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シゾフレニア  作者: 民音慧可
第一部 空想上の物語
33/74

迷わない

目が覚めた瞬間理解した


喪失感。この感覚は昔味わったことが在る


ああ、そうだ。姉が死んだ時だ


当たり前の存在が次の瞬間当たり前でなくなること


今、そんな感覚に覆われている


(ーーーーーーーああ、もう)


だけど確かめなくては成らない。


寝る瞬間の不安と、起きた時の喪失感


リビングに入る。すると台所で父が調理している


日が昇ったばかりで寒いのに心地いい


「・・・・ん?ああ、ソヴィ起きたか。もうすぐ飯が出来るから待っていろ」


ああ、その言葉はいつ振りだろうか


ほんの数ヶ月ぶりなのにも関わらず数年ぶりに感じた


「父さん・・・」


嬉しいはずなのに、喜んでいるはずなのに


私は今、途轍もなく不快で気持ち悪い


「何だ?」


「・・・・・湊は?」


椅子に掛けてある黒いコートを見る


それは湊が羽織っていたものに間違いない


因みに私が着てきた白いコートはさっきの部屋に置いてある


「彼はどこにいったの?この家の中には居なさそうだけど」


「・・・・・・・・」


黙秘、か


つまりは、そういうことなんだね


それでも、やっぱり確かめなくちゃいけない


曖昧なまま放置するのはいやだから


「少し、外の空気吸ってくるね」


「・・・ああ」


外のドアを開ける。そこには白銀に煌く世界が広がっていた


一面雪だ。朝日で溶け掛かっている故にその景色は美しい


だが、私はそんなこと気にせず疾走する


ここまで来たと思われる道を走る


目的の場所はあの戦闘機の場所だ


走る、走る、走る。走り抜ける


・・・・走り続けて10分は経過しただろう


それなのに


(・・・辿り、着かない)


一本道だったはずだ、間違ってないはずだ


なのに辿り着かない


これ以上一直線に走っても逆に危険だ


ならば今度はこの辺りを探してみよう


滑走路があったはずだ、コンクリートの滑走路が


それを探そう、方向は間違ってないはずだ。合ってるはずなんだ


・・・・・・・なのに、どうして見つからない


よく、考えてみろ。あの暗闇だ。あの吹雪だ。方向感覚なんて意味を成さないあの夜


ならばむしろ、私の勘は期待しないようにしよう


(・・・そうだ、この村の人間なら知っているんじゃないか?)


そう思い立ち、すぐさま行動に移す。そしてすぐに第一村人発見する


こちらも父と同じくらいガタイのいい大男だ


ここがどこの国で、どの場所にあるかは解らない


だから万国共通語である英語で語りかける


語りかけようとしたが、


(待て、あの夜のあの視線の持つ主は間違いなくこの村の人間だ。下手に声を掛けていいものだろうか)


危険、じゃなくても用心はしたほうがいいだろう


そう言い留まっていたが


「ーーー男なら、むこうの方角へ行った」


「・・・・・え?」


いきなり声を出し、あろうことか私の知りたいことを教えてくれた


指した指先は私が探していた方向とは真逆のものだ


だがこれで方角は解った


「あ、ありがとうございますっ!」


とにかく簡潔に礼を言い、男が指差す方角へと走る


嘘でもよかった、間違いでもよかった


どの道これでーーーー


「ーーーーー・・・あった」


林を抜けた先に、滑走路の先端を見つけた


その先端部分へと歩き、確かめる


足で踏んで解る。確かにコンクリートだ


ここで間違いないだろう。むしろここ以外ないだろう


距離にして百メートル以上か。そのぐらいある道が左側に存在している


だが・・・・・


「ーーーーー・・・・・やっぱり、行っちゃったんだね」


そのコンクリート上には、何も無かった


あるはずの戦闘機が無かった


つまり、私はここに置き去りにされたのだ


・・・・・薄々気づいていた。目が覚めたときから、寝る瞬間から


だってよく考えてみてよ


3日も4日も拉致されていたのに、目立つホテルに居たのにも関わらず


何も音沙汰は無かったのだ。


そう、考えられる可能性。それは私が既に死んでいるからだ


ソヴィトヴィーニアという女は、もう社会上存在しないということだ


といってもまだこれだけでは私が本当に死んでいることになっているのかなんて確証がない


だけど、何故父がここにいるのか


ここはどんな場所なのか


何故湊は置いていったのか


それは、つまりーーーーーーー


「ーーーー・・・ここは、何らかの理由で社会的に抹殺された人達が、抹殺されかけた人達が行き着く終着点。外界から隔絶されひっそりと穏かに後生を過ごす場所。・・・・・・そうでしょ、ヴェルニクス」


気配を消して追ってきていたのだろうが、それをやめて私の後ろの林からゆっくりと歩き出る


父を名前で呼んだのには深い理由は無い。ただ、もう私の父は、家族は死んでいるのだから。私の家族はいないのだからという事実を受け止めるためにとった言語だ


こう仮定すれば、全てがつながる


そう思った。そう思わざるを得なかった


考えたくなんか、なかったけど


「・・・・・・・・」


無言。沈黙。それは即ち肯定を意味する


「そうだとしたらーーーーーーー」




"私は既に死んでいる"







社会というものから切り離された存在に成り果てている


それならば全てに納得できる


突き刺さる視線。それは恐怖から来たものだ


もしかしたらこの村の中で社会に、祖国に裏切られたモノもいたのだろう


それがトラウマで自分以外を信じることが出来なくなった。


全てに敵対心を向ける。誰であろうと油断しない。


そんな意味が読み取れるものだった


そして父がここに居る理由も、ここがそういう場所だというのなら納得できる


そして、私がここに居る理由も・・・・


「・・・この場所にはいくつか条件が必要なんだね。それを、教えてくれるかしら?」


「ーーー・・・まさか、お前がそこまですぐに辿り着くとは思わなかったよ。」


苦笑しながらヴェルニクスは言った。その言い方はすこし喜んでいるようにも聴こえる


「そう、お前の言う通りだ。ここは社会から追放された者達が集う場所。色々な呼び方があるが、日本語で言うなら死人の都だ。そしてここに来るにはそれ相応の成果とリスクが必要になる」


「・・・・成果?」


リスクは大体解るが、成果とはなんだ?


「成果、それは祖国のためにどれだけ尽くしたのかだ。元々ここ自体、自国に尽くしてくれたのにも関わらず無情の死を遂げてしまう人間を救うために創られた場所だからな」


「・・・へぇ、心優しい人達も居たんだね」


「そうだな、そして次にリスクだ。言わなくても解るだろうが、ここに来たということはもう二度と元の居場所に戻ることが出来ない。ここで自給自足し、穏かに生きていくだけになる」


つまり、こういうことか


今までよく祖国に尽くしてくれた。ご苦労様。このまま死ぬのが厭なら、もう二度と表には出て来れないが平和で穏かな場所で残りの寿命を過ごせる場所を提供しよう


・・・・こういうことか?


こんな、ふざけている場所なのか?


「ーーーー・・・・バカじゃないの」


馬鹿げている。阿呆臭い。とんだ厄介者払いじゃないか


「貴方はそれでよかったのッ!?こんな意味の無い場所に来て、それで満足だったの?私の知っている父さんは、そんな"甘え"のある場所を好まなかった人だったはずだ!」


いつだって父さんは上を目指していたはずなのに


それなのに、どうしてこんな底辺の集まりのような場所に居る!?


「・・・・私の場合、特別だ」


「とく、べつ?」


「私が祖国から裏切られて殺されたことを知っているな。だが私の死因を表沙汰には出来ない、あくまで事故で処理しなければならない。そのために外国の部隊へと依頼したのだ。下準備は出来てた、私達の部隊には偽の命令が下され、現地に行ってみれば既に周囲は敵に方位されていた。少数だった私の部隊は流石に太刀打ち出来なかった」


「父さんが居たのに、勝てなかったの?」


「私とて無敵ではない。撃たれれば死ぬ。それに、敵の戦術が完璧だった。後ろでスナイパーが待機されていて、それを余計に警戒させることで動きを封じられ中距離からの射撃。そのタイミングで後ろからも攻められ瞬く間に潰された。・・・狙いは私だったのに、私の部下までも死なせてしまった」


・・・後悔、しているのだろう


関係ない人間を自分のせいで死なせて死なせてしまったと


別に父さんのせいじゃないのに


悪いのは嫉妬深い大人たちだろう


「・・・でも、それでも貴方を支持していた政治の人間が救うべく最後に色々と手伝った。というわけじゃないの?」


確か父さんを殺すことに賛成している人達と、生かす人達で分かれていたんだっけ


その生かす人達が助けてここに逃がした


これなら辻褄が合うのだが


「いや、そもそも私が仕事に出ることすら隠されていたらしくてな。徹底していたよ、流石に私も後から聞かされたが驚いた。・・・だから、完全に孤立してた。」


「っ!?ならどうやってそんな状況から・・・」


「どうやら、私が一番の目的で難敵だということを知らされていたらしくてな。余計な被害を防ぐために向こうのエースと一対一で戦ったのだ」


現状が夜だとしたら、その判断は賢明だっただろう


夜ならば中距離の銃は威嚇にしかならない


勿論狙えば当たるが、そんな曖昧な弾丸は父には当たらなかった


故に下手に撃って誤射してしまう可能性より、周りを片付けた後強いモノ同士で戦ったということか


「その敵に、私は戦っている最中に提案された。『アンタには今を捨ててでも生きる価値はある』と。私にはその言葉がこの場所を意味していることに気づき・・・馬鹿にしていると思ったよ。戦場で死ぬなら本望だと、軍人ならそう思うのが当然だ。そう言ってやったんだがな・・・」


いつになく落胆、というか落ち込んでいる様子だ


ということは、まさか・・・・・


「・・・私は負けた、一対一で。だからその提案を飲み込むしかなかった。私にまだ死んででも生きている価値があるというのなら、それでもいいと。まあ、端的に敗北者は勝者の要求を呑むしかないと思ったんだよ。だから私はここにいる」


「ーーーー・・・・・・ッ」


まさか父の口から敗北宣言が来るとは思わなかった


そんな言葉、予想できるわけが無い


「だ、誰に負けたのっ!?」


「それより、お前に逢ったら言いたいことがあるのだ」


「・・・?」


聞かれたくなかったのか、話を切り替えられてしまった


「・・・・済まなかった。お前をほんの数ヶ月だが、一人にしてしまって」


「そんなこと、大丈夫だよ。ヴェルニクス達が残したお金があったから何とか生き残れたし・・・ん?」


そうだ。まだ謎があった


「ねぇ、遺書が書かれていたことには疑問はないのだけれど、有川勝一とは何か縁があったの?」


「ん?ああ、有川勝一とは日本に滞在していた時共に働いた人物だ。ロシアにお前を残しておくのが心配だったのだが、本音を言うと外国に滞在する人物で信頼に足りる人間は勝一だけだったのでな。・・・勝一は元気にしていたか?アイツはお節介だから、面倒がいいだろう」


知らない、のか。いや無理もないか


ずっと命を狙われていたのだ。そんな余裕あるわけが無い


・・・ああ、真実を口にするということは、こんなにも重いものだったのか


こんな気持ちで、湊は私に話してくれてたのか


今になってそんなことが解るなんて


まだまだだなぁ、私


「・・・・・死んでいたよ、その人。死因までは聞いてないけど」


「ーーーーーそう、か。ここにも居ないということは・・・逝ったのか。アイツ」


無表情で感想を溢す。


日本に居たころということは、約4年以上か


いや私達が生まれる前からの知り合いとすればそれ以上


父とともに働いたということはその人も軍人に似た職業だったのだろう


・・・なるほど、湊がそっち関連に詳しいのも、というか所属しているのも解る


「さてと・・・・」


改めて現状を把握しよう


いや、今までのあらすじみたいなものをしようか


私は父の遺物であった極秘情報を持っていたため、それを理由にレツオは政府に私を売った


そして恐らくだけど、ロシアはトヴァニコフに依頼した。何せ父さんを追い込んだ人物だ


依頼を受ける条件に、莫大な金を手切れ金としてトヴァニコフは政府とは縁を切った


依頼内容は知っていただろう。だが引き受けなければいけなかったのだろう


トヴァニコフにも、護りたいものがあったのだから


それ自体は間違っていない。だから攻めるつもりも無い


ああ、この辺の情報はレツオから聞き出したことだ


まあ信憑性は薄いといえば薄いが今はそう仮定しておこう


・・・そして私は拉致された


その機関にレツオとトヴァニコフは既に私を社会上死んでいる扱いにした


それが日本にも伝わってしまったのだろう


私はわざとデバイスの在りかを言い、湊に助けを求めた


結果、湊はデバイスを持って登場した


つまりは撃退に成功した。そして来る途中に調べ上げたのだろう。私が本当に死んで居うるのか否か


結果、私ソヴィトヴィーニアは死んでいることになっていた


だから湊は私に父に逢いたくはないかと質問してきた


その質問の意味は今になって解る


それは、このまま死ぬか、それとも父と同じ場所へ行くかのどちらかを選べ。という意味だったのだ


私は知りたいと応えた。ゆえに湊は本当に私を殺すのではなく、私を助けた後この死地へと連れてきて置いていった


いや、置いていったは語弊があるのかもしれない。


何せ私は"死んでいる"のだから、ここに居て当然の存在になっているのだから


・・・ああ、今になって解ることが多いなぁ


機体の中であの基本秘密主義の湊は私に過去を話してくれた


それはつまり、私が既に死んでいるから話したのだ


死人に口なし


まとめるとこんな感じかな




・・・・・は、はは。なんなの、これ


流石に笑えてくるよ。いや、最早笑いしか出てこない


だって、私完全に被害者じゃない


全く、こんなことを湊は認めろと諦めろとでも言うのか


こんな理不尽を・・・


確かに、ここに私が住むのに何も不思議はない。むしろ道理だ


だけど・・・・・


「認めないよ、諦めないよ。どんな手を使ってでも・・・」


「・・・ソヴィ?」


私は生きているんだ


今、この瞬間、この刹那に存在している


それなのに死んでいることになっている、なんて間違っている


死んでいる扱いになっているなら、本当の意味で脳死しろ


生きているなら生きているということを証明しろ


惰性に後生暮らすのなら、死んだほうがマシだ


勿論これは私の考えだ。この考えを他人に押し付けるほど偉くない


だから、これは身勝手で私の我が儘だけど


限界まで、抗ってやる


「私は帰るよ。私の居場所は、ここじゃない。ヴェルニクスと逢えて嬉しかったけど、父さんはもう死んでいる。でも私は生きているからさ、こんな場所で諦めるわけには行かないの。だって、私まだ20歳にもなってないんだよ。被害者だよ。こんな理不尽、納得いく分けないじゃないッ!!」


私は何もしていないのに、どうして私が死ななければならない


勝ったのに、何で無条件で負けなくちゃいけない


ああ解っているよ。現実が惨くて酷くて最低で最悪で、望み通りにいかない矛盾した世界だって


だからこそ、私はあの場所で決意した


抗う。戦う。頑張る


「私は、生きているッ!お前たちと一緒じゃない!だから・・・ここの人達に迷惑掛かるかもしれないけど、私は私の我が儘を通すために限界まで戦うよ」


死ぬのなんてゴメンだ


絶対に、私は生きて帰ってみせる


確かにこの場所は人によっては素晴らしい場所なのかもしれない


戦場の疲れを癒すのには最適だ。気持ちよく死ねるのも込みで戦士達にとってはこれ以上無いくらいの天国のような場所なのかもしれない


夢のような場所なのかもしれない


・・・・なら答えは簡単だ。


夢を否定する私にとってここは途轍もなく気持ち悪い


あれは確かに夢だった。だが今のこれは現実だ


でも私にとって害悪でしかない


言うなれば幻影であり幻覚だ


麻薬という言葉が適切だろう


居ればいるだけ心地いい


だが出て行くことを許されない閉ざされた自分だけの世界


だが、私の場合は・・・そうだな


統合失調症という言葉が適切か


妄想幻想幻聴幻覚が迷惑で仕方ない


・・・・つまり障害だ


今その障害が私の目の前に立ちふさがっている


さあ、どうする。ソヴィトヴィーニア


壊すか?登るか?飛び越えるか?


・・・・・いいや、違う


利用する。この壁を私の更なる成長への踏み台にしてやる


どんな手を使おうとーーーー


何をしてでもーーーー


何かを犠牲にしてでもーーーー


生きて帰ってやる


終わる終わる詐欺

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