【後日談】 代償
本当なら、ここからの物語は不要なのかもしれない
蛇足なのかもしれない
あっさりとしているがハッピーエンドであったのは間違いないのだから
それで終わりでいいじゃないか
・・・だが、それでも、語らなければいけない
二人が抱えている真実を
ああそうだ。今まで語られてきたのは全て二人にとって真実だ
だが、真実の上に真実が重ねられているのも事実
それを語り終えた時こそ、お互いがお互いを支えあえる唯一無二の存在になれる
だから、覚悟して欲しい
コレがこの世界の摂理であり最悪の世界だ
欲に塗れた人間世界こそ、最も邪悪で最も美しい
俺はその最も邪悪な部分しか知らないが
だってそうだろ?悪があるなら善だってあるはずだ
・・・いや、正義の反対は別の正義っていう言葉もあるな
まあこの場合は善悪の話だから置いておこう
要はバランスだ。俺はそのマイナスな部分を承っているに過ぎない
この世界のどこかに俺とは間逆な奴がいるはずだ。そいつにプラスは任せよう
嘘で固められた平和な世界をな
「・・・変わったな、お前」
「まあね、変わらなきゃいけなかったから」
今更居間で客さんと話すような間柄でもないので片付いている俺の部屋で会話することにした
ソヴィトヴィーニア
一見からして俺の知っている姿とは遥かに違う
まずは顔。少し目つきが鋭くなっている、と思う。ろくに目なんて合わせていないから確証は持てないが
そして髪の毛だ。かなり長めだった髪の毛だが、さっぱりとまでは言わないが肩に当たるぐらいまで切ってある
前髪も長めだったのだが、いや前髪は長いままか。ただ左目をヘヤピンを使って隠している
・・・それから
「・・・目、どうしたんだ?」
「移植したの。それがこっちの世界に戻ってくる条件だったからね。仕方ないよ」
左目は髪の毛に隠れて見えないが、右目は明らかに色が碧から黄金へと変わっていた
「移植って、左目もか?」
「こっちは・・・まあ、順を追って話すよ。興味あると思うし」
「ああ、あんなところからどうやって戻ってきたのか興味は在る」
そんなやつ、過去にいないはずだからな
「単純だよ。天音に頼んだ、それだけ」
「・・・天音?」
「私はね、彼女のモルモットになることで戻ってこれたの。・・・つまり、貴方の代わり」
「・・・・」
「それじゃあここで説明パートね。口出しは全部言ってからお願い」
そういうとソヴィは語り始めようとする
あの後、置いてかれた後の話から
今に至るまで、
あの村は疑問点が多すぎる
どうして誰も外に出ようと思わないのか
どうして隔絶されているにも拘らず、どうして包丁やオノ、そして服を着ているのか
私が至った結論は、その村は管理されているって事
だから外に出ようと思いいざ行こうとしたら恐らくすぐにでも殺される
誰だって死ぬのはいやだから、だったら閉鎖されていてもこの村の中で農業に勤しんでいようって思ったんじゃないかな
そして、定期的に支給が来る
それがまさに服とか布団とか、必要最低限の物資が配給されるんじゃないかって
父に聞いたら案の定その通りだった
だから、そこを狙った
こういう世界に精通していて湊より偉い人物。私は中津天音しか思いつかなかった
以前言ってたよね、天音と湊は主治医と患者の関係だって
そして湊の私生活に大きく関わっている。つまりはもしかしたら湊と同業者なんじゃないかって
初対面で逢ったあの本屋の時、彼女は私を隅々まで分析していたと思う。目の動きがそんな感じだったから
だから、賭けてみたの。もし天音がそこまで、こんな場所にすら干渉できる偉い人なら、物資が運ばれる時に騒ぎを立てれば現れるんじゃないかって
・・・湊のことだから、なんだかんだで私を助けようと思ったと思うけど、それが無理だったから私を置いていったんでしょ?自分の力じゃ無理だから
でも、貴方は天音に頼ることもしなかった
そこにどんな思惑があるのかは分からないけど
・・・勿論、私も私の力じゃ無理だと解っていた。だから彼女に助けを求めたの
限界まで騒ぎ立てた。死んでもいいってくらい騒ぎ立てた。恥だろうが何だろう全てを捨てた。彼女を呼び寄せるために、私が生きていくために
そして私は賭けに勝った
彼女が出てきた。音声だけだが、天音が現れてくれたの
そして、ある条件が飲めるのならば私をこっちの世界に戻してくれると約束してくれた
その条件とは
一つ、彼女のモルモットになること。要は実験動物だね。期間は未定。彼女の気まぐれ次第
二つ、湊と同じ職に就くこと。監視がしやすいためらしい。本心はわからないが
この二つだけ
私は勿論受け入れた。モルモットといっても流石に死にはしないらしいからいいかなって
そしてモルモットとしての役目としてまず一つ目
私は正式に彼女の実験体として戻るわけなので実験体らしく肉体改造というわけだ
・・・彼女は丁度実験体がなくなって困っていた
その実験体が誰かは言わなくてもわかると思うけど貴方のことね、湊
彼女は長年にわたって精神疾患の病気を研究してきた
特に統合失調症は未だに解明されていない病気だ
丁度興味があり求めていたところに、そんな存在が急に目の前に現れた。
コイツは絶対に手放したくない。なんとしてでも私のところに留めておきたい
そのためにはまずこっち側の世界へと引き込もう。・・・確かこの少年は有川とかいったか、あの男の息子らしいから簡単にこっちに来れるし続けていけるだろう
そしてそんなにも手間を惜しまず湊を入隊させ、隊長の座にまでランクを上げてやったのに
いきなり治った、などと言われたのだ
ショックだよ、挫折モノだ。折角の研究成果が無駄になる
このままじゃいけない。だが統合失調症でありこの会社にいても生きていけるような人物なんか早々居るはずがない
そうやって悩んでいる時に、私を発見した
その時思いついたらしい。ならば、創ってしまおう。統合失調症の患者を
統合失調症だったとある女性、その病気のせいで病室で自殺してしまった彼女の眼だけならここにある
ならば、この眼を他人に移植したらどうなるのだろうか
視えるのか、それとも視えないのか
「ーーーー・・・と、いうことで私の右目にはその女性の眼が移植されているの。色は元々私と同じ碧眼だったらしいけど、保存ミスなのか気づいたら変色していたらしい。それでも実際にこうやって移植されてもミえているのだから問題はないと思うけど。・・・ここまでで質問ある?」
「・・・確かに疑問はあるが、色々と納得できた」
確かに、コイツが言ってる事が本当なら今までの天音の言動が理解できる
・・・いや、理解には苦しむな。研究者の思考回路なんか理解したくもない
「・・・やっぱり、天音が湊をそういう目で見ていてそういう扱いされていたことにショック?」
「そんなことは最初から解ってんだよ。あの女が実験好きでイカれているってことぐらいは。・・・理屈は通っているし、解るんだけど・・・そんなに実験が好きならどうして自分でやろうと思わなかったんだろうな」
「他人がやるからこそ意味があるんじゃないかな。自分でやったってその自分が視たいって期待しているから、ナニカ適当に視えると思うよ。でもそれだと本当に視えているのか、それとも自己暗示なのかわからない。だから何も知らない人間で試すことにした、と思う」
「・・・こんなモノ、視えても仕方ないのにな」
「貴方にとってはそうかもしれないけど、普通の人間はそれを認知できないからこそ知りたいし視てみたいと思うのは、仕方ないと思う・・・」
「知らないほうがいいことだってあるが、まあいい。それで、移植した結果、視えたのか?」
「・・・・・・・これ、湊が視ているものとは絶対に違うと思うけど、確かに視える様にはなったよ」
「へぇ、なら天音の奴心底喜んだんだろうな」
「ただ、問題が一つあって・・・」
問題?そりゃ問題だらけだろうが
今更問題らしい問題なんてあるわけがない
「細胞記憶って解る?」
「・・・いや、だが言葉だけで考えるに細胞の一つ一つにまである記憶が植えつけられているってことか?」
「そう、脳だけじゃなく全ての細胞にね。このメカニズムは未だに解明されていないけど、この現象は大抵臓器を移植した際に起きるものらしいの。記憶転移とも言うらしい」
「それが、お前に起こったと」
「記憶という確証はないけど、統合失調症で視てきたこの彼女の視界がこの眼に刻み込まれていたんじゃないかな。多分、私が視ているのはそれだと思う」
「なるほどな・・・・」
統合失調症だからって同じものが視える訳がない
俺は俺で感情を視てきたからこそ現実でも視えるようになった
それは俺だからだ。他人は他人で視るもの聞くものは全然違うだろう
その統合失調症だった彼女が何を視ていたのかは解らない。
だけど・・・・・
「お前は、それと一生付き合っていく覚悟があるのか?」
「勿論だよ」
即答した
覚悟は決めてきたのか。それもそうか、そうじゃないとあんなところから戻ってなんて来れるわけがない
「・・・やっぱり、ソヴィは強いな」
「あっ、そういえば私改名したの」
改名・・・考えるに当たり前か
そりゃ本名のまま戻ってきたら色々とおかしいからな
氏名くらい変えるのは当然
辻褄合わせやら情報操作やら、そういうのも含めて整形はやらないにしろ経歴全てを変えたほうが手っ取り早い
出来れば住所も変えておきたいが、まあ後1,2年ぐらいは大丈夫だろう
「なんて名前にしたんだ?」
「有川刹莉」
「ーーーーーー・・・・あ?なんでうちの苗字なんだよ」
「だって・・・・養子になったから」
・・・え、今なんていったコイツ
養子?何処の誰が?
・・・なるほど。コレは夢か
俺はまだそんな場所に留まっていたのか
いや~湊さん冗談キツイっすわ~
・・・・・・・・・
・・・・んなわけねぇか
別にここで夢落ちになったってでもいい気がしてきたが・・・現実は変わらないか
・・・はぁ、そんなこと誰にも聞いてないんだけど聞いてないんだけど
「・・・なんでそんな勝手ことを」
「お母さまと千里ちゃんからは許可いただいたよ?」
「俺の許可は?」
「いただいてないけど・・・駄目、なの?」
うわ、出ました久々の上目使い
今ベッドにソヴィが座っていて椅子に俺が座っているので位置的にはソヴィの方が下だ
それに俺はもうそこまで目線を逸らす必要がなくなったから、若干視てしまった
・・・なんだろう、普通なら可愛いとかドキッとするとか、そういう男性的本能が揺さぶられる場面なのだろうが
俺個人としての感想としては・・・邪悪な顔だ
「・・・いや、いいけどさ。事前に言って欲しかったってのはあるだけで」
「事前に言ったらサプライズにならないじゃない」
「そりゃそうだ。そういえばお前、さっきなんで俺を襲ってきたんだよ」
「え?そりゃあ置いていったことに腹が立ってたから」
「・・・仕方ねぇだろ、大目に見ろよ」
「仕方ないね、でも貴方の顔を見た時むかついたのも確かだから」
ああ、だからトレーニングルームで俺に挑発してきたのか
仮面にフード、その理由はサプライズしたかったから姿を隠し
そんな奴をどうして天音と紗雪、そして陽來が許可したのもソヴィだったのなら解る
特に陽來は既にタッグを組んでいるからな。断る理由はないだろう
「・・・・・ふぅ」
溜息
大体こんなものか、聞いておきたいことは
これ以上聞いても仕方のないことだろう。過去は過去なのだから
「さて、次は私の番だ」
「俺に何か聞いておきたいのか?」
部隊のことだろうか。それとも組織の仕組みとか
確かに色々と教えていかないとな
・・・そういえば、どうして左目を隠しているのかを聞いてなかったな
左目も移植したのなら、統合失調症の幻覚を出来るだけ見ないようにするためなのか?
それほどまでに気持ち悪いものなのだろうか
・・・アドバイスとして、慣れれば可愛く見れるよとか言って置いた方がいいのかな
「真実だよ」
「なんのだよ、俺はもう大抵のことは話したし察しは付くだろ?」
あの会社にいる人間だってことを知っている以上、今までどんなことをしてきたのかぐらい予想できると思うが
まさか、それを話せと?
どんなことをするのかを聞かれたら確かに具体例である俺の過去を話すのは手っ取り早いが
興味本位で聞くものじゃない
「・・・まだ、惚けるつもり?」
「何の話だ?」
その答えに少し、落ち込んだ様子だ
全く、コイツは何を期待しているんだよ
「・・・・・・・・ミーシェの・・・・姉さんの死因だよ」
「ーーーーーーーーーーーーー」
なんで・・・・
「機体の中で話してくれたこと、嘘じゃないけど、本当のことを隠して話したでしょ?」
「・・・・・はぁ?」
「姉さんから聞いた。」
「なに言ってんーーーーー」
「夢の中で姉さんが言ったの。まだ貴女は全ての真実を知らない。勿論この世の全ての真実を知ろうとは思わないよ。姉さんがそういう意味で言ったわけじゃないことぐらい解る。つまり、私の身近で私が関係している中で、まだ真実が隠されているって意味なんだ」
「・・・・・・・」
・・・ミーシェ。お前はやっぱり湊が作り出した妄想じゃなくて
「と、すれば私はずっと過去を思い出し考えた。結論からすると、一番違和感があったのは湊が話してくれた姉さんとの過去だ。・・・ほんの少しだけど、湊君と会話したから解る。愛する人が交通事故で死ぬところを直視した"程度"で彼が引きこもるわけがない。その根拠は湊、貴方の存在だよ。仮にも貴方を内包していた湊君なのだから、根っこの部分じゃ強いはずだよ」
否定、出来なかった
それを否定すれば、有川湊の否定に繋がるからだ
「ーーーーー・・・・聞いて得するようなことなんて何もない」
「それでも知りたい」
「後悔しかない」
「それでも・・・私は知りたい。ううん、知らなくちゃいけないの」
「・・・・・・・」
「湊、貴方はいつもいつも背負いすぎている。そんなことをこの先し続ければ、きっと壊れてしまう。だから・・・それ私に分けて。私は・・・その・・・・・」
少し気恥ずかしそうに口ごもる
「私は、湊の家族だから。確かに身勝手で思い上がりも甚だしいかもしれないけど、貴方はそうは思ってくれていないのかもしれないけど、私は貴方の力になりたい。私は貴方を支えたいの」
その言葉はいつか救出する時に告げた言葉
今のソヴィには確かに湊を支えられるだけの力を身につけてきた
その言葉は・・現実的だ
(・・・家族、か)
家族とはなんなんだろうな
俺には家族は居なかった
母も、父も、千里という妹も、全ては有川湊のモノだ
途中参加の俺としては家族とは思えない
強いて言うなら有川湊こそが唯一の家族だったのだろう
生みの親
それでも会話なんて数回。さらには言い合いしかしていないのだ
家族なんてもの、解るはずがない
なら、一旦家族という間柄は置いておこう
ソヴィという一人の女性
一言で言うなら、コイツは強い
肉体的なことではなく、精神的なところが
この世の苦痛を味わい、そして乗り切ってきた
ならば・・・話しても問題ない、のだろうか
気は進まない。でも、確かに知らなければいけないことなんだろうな
ミーシェは、ソヴィの家族なのだから
家族のことなら知りたい、知っておきたい。例え最早意味がないものでも
・・・なるほど、そういうことか
もし、もしもだ
この話を終えて、ソヴィが立ち直れなくなったらどうする?
・・・いや、愚問か
アイツは俺を支えると言っている
ならば、俺もコイツを支えよう
「・・・そうかい。なら、精々後悔するんだな。」
お前の姉がどういう経緯で死んだのか
何で殺されたのか
何をされたのか
お望み通り全て話してやるよ
最低最悪で、胸糞悪く気持ち悪い人間の所業を
次で・・・




