごめん」
「なにが?」
「なんだろう、言うまではこんなに痛くなかったんだけど、なんか、言ってから言っちゃいけないって思っちゃったんだ」
「…ううん、言ってくれてありがとう」
「………言葉だけじゃわかんないよね、これが理由だよ」
手渡される一通の封筒。
三つ折りに仕舞われたその用紙を広げ、中身を確認する。
……責任者の捺印もある。ああ、これは確かに正式に鑑定されたものだと直感した。
これが、間違いじゃないことを裏付けられたんだ。
「ホントに、ごめん」
「かいがあやまることじゃ…」
「みなとのそんな顔がみたくて、やったわけじゃないから
――――・・・ああ、本当に優しいな。かいは
だから、安心させてやらないと
「大丈夫だよ、平気。だって、ようやくスッキリしたんだ」
突き刺さってきた違和感の正体
血の繋がってない家族故の歪こそが原因だった。
例え生まれたときから世話をしてもらっていても
食事を与えられ、一緒に住んでいても
拭えない違和感はいつも付きまとっていた。
だって
ぼくとあの3人とじゃ―――――
瞳の色が違うのだから――――




