後悔の後は
登場人物全員に意味深な過去を持たせている変わりに、だんだんややこしくなってきたかもしれない
「・・・千里、ちゃん?」
こんな時間にどうしたのだろう
というより、そもそも行方をくらましていたのだから最初に来る疑問はお門違いだった
・・・まあ、正直言うと無事だろうとは思っていた
だから行方をくらましていようが特に気にしていなかったのだ
薄情だって?いやいや、そもそも湊が心配するのは分かるが私が必要以上に気に掛けるのはおかしいだろう
会って数か月程度の付き合い。一応家族となったしそれで今まで以上に関わることが多くなったことでお互いを知ることはできた
だが、それだけだ。結局女という共通点以外共有するものはなかった
それでも家族となったのだから大切にしようという気持ちはあったのだ
だがそう思うとより一層思い出してしまう
自分の家族が、もういないってことに・・・
だから考えなかった。考えたくなかったのだ
それでも今は目を逸らすわけにはいかない
千里ふらふらとこっちに向かって歩いてきてる。覚束ない足取りで、目が虚ろのようにも見える
というより、私の眼が物語ろうとしている
あれは既に、手遅―――
「千里ちゃん・・・?」
思考より口を動かす。そうすることで余計なことを考えなくて済むから
でも、辛さだけなら現実が数段上だった
「・・・?・・・あぁ、ソヴィさん」
どうやら意識はあるよう―――
「今は昼間ですよ?学校は行かなくていいんですか?」
―――――
「・・・・そう、いう千里ちゃんも学校はどうしたの?」
「気分が悪いので、今から病院にと」
・・・気分が悪いのは私の方だ
「湊は千里ちゃんが病院行くこと知ってるの?」
「んー・・・わかんないですね」
どうして無邪気に笑えるんだ
「そう・・・。気を付けてね」
知りたくなかった。見たくなかった
「はい。いってきます」
でもそれは私の日常に存在していた
私の横を何も見ていない眼で通り過ぎる彼女は、存在していた
止めることはしなかった。故に足音だけが小さくなり、次第に聞こえなくなる
私は少しの間立ち止まっていた。右手に大男をぶら下げておいて、立ち止まらずにはいられなかった
思考を巡らせた。でも結論はただ一つで、揺るがないものだった
だからこそ誰かを責めたかったのかもしれない。自分のせいじゃないと逃げたかったのかもしれない
失いたくない友達を、家族が壊れていく様を感じたくなかったから
―――走る
後ろを向かず、ただ前を見て走る
千里の今を知った。ならば彼は、湊はどうなっている?
何を知っているのか、どうなっているのか、何をするべきなのか
「―――・・・うん、一緒に行こう」
同時刻
「―――ねぇお母さん。有川湊とはどんな関係なの?」
唐突な質問に、伊奈は若干むせながらも声と整えてから言い返す
「香乃ちゃ~ん、そういうことを聞くのは彼氏クンが帰った後が普通じゃないのかな?あんまりあたしの印象を悪くしないでほしいんだけどー・・・」
刹莉が帰宅して数十分後に香乃の母、仁多見伊奈が磯波伸也を晩ご飯へ誘い、今に至る
伊奈に茶化され顔を赤くしながらぶっきらぼうに食べる香乃
それを見て馬鹿笑いする伊奈に、驚きながらも箸を進める伸也
その光景がひと段落したところで、ふと思い出した疑問を母へと投げかけたのだ
「全く・・・。その言い方じゃお父さん以外に男作ったみないじゃない」
「だって、お父さんと話す時より楽しそうだったよ?」
「おや?それだけかな。察しがいい香乃ちゃんなら解ると思うけどな~?ん~?」
試すように挑発する伊奈。それにイラつきを覚えた香乃は少し考えた結果
連想させる。思い出していく。昔の、子供のころの日常を
「・・・そっか、どっかで見たことあると思ったら―――」
そこで咄嗟に伊奈は両手を前にだし静止の意味を送る
「ストップ!NO香乃!!。考えるあまり周りが見えなくなってるよ。隣には彼氏クンがいるんだから、言葉には気を付け・・・」
「それこそ要らない心配だよ、お母さん。伸也はもう全部知ってるし。ねっ伸也」
香乃はドヤ顔で言い返すと、伊奈は純粋に驚愕した
何故なら、香乃は温厚で人付き合いが得意性格の持ち主だが必ず踏み込ませないパーソナルスペースがある。
いや、パーソナルスペースを持っていること自体は誰だって持っていることなのだが、香乃の場合基本オープンな分、踏み込まれてならない地雷を絶対に隠し通す。
その地雷原が自分の育ちについてだ。家族以外には決して話さないし、家族であろうと明らかに不快な顔をするその話を、今磯波伸也に話したと涼しい顔とともにドヤ顔で告げたのだから。
「・・・香乃が、孤児院育ちのことと関係あるの?」
微妙な顔をしながら伸也は答えた
そしてまたしても、伸也の質問に涼しくも香乃は答える
「ええ、私と姉貴がまだ孤児院に居た頃に、どうにか私たちの警戒を解こうと見せてきた表情に似ているなぁって・・・」
「・・・まっ、そうかもねぇ」
意図していた表情じゃなかった。無意識に、湊を見ているとそうせざるを得ない自然現象の一環のようなもの
だって、何せ・・・
「心を閉ざしている子には、やっぱり親身な態度と、笑顔が一番効果的だからね・・・」
あの子にとっての私の役目は終えたはずなのに、未だに私の元に来るとなると・・・
私にはもう彼が求めるものをあげるぐらいしか出来ない。
全力は尽くした。だからこそここ数年私の前に現れることはなかったし、病院にも顔は出してこなかった
私はその結果を良いものだと思っていた。救われたのだと、立ち直れたのだと、そう思っていたのに・・・
「どうして、昔に戻ってるの・・・みなとくん」
間違っていたのかな、私のやり方は
ねぇ、教えてください。私のやり方がその場凌ぎのもので、結果はさらに最悪な形になってしまったの?
・・・今だから分かるかもしれません
先生が病院を離れたことも、私が病院から逃げた理由も
有川湊。彼の存在が私たちに現実を教えてくれたんですね
・・・中津、陸椰先生
次回は、伊奈と湊の出会いの物語か、本編を進めるか、他愛もない日常を書くか。
どちらにせよ、また一か月後になりそうです(現実事情含めて)




