真意
有川湊の諦めと妥協の良さは異常である
常人なら諦めても、妥協しても何かしら引っ張ってしまう
その引っ張りこそ後悔だ
あの時ああすればよかった。この時そういえばよかった
妥協してよかったのか、諦めてよかったのか
そんな思考を数秒数分数時間考えるのが常人だ
だが、有川湊はそれをしない。しようとも思っていない
過去は過去だ。その時最善を尽くした結果だということに自信があるからこその思考回路
だから今までそう生きてきた
勝手に家でクリパされた時も、ソヴィが途方に暮れていた時も、美樹が大事だからこそ切り離した時も
ーーーーーーーーソヴィをあの場所に置いていった時も
ーーーーーーーー父親を殺した時も
いつだってその時その瞬間に考え、結果妥協でも諦めでもそれが最善だったと言えるからこその行動だ
合理的で現実的で、感情的な判断
この三つのどれを優先すべきか
勝手にクリパされた時は現実的な判断を
ソヴィが途方に暮れていた時は感情的な判断を
美樹の時は感情的で現実的な判断を
・・・ソヴィを置いていった時は合理的で現実的な判断を
父を殺した時も同じだ
こと生死に関わることならば、有川湊は合理的で現実的な判断を下す傾向がある
感情的な部分は一切なくして
冷徹で無情で、決断する
決断しなければ、いけない
何故なら、そうしなければいけないのが現実なのだから
ーーーー・・・ゴッ!!!
殴られた時の効果音はこれで合っているかは解らないが
現状としては殴られたのだ
耕哉に、思いっきり、容赦なく
さて、それまでの過程を話そうか
ソヴィを置いていった後、俺は普通に帰国して自宅へ帰ってきた
そしていつも通り九条峰の学校へと向かう
教室に入ると、教室内の生徒全員が俺に問い詰めてきた
ソヴィとレツオの生死についてだ
昨日の朝のHRで死んだことを先生から伝えられたらしい
どうやらその生死を確かめるべくソヴィの家、つまりは俺の家に昨日行ったのだが、その家には誰も居なかった
レツオの家も同様に
当たり前だ、昨日まで俺は国外に居たのだから
昨日帰ってきたときには深夜だ
俺の家に住んでいたことは悠木と如月にはバレていたから知ったのだろう
本当に死んだのか?何で死んだのか?どういうことなんだ?テロに逢ったって本当?
どうやら情報操作でテロに巻き込まれてレツオとソヴィは死んだことになっている
だから、俺は"真実"を告げた
「ーーー・・・死んだというのは語弊がある。行方不明が適切だ。何せ遺体が見つかってないからな。だが死んでいる確率が高いため国はそう判断したらしい。・・・・これで、満足か?」
生徒達は一斉に黙った
そしてすぐに騒ぎ始める
泣き崩れる生徒も見受けられた
動揺を隠せるない、現実を認めたくない。そんな顔を皆がしている
俺はその人ごみを押しのけ自分の席に座る
黒板の方へ向くと、耕哉と海、そして美樹は黙って自分の席に座っていた
そして、放課後
俺はいつも通り帰宅する
いつも通り帰宅しているはずだが、家が見えてきた距離でいつも通りじゃない現象を確認できた
耕哉と海と美樹が、俺の家の前に居た
海は座り、美樹は壁に寄り添って、耕哉は佇んでいる
俺はそれに近づく。というか家に帰るためには近づかなければいけないのだが
そして十分近づいたところ、思いっきり耕哉に殴られたのだ
十分避けれたのだが、その拳が何を意味するかを感覚的に理解してしまったため避けれなかった
「・・・ソヴィさんはどうした」
「言っただろう、もういないんだよ」
「この二人には話した。だから本当のことを言ってくれ。君は助けに言ったんじゃなかったのか!?俺達の日常にはもう必要不可欠な存在なんだって言ったのは君だろう?どうしてその存在が居ない!?」
そう、だな。お前の怒りは最もだよ
当然だ。あれだけ言っておいて俺はアイツを連れてこなかったんだから
だが・・・・
「だが、こうも言ったはずだ。俺達が満足のいく別れ方で終わらせたい、と。俺はこれで満足しているんだよ」
「そんなことーーーーー」
「なんせ、これはアイツが望んだ事なんだからな。そして俺もそれを聞き入れた。それだけだ」
「彼女自身が、死を望んだのか?」
「・・・いいや」
「ならなんでーーーーーー」
「そのくらいでいいだろ。もう十分だろ耕哉」
海がいつになく凛々しい声で耕哉を制止する
「湊、オレはお前の事情を知らない。お前がどういうことをしてきたのかなんて解らない。・・・・でもお前にはソヴィトヴィーニアを生かせる"力"があった。違うか?」
「・・・・・・・」
「そして俺たちは無力だった。つまりは口出しすら出来ない立場なんだよ、俺たちは。だから偉そうなことを言うつもりはないよ。でもーーーーーーー」
でもさ、と言葉を繋げる
「オレはお前が友達思いなのを知っている。そんなお前が見す見すソヴィトヴィーニアを死なせるわけがない。・・・オレは今でもそう信じているし、信じることにするよ」
そういい残し、海は自分の家の方角へと歩き始めた
「・・・ッ」
耕哉も俺の横を素通りし、無言で帰っていった
その顔は後悔と怒りで歪められているように見えた
「・・・はぁ」
小さく溜息をする
するとーーーーー
ガラガラガラッ
と自分の家の扉が開く音がしたのだ。すぐさま自分の家を見る
すると美樹が勝手に俺の家へズカズカと入っていくではないか
「おいおい・・・」
アイツは何がしたいんだ?
普通空気を読んで帰る場面じゃないのか?
すぐさま後を追う、すると無断で二階へ上がっていく
(なんなんだよ、おい)
あいつのしたいことが全然解らない
解らないから、それを確かめるべく俺もすぐに二階へと駆け上がる
そして・・・
「・・・・ソヴィの部屋は、そのままなのね」
ソヴィの部屋を開け、その中を見ていた
「少し散らかっている様だけど、物色したの?いやらしい」
「・・・そんなつもりじゃねえよ」
「そうだね、貴方はそういう人じゃない。意味の無いことはしない。いつだって余計なことをしなくて、ただやるべきことを効率よくこなしている。・・・それが、私の知っている有川湊」
「・・・・・・・」
無言にならざるを得なかった
黙って聞くしかなかった
反論するところなんてないのだから
「・・・ねぇ、さっきの光景さ、昔を思い出さない?ほら、私と貴方が別れた日のあの病室の時。私も激動に任せちゃったから何も口出せなかったよ」
フフ、と美樹は自分を嘲笑う
「似ているよね、結構。そう思わない?」
「・・・確かな。さっきのでお前ら本当に兄妹なんじゃないかって思ったくらいには」
「血は一応繋がっているからね。そういう家系だったんじゃないかしら?」
「なるほど」
「・・・そう、似ているんだよ。あの時と。貴方が私のためを思ってあんなことを言った時と。・・・・・ねぇ、湊。これは応えなくてもいい質問なんだけど」
部屋を見ていた体勢から振り向き、俺と向き合う
「貴方、心の何処かでソヴィが帰ってくるのを待ってるでしょ?」
「・・・・・・」
俺は言われたとおり応えない
いや、答えれない
答えがわからないからだ
だが、どうだろう
そう言われると確かにそんな気がしてしまう
アイツをあんな場所に置いてきた、それが正しい、それが現実なんだと受け入れていても
誰もあの場所から帰ってきたことがないにも関わらず
アイツは、帰ってくるんじゃないかとふいに思う
・・・いや、思うじゃない
そう確信があったから、俺は置いてきたんだ
アイツならこのぐらいの壁踏み台にする
アイツならこのぐらいの逆境乗り越える
そんな、確信が俺のどこかにあった
だって、そうだろ?
なんせアイツは・・・・
俺以上に強い女で・・・・・
俺の家族なんだからな・・・・
「ーーー・・・ハハ」
笑える、すげぇ笑える
なに思ってんだ俺、バカじゃねえの?
たった数ヶ月程度一緒に暮らしただけで家族だとか
俺はそんなメルヘンな男だったか?
頭可笑しいレベルだ
・・・でも、だ
俺とアイツの関係を言ってみろと言われたら
家族だ、と。そう表現したほうが一番しっくりくるのも事実なんだ
弱かったから強さを求めたこと
心はいつも孤独だったこと
考え方や生い立ちが俺と似ていて、全然似ていない
だからだろうか、人並み以上にアイツには親近感を持てる
ミーシェの妹だからじゃない。そもそもミーシェに妹がいたことなんて知らなかったのだから
だから、まあつまりは
他人事とは思えない
好きだからとか、愛しているとかじゃない
俺は、アイツが家族だから必要以上に助けてしまう
アイツがどう思っているかなんて知らないが
「・・・失って、初めて気づくこともあるんだよ」
そんなことを考えている俺に美樹はそう言う
今の俺にはなんて適切な言葉だ
「湊、自分のベッドに座りなさい」
・・・急になに言ってんだコイツは、未だによく解らないな
「なんでだよ」
「いいから」
まあ、断る理由もそんなに見つからないので言う通りにする
そういえば部屋ロクに掃除していなかったな
近いうちに掃除して置かないと埃が溜まっちまうな
・・・そんな、どうでもいいことを考えてしまう
つまり、今の俺にはそんなどうでもいいことを考えれる余裕を持っていることだ
さっきまで何も考えたくなかったのにな
「・・・それでよし」
俺が自分の部屋を開けてベッドに座る様をみて満足し、そのまま俺に近づいてくる
一瞬このまま蹴られるんじゃないかと思い身構えてしまったが
ーーーーーーーその逆だった
そのまま、両手で俺の頭を包み抱きしめた
この体勢なので、丁度俺の頭が美樹の胸に当たってしまう
いや、そうしたのだろう。じゃなければわざわざベッドに座ってなんていわない
「・・・お疲れ様。そして、ありがとう」
頭の上で美樹がそう呟く
抱きしめられ、包み込まれ、労われ、感謝される
・・・・ああ、クリパの時は俺が抱きしめて、謝られて感謝されたんだっけか
ついほんの数週間前のことなのに、随分と昔のように感じるな
・・・そしてなにより、暖かいそのぬくもりがとても居心地がいい
慰めじゃなくて労い感謝する辺り美樹らしいな
なんだかんだで、やっぱり俺は美樹を含めお前たちともっと遊んでいたかったんだな
つい黄昏れてしまう
黄昏れる前にその言動にお礼を返しておこう
俺も、美樹の身体を優しく抱きしめる
お前のおかげで俺自身の真意に気づけたよ
アレだけ自問自答を繰り返しておきながらこんな単純なことに気づけなかった
結果を妥協しても、諦めても、それでも俺はソヴィが帰ってくるだろうと思える
現実的で合理的な判断を下したと思っていたが、その裏で感情的になっていた
そんな自分が確かに存在するんだと
そう気づかせてくれるきっかけくれたのはお前だ
だから、今までにないくらいの感謝を込めて
「・・・ああ、こちらこそありがとな」
数話か次で終わります




