終止符
4月1日
俗に言うエイプリルフールであり新年度だ
既に3月の時点で俺こと有川湊は諏訪原高校へと戻り、いつも通りの日常を過ごしていた
といっても騒がしいことなんて何一つない。耕哉も海も美樹も如月も悠木も居ない学校
静か過ぎるのが逆に寂しいと思う日が来るとはな・・・
だがそれも3日ぐらいで慣れて、最低限の口数の日常へと戻っていった
美樹はたまに俺の家にやってきては遊んで帰っていく
海と如月も同様だ。お互い部活がないときには帰りに寄って遊んで帰っていく
暇なんだろうか、3年生になったら受験の準備しなければいけないだろうに
・・・・耕哉についてはなにも知らない
来ないし、海も話さないからな
まあいいさ、元々こうするつもりだったから構わない
離れていくならそれを止めはしないさ
さて、話を戻すと4月1日はまだ春休みだ
正式には4月6日から始業であるのでもう少しだけ暇がある
特にすることもないのでPC弄りながら本を読む。いつも通りの休日の過ごし方だ
困っていることも備えることもないからな、暇でしょうがない
そう、いつも通り本を読んでいるその時、不意に机の上においてあるスマフォが着信音と共に震え始めた
手に取り誰からか見てみると
「・・・こんな時間から何の用だ?」
こんな時間とは、午後の1時を指す
『ああ、湊。起きていてくれてよかったよ。この後暇ならちょっと私と一緒に都心の本部へ行きたいのだが・・・どうだろうか?』
着信は天音からだった
なにやら仕事の関係らしいな
・・・トヴァニコフやレツオを捕らえたことは思いのほか好成績だったらしく、それなりに働けている扱いになったらしい
まあ、俺が天音に頼んでソヴィを助けるために無理やり任務って扱いにしてリーダー捕まえただけなのだが
任務ってことにしないと支給品やら部下やらを呼べないからな
ただ働きはさせたくない
ということでこの件は落着しているはずなのだが
「・・・まだこの間の任務について問題でもあるのか?」
『それはないよ。ただまあちょっとね、詳しくは車で説明させてもらおう』
「解った。身支度するから数分待っていてくれ」
そういい残し通話を切る
身支度、なんて大層なものじゃない
ただ上着を着て財布と携帯を持つだけだからな
本部へ入る時はIDカードが必要なのでそれが財布に入っていることをしっかり確認する
すぐさま一階に降り靴を履き外へと出て鍵を閉める
するとすぐそこには見覚えの在る蒼い車が既に駐車していた
助手席に素早く乗り込むと、すぐさま運転席にいる天音はアクセルを踏み移動を開始する
「ーーーーー・・・それで、本部で何かやるのか?」
「具体的なものは打ち合わせとか、ほら新年度になったから今後部隊はどうするかを決めるんだよ。一応1年契約だからね。それと新入生も居るからそのテスト訓練とかを見学して、自分の部隊に招き入れたい子が居ればスカウトするもよし。具体的にはこんな感じかな。勿論全て参加は自由だ」
「なるほどな・・・俺の部隊は今のままでいいんだが、その打ち合わせには顔を出しておいたほうがいいかもしれないな」
「ああ、今後の方針やもしかしたら部隊編成するかもしれないからね。その辺は隊長さん方が決めることだからよく考えたほうがいい」
「了解だ」
簡潔に話しておきたいことを終える
俺が隊長の位になったのは半年以上前だから、知らなかったのだ
・・・というか、事前に連絡ぐらい寄越せよ。なんで黙っていたんだよ上司
やっぱり女の考えることはよく解らん
特にコイツは
「・・・本当は来て貰わなくてもよかったんだがね。君達は昨年度優秀な成績を残してあるから出来るならこのまま放置でいこうという方針だったのだが、君の部隊に入隊したいと希望している新入生が居てね。ならば隊長が来て見極めなければと思ったわけだよ」
・・・ジャストタイミングで説明してきたな
不機嫌な様子を察したのか、基本無表情の俺から
やっぱり敵に回したくない人だ
家から車で約40分
都心の一つのオフィスビルに到着する
車は地下駐車場におき、普通の社員ならこのまま上へとエレベーターで行くのだが
俺たちはエレベーターのカードリーダーにIDカードを通して地下へと向かう
地下といってもほんの2階下だが
地上を一階だとすると今居るのは地下3階
一応ここが俺たちが所属する本部ということになっている
名称はない。強いているなら関東本部ぐらいか
ここはそんなに広くない。最低限の設備しかないからだ
本当に重要で大切な設備しかない。何故ならこのビルが本部全体なので事務関係の仕事は全て地上で行っているからだ
・・・つまり、ここには武器や会議室。そしてトレーニングルームが設置されているぐらいか
娯楽なものはない。強いて言うならシャワー室か休憩室ぐらいか
頻繁に来るところではないからな。それぞれがそれぞれ適した場所で訓練するのがここのルールだ
勿論上官や教官に教わりたいって人がいるならここを使うことになる
説明はこのぐらいか。俺たちは基本的に隠密な組織だからな
重要なモノは全て別々の場所にあったりバックアップを取っておいたりしてあるのでセキリュティはそこまで重要じゃない
代わりはいくらでも在る。ということだ
さて、この組織についての説明はこのぐらいでいいだろう
語ることはそんなに多くないからな。とりあえず武力があるということだけだ
こんな場所、海外ならいくらでもある。日本は軍事力を持たないからこそこんなにもコソコソとしなければいけないだけだからな
何故出来たのかとか何人居るとか細々とした説明は省かせてもらう
知らないからな。気づけばそこにあったとしかいえない
俺は天音のスカウトがあったからこそ居るだけで、他の連中がどういう方法で入隊してくるのかなんて知らないし興味ない
やるべきことは変わらないからな
さて、会議室での内容はさして俺には関係なかったことばかりだった
費用や設備。新入生のパラメーターの確認。昨年度にやりのこした仕事はないかとか、まあ確認が殆んどだったな
「ーーー・・・・重要そうなことあったかい?」
会議室を出て休憩所へ行こうとすると後ろから天音に声掛けられた
「いいや、特になかったな」
足を止める必要も無いのでこのまま歩きながら会話する
後ろからだと違和感あるようだったので天音は俺と並列し会話する
「ならこの後は新入生との面談だな。個人のパラメーターのファイルは持っているな?君のところに入隊したい人数は・・・・」
「いや、いい。俺は今のままがいいんだ」
今の少数精鋭を崩したくないからな
今が丁度バランスがいい
「・・・だがこれから君のところには大きなミッションも来るだろう。その時人数が足りない時どうする?確かに君達は強いが数が少ないとは思わないのか?」
「確かにそうだがな・・・まあ、あいつらと連携できるぐらいの能力が在る奴が入隊を希望しているのなら考えておくか」
「そこが妥協点か、よしわかった。・・・ああ、今更ながら急に呼んでしまってすまないね。飲み物ぐらい奢ろう。何がいい?」
気づけば休憩所の自販機がすぐ近くだ
「ならブラックコーヒーをお願いしようか。今若干眠いんだよ」
「解った。・・・そういえば、本当にもう視えなくなったのかい?夢にも出てこなくなったと」
「ああ、まあ大体そんな感じだ。とにかくもう日常生活を送るのに支障がないくらいには治まったよ。まあ、視ようとすれば視えるんだがな」
畸形については大雑把なことを話してある。仮にも主治医だからな
詳しくは俺にもわからないが、いい方向へと変化したことだけは解る
「・・・そうか。残念だ」
「それはどういうーーーーーー」
「あっ、隊長。それに天さんまで」
休憩所のソファに横になっていたので気づかなかったが、そこには雪が居た
「雪・・・いや、今は紗雪って読んだほうがいいか。こんなところで何してんだ?」
雪こと、本名は忽那紗雪という
「武器の調整のついでにトレーニング。新年度になりましたから一度見て置こうかと」
「家じゃ出来ないのか?」
「私、実家暮らしなのでちょっと難しいですね・・・」
苦笑いしながら言う
「・・・お前、何歳だっけ?少なくても俺より年上で社会人だよな。親離れしようぜ・・・」
「いやっ!私だって一人暮らししたいですよ!?だけど、親がちょっと過保護なんで出来ないだけです」
「お前も苦労してるんだな。」
「苦労していない人間がこの会社に居るわけないじゃないですか。・・・まあ、親は彼氏か夫が出来たら一人暮らしOK出してくれるんですが・・・・・」
右手を顎に添え悩む紗雪。するとゆっくり俺の方を視てきて
「・・・隊長、いや湊君。私の彼氏になってくれなーーーーー」
「お断りします。それじゃあもう時間なので行きますね。さようなら」
丁重にお断りした後すぐさま離れようと歩き始める
「最後まで言わせてよ?いいじゃん湊君一人暮らしなんだからさぁ・・・少しの間住まわせてよぉ」
「いや、ふざけるのも大概にしろよ?その容姿なんだから彼氏の一人や二人作れるだろ・・・」
「う~ん、確かに彼氏は作れるけどやっぱり将来を見越しておきたいってのものあるのよ。・・・ほら、私達こういう仕事してるからさ、出来れば同業者と付き合いたいわけですよ」
「・・・確かに、一理あるな」
こんな仕事、一般人じゃ受け入れてもらえないのも確かだ
「ーーーー・・・だからうちの会社は定期的に合コンを開催しているんじゃないか。ほら湊」
紗雪と話している間に自販機から缶コーヒー買って来てくれたらしい
だが異様に長くなかったか?自分の選ぶのに迷っていたのか、天音は
「ああ、ありがと・・・・その合コンで好みの奴探せよ。いるだろ一人くらい」
「付き合うんならガタイというか顔よりまず身体を気にするかな。ムッキムキは嫌い。逆に細くてそれなりに筋肉がある人が好み」
「いやお前の好みとか聞いてないから」
「でもねぇ、確かにそういう人は多いよ。多いんだけどさぁ・・・」
「性格は特に気をつけたほうがいいぞ。どの連中も猫被っている奴等ばかりだ。だからこの会社の男どもは信用出来ない・・・」
天音が注意点を紗雪に話していたらいつの間にか愚痴を言っている
婚期逃したのか?・・・深くは関わらないでおこう
「・・・あー性格はあまり重視していなかった。今度から気をつけます、はい。それで話は戻るけど、そういう奴に限って私より弱いんだよ。そこが難点なんだよねぇ」
「なるほど、接近戦を得意とするお前だからこそそこに拘るのか。それだとかなり厳しいんじゃないか?少しは多めに見てやれよ」
「・・・・湊君が居るから拘ってるんじゃない」
「何でそこで俺が・・・」
「今言った条件に当てはまっている存在が目の前にいるから妥協できないんじゃない!」
「そんな切れ気味で言われても困る」
「だからぁ・・・ね?付き合いません?この際結婚までとは言わないけど夜悲しい悲しい独り身の私を慰めてくれるだけでいいからさ」
「自分の身体ぐらい大切に・・・いや、かなり大切にしているか」
さっきの条件。つまりは見た目普通で紗雪を斃せる奴ってことだ
・・・紗雪を斃せる奴とか、早々居ないだろ。タイマンで近接戦なら特に
ジリジリと俺の方へ歩み寄ってくる紗雪。危機感を覚えた俺はすぐに離脱できるよう足を後退させる
がーーーーーーー
「はいそこまで。そろそろ時間だからトレーニングルーム、いやブリーフィングルームに行こうか。紗雪も来るかい?どうせ暇だろう。湊の部隊に入りたいと言っている新入生を一緒に見極めようか」
「あっ、そうか今日だったのね。解った、なら付いてくよ」
・・・まあ、もう言わなくても解るだろうが紗雪の特徴としてはこの性格だ
任務の時は真剣なのにいざプライベートになるとかなり羽目を外す
いつもは陽こと纐纈陽來が相手しているのだが・・・
肝心な時にはいつもいない
ということで3人でブリーフィングルームへ向かう
まあ軽い面接みたいなものだ
試験官が俺たちで入社希望が新入生
別に俺たちがその新入生を落としたからってそのままさようならするわけではなく、本来与えられるべき仕事に就くことになっている
あくまで希望なのだからな。入社試験は終えている
ブリーフィングルームに着きその扉を開く。すると既に約10人近い新入生諸君が綺麗に並んで立っていた
年齢も性別も皆バラバラ。若い奴もいれば中年も居る。中年は恐らく新入生じゃないだろうが、なにも新入生のみってわけじゃないからな。この組織に入社していてその部隊に入りたいと希望している人間なら面談は可能だ
本来ならこのまま設置されている椅子とテーブルに座り面談を始めるのだが・・・
折角紗雪がいるんだ。使う手はない
「・・・・お前たち、今すぐトレーニングルームへ来い。そこで面談を行う」
そう言い残して俺はすぐに扉を閉めトレーニングルームへと向かう
その後に天音と紗雪が追ってきているのが解った
「まさか実技で決めるの?」
紗雪が当然の質問をしてきた
「ああ、折角お前がいるからな。利用しない手はないだろ」
「・・・えっ私なの?」
「確かに、近接戦を得意とする紗雪相手にどれぐらい戦えるかは見ものだな。考えたな、湊」
「面談だからな。それに実力がない奴が居ても邪魔なだけだろ。紗雪、お前に決定権をやる。お前が認めた奴だけ入隊を考えてやるからそのつもりで」
「・・・・私が認めなかった人達は?」
「不合格。履歴書落ち。面談はなしってことで。・・・ああ、勿論全員落としてもいいからな」
「了解。それで・・・報酬は?まさかタダ働きさせるつもりじゃないでしょうね?」
「・・・・・あー」
やっぱり気づいたか
このまま黙って従っていてくれれば楽だったのに
流石に抜け目がないな
「タダ働きは厳禁。これ社訓ね」
天音が余計なことを言ってくれたおかげでその報酬とやらを考えなければいけなくなったぞおい
「・・・・個人的なものだから経費から落とすわけにも行かないし・・・参考程度に聞くが、何か欲しいものでもあるか?」
「貴方」
即答しやがった
さっきまであんな会話していたからか、クソ
「・・・・割に合わないな。お前の身体が高いように俺の体も高いんでね。・・・そうだ、なら今度飯奢ってやる。それで丁度いいだろう
「えー、まあ解ったよそれで」
よっし!
飯奢ってやるといってもその時は勿論二人きりじゃないがな
色々と理由つけて部下であるアイツら全員巻き込んでやる
コイツと二人きりとか、危なすぎる
「皆、揃ったな。じゃあ今から試験的なものを行う。といっても単純だ、コイツを斃せ。以上」
「「「・・・・・・・・・・・」」」
一同ポカーンとした間抜け面をしてやがる
といっても全員の顔が見れるわけではないが
フード被っている奴も居ればグラサン掛けている奴もいるし、ましてや仮面つけている奴もいる
まあ、個性的なのは結構だがここ舞踏会だっけ?と錯覚してしまうぐらいには皆個性的だ
「・・・・どうした?こいつこと俺たちの部隊の特攻隊長、雪を斃してみろ。といっても武器の使用は無しだ。素手で、近接戦闘のみ。・・・忠告しておくと、殺すつもりでやれよ?女だからって手加減されるの嫌いだからな、コイツ」
はい始め!!
と、いうことで割愛させてもらおう
何で?いやだって結果は明白だからだ
「・・・・グァッ!!」
「今ので何人目?」
「11人目かな。・・・そういえば、中には私みたいな尋問専門とか月みたいなサポート専門の志望者が居たらどうするんだい?」
「その場合でも、最低限の力量がなければ信頼できないな」
「月とは戦ってみたのかい?というか、私ですら彼女の正体は謎なんだが・・・」
「・・・実は俺も直接会ったことは無い。声だけだな。変声期とか使ってないと思うからアレが地声だと思うんだが、それ以外さっぱりだ。PC関係に強いから何かと自分の情報が漏れるのを警戒しているんじゃないか?それはそれで構わないがな。実績残しているし」
そう、声だけしか解らない。女だということしかわからない
家も解らない。姿も解らない。何もかも謎のサポーター
それでも信頼できる程の腕を持っているのだから凄い
「隊長がそういうのなら信じよう・・・さて、今ので12人目が終わったようだ」
「・・・次で最後か」
12人目まで、まあしぶとい奴もいたがそれも人並みだったので落胆
解っていたことだが、やっぱり近接戦の技術力は飛びぬけて凄いな
何が凄いかっていうとその動きの殆んどが独特なアレンジが加えられている分、どこから来るのかがわからないからだ
相手にしたくないのはコイツも一緒だな
敵になってタイマンで勝てるかどうか・・・
「次も中々の変わり者だな。仮面にフード、なるべく姿は隠しておきたいようだね。これじゃあ流石に私も読み取れないな」
「間違った服装じゃねぇだろ。顔を晒していれば表情から行動を読み取られる。身体がむき出しだと次の行動が予測される。それを隠してきているんだからな、アイツはこうなることを予想してきたのかもしれない」
「だったら一番の有力候補なんじゃないか?」
「そうだ・・・・・・・・ん?」
そうだな、と言おうとしたがそれが出来なかった
何故なら、そのフード仮面が俺の方へ歩み寄り
「・・・・・・・・・」
あろうことか手招きで挑発してきたのだ
・・・一応、上官なんだけどね、俺
「お前の相手は俺じゃない、そこの女を倒してから出直して来い・・・まったく」
座っていた大勢から立ち上がり、出口へ向かう
「何処へ行く?」
「帰る。もう用はないからな。後のことは天音、お前が適当にやっておいてくれ」
そういい残してこの場から立ち去る
時間は・・・・・
気づけばもう16時じゃないか
時間はあっという間に過ぎていくな
その大切な時間を無駄にしないように、今日は今すぐ帰って夕食の支度しよう
・・・ああ、そうだ。天音を置いてきたから車じゃ帰れなくなったんだ
帰るにはやっぱり最寄り駅を使うしかないか
帰宅して夕食食べて、テレビを眺める
テレビを眺めるのが飽きたらゲームする
ゲームも飽きたなら自室に戻り読書する
そんなことを毎日続けている
今までと何も変わらない、そんな生活こそがなにより愛おしい
さて、本を読んでいると没頭しすぎて他のことが二の次になってしまう
チラッと時間を見る。すると既に20時を回っていた
・・・やっぱ早いな。時間過ぎるの
趣味に没頭している時は時間が遅く感じ、暇を持て余している時は速く感じるらしい
つまりは、まあ俺の場合後者なんだろうな
「・・・・外にでも行くか」
気晴らしに外にでも行って数十メートル先にある自販機でジュースでも買って帰ろう
この距離なら歩きでいいだろう。トレーニングにもなるからな
4月、つまりは春だ。そんな新春だがまだ夜は肌寒い時がある
少し集めの上着を着て外へと向かう
(・・・・そういえば新入生の結果聞いてないな。まあ全員落ちたんだろうけど)
今更他の人員は必要ない。適材適所、俺たちは少数精鋭で頑張らせてもらうことにしよう
歩く、歩く、歩く。歩き続ける
静寂な夜を一人歩く
こうも一人だと色々と考えてしまうな
今までのこと、これからのこと
今年度が最後の学生時代だ
といってもそれで感慨に耽るほど乙女チックな脳内はしていない
ただ、なんだろうな。この気持ち
心残りは在る。在りすぎる
でもそれは仕方のないことだ。真実を告げることほど酷なことはない
言う方も、言われるほうも
(・・・やめだやめ。これからのことを考えよう)
指し当たって就職か、それとも進学か
進学でもいいのだが、今の時点で既に就職しているようなものだし年収も変わらないから進学しても意味がない
むしろ面倒事が増えるだけじゃないかと思うくらいには
選択は自由だが、その後は不自由なものだな
一応進学校だし、その辺の大学にでも学籍残しておくか
・・・まあ、あの仕事から離れることなんか今更出来ないと思うが
辞める時は定年か、それとも記憶喪失になるか
記憶喪失はもう厭なので諦めて定年退職かな。卒業したら正式に入社して
そういえば、もう一つ辞めれる時が
死亡
つまりは脳死かあの場所へと行くこと
俺はもう条件クリアしていると思うからいつでもあの場所で過ごせるので一応気楽といえば気楽だ
それに、あそこにはアイツも居るからな
退屈はしないだろう
そんなことを考えているうちに自販機に辿り着き、目当てのジュースを買って帰宅する
ーーーーーピピピピッ
ここの道を右に曲がって左に曲がれば家に着く時に、電子音がポケットから鳴り響く
恐らくは電話だろうが、こんな時間に誰だ?
すかさずポケットから携帯電話を取り出し画面を見ると、予想の範囲内である人物の名前が表示されていた
「・・・・天音か、こんな時間にどうした?」
『済まないねこんな時間に。一応新入生の報告をしておこうかと思ってね』
「丁度聞きたかったからかまわねえよ。・・・それで、結果的にはどうだった?」
『私と紗雪、それから時雨も居たので話し合って決めたよ』
時雨
雨の名前で本名は勅使河原時雨
『・・・私達が揃って許可したのは最後の仮面フードだ。・・・紗雪がギリギリで負けそうになったからな』
「・・・は?」
『負けそう、というか実質引き分けのようなものだったかな。とにかくいい試合だったよ』
「まあ、お前たちがいいならそれで構わないが」
『それでその仮面フードの希望で、君と一度戦ってみたいらしいのだが・・・』
「そうだな、なら明日辺りそっちに・・・」
『いやーーーーーー』
と、ここで通話が唐突に切れてしまう
何だ?と思った瞬間
ーーーーーーーーーーーー刹那
「ーーーーーーーーッッ!!!」
左に曲がればすぐそこに家がある
その曲がり角でーーーーーー
「今ここで戦いたいらしい」
曲がり角の先、俺の家の前に駐車されている蒼い車に寄りかかっている天音がそう告げた
その仮面フードが下した一閃を間一髪で避ける
「ーーーー・・・チッ!おいここは市街地だぞ。場所を弁えろよ不審者」
「・・・・・」
あくまで無言か
よくこんな奴をあいつらは許可したものだ
「ならお互い一撃で決めたらいい。その方が早いだろ?」
鼻からそのつもりだ、このアマ
十分に距離を取り、臨戦態勢の姿勢になる
・・・・思考
・・・・予測
・・・・集中
・・・・決断
(・・・いや・・・なるほど。)
ジリジリとお互い距離を詰める
ほんの数ミリ、ほんの数センチ
そして・・・・
「ーーーーーーーーーーーーーーー」
・・・・一瞬にして決着
言われたとおり一瞬で決着が付く
結果
仮面フードの拳が湊の顔に当たるか当たらないかの寸止めにあり
湊は・・・・・・
「・・・はぁ」
何もしなかった
ただ立っているだけだった
何故なら、する必要がないからだ
「・・・・・何故何もしなかった?」
最大の疑問点を天音が質問する。
「する必要がないからだ。・・・なんせコイツ、殺気も覇気も勝つ気もねぇんだからな」
そう、何も感じなかった
畸形という感情を視てしまう俺の特殊能力という中二病設定でもなにも感じなかった
治ったわけではなく、今のように集中すれば未だに他人の感情を読み取ることが出来るからな
故に何もしなかった
やる気がないといえばいいだろう
最初の不意の一撃は本物だった
だが、今のコイツにそんなものは微塵も感じない
「どういうつもりだ、お前?戦いたいんじゃなかったのか?」
仮面フードは拳を下ろしチラッと後ろを向く
・・・天音と何かあるのか?
「ーーーー・・・なるほど。そういう演出が好みか。解った・・・湊、少し家に入っていてくれないか?何、すぐに用は済む」
「・・・・元々そのつもりだったんだよ。邪魔してきたのはそっちだろうが」
「ああそうだ。済まないと思っているよ」
ホントに思ってんのか、コイツ
まあいい。帰ってもいいなら帰らせてもらおう
一応、この不審者を警戒しながらな
(・・・・・結局、何がしたかったんだ?)
やっぱりよく解らんな、女って奴は
自分の家の扉を開け、すぐに家に入る
靴を脱ぎ、二階にある自室に向かおうとした時
唐突インターホンが鳴り響く
ーーーーーーーーもう、気づいているんだろう?
流石にアイツらだということはわかっているため躊躇なく扉を開けようとする
ーーーーーーーー隠す必要なんかない。見て見ぬフリをする必要もない
どうしてあの不審者が俺を襲ったのかを訳を聞かないとな、これから俺の部隊に入るっていうのにこのままだと気持ち悪い
ーーーーーーーー助ける必要も、置いていく必要も無くなった
こんな奴を他の隊員が許可するだろうか・・・解らないな。あいつらも気まぐれで個性的だから
ーーーーーーーーさっきの天音の言葉を思い出せ。そう、演出は大事だ。だから再現しよう。そうあの時は確か・・・
そして、思いっきり玄関の引戸を開ける
「はいどちらさまで--------」
ーーーーーーーーもう一度、始められる。もう一度チャンスがある。だから、今度こそ俺は俺の真意に正直に生きていこう。それに、女に慰められるのは一生に1回だけで十分だからな
「・・・・帰って来たわ。湊」
「・・・ああ、そうだな。ここが、お前の居場所だ。」
エイプリルフールだからって、この事象が、この視界が嘘じゃないことを俺は願う
お互い、何もかも変わり再開した
それはいい方向に変わったのだと断言できる
・・・なるほど。
俺は今、ようやく普通になれたのか
一応これで本編は終了
この後は後日談という形式になると思う
色々と伏線残したままだから、その説明を




