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シゾフレニア  作者: 民音慧可
第一部 空想上の物語
32/74

夢は夢

「ーーーーーーー着いたぞ」


頭の上からの声で目が覚める


元々そこまで深い眠りについていない。仮眠状態だったためすぐに醒める事ができた


「・・・どこに、着いたの?」


大丈夫。頭の整理はついている


もう全てを理解した


受け止めることが出来た


だから私は私らしく生きていこう


こんなところで弱音を吐いていられない


・・・・思えば、私自身の過去を話したのは初めてだったかな


レツオにすら話さなかった


それは私の本能、つまり勘がそうさせたのだろう


何か裏があることを私は無意識に察していたのだろう


だけど、私は湊には話した


1ヶ月ちょっと同居しただけで話した


それも彼は謎が多すぎる


今回の件だってそうだ


それとも、好む人種が似ているのかな


私達家族は


「歩きながら説明する」


分かった、と言い私はコックピットから出て外へと降りる


「お前はここで待機か?」


「・・・・」


パイロットは無言で頷く


「明日の昼ぐらいまでには戻る。そのつもりで」


そういい残し湊は歩き始める


方角も景色も分からないこの場所


もう深夜だろう。それに寒く数メートルの先には暗闇だ


恐らくは森林地帯だろう。だがそれだけしか分からない


その中、湊はスムーズに歩いていく。何も目印がないのによく分かるものだと感心する


「それで、今から行くところには何があるの?」


率直な疑問を尋ねる


「・・・俺も詳しいシステムまでは知らない。だけどそこがどんな場所かというと、外界から隔絶した谷の集落。が一番適切な表現だと思う」


「ということは電子的なものが無い原始的な場所って意味?」


「ああ、便利なものは何もない村で全てが自給自足な場所だ」


ここが日本でないことぐらい分かる


だから外国ならそういう場所があっても当然だと思う


だから疑問に思った


「そんな場所に、私を連れて行くのは何で?」


「・・・・いい機会だからな。逢わせておきたい人物がいるんだ」


「それは私のよく知っている人?」


「詳しくはないからどうかは分からない。本人にも確認とって居ないから確実じゃない。だからこれは俺の勘だ。あまり期待しないでおいてくれ」


「・・・・分かった」


そういって会話が途切れた


そのままずっと無言で約数十分くらいだろうか


時計持って居ないから分からない


「・・着いたぞ」


もう深夜だからだろうか。所々和風の家があるのは分かるが明かりが数件しかない


それでも村だということは分かる


あちらこちらの在る木製の家。その手前には小さな畑なんかが設置してある


だけど・・・・・


(・・・・何、この突き刺さる視線)


誰かに見られている


それも敵意を向けられている


本能的に臨戦態勢を取ってしまうが、湊はそんなことせず淡々と歩いてしまう


私は警戒を怠らないように気をつけながら歩く


着いたと言った場所から数十メートルぐらい歩いた先の家に止まる


「・・・ここ、なの?」


一見からするとその辺の民家と変わらない


手作り製の木造建築


「ああ。・・・入るぞ」


湊はその家の敷地に入るとドアの目の前で止まり


ある程度のリズムがあるノックを3回する


すると、少しだけ扉が開きーーーーーーー


さらに勢いよく開くと、一瞬のうちに湊の首筋にナイフを突きつけられていた


目前には大男、といったほうが適切な表現か


身長、いや体格は湊より一回り大きい


そして何より取り巻いている雰囲気が大物感を醸し出している


「・・・相変わらず物騒だな」


湊の開口一番がそれである


恐らく知っている仲なのだろう


「お前の顔は、あまり見たくないんだがな」


「なら、アンタの見たかった顔でも見るか?」


スッと横に移動する。それと同時に自然にナイフからも離れる


そしてその男の全貌が明らかになる


その男は全体的に白い。髪の毛、髭、肌と身体的なイメージが白い


体格もかなり良い。見た目、筋肉はまさに鍛え上げられた身体そのものだ



そして、私はその男をよく知っていた


「ーーーーーーー・・・・父、さん」


私は無表情でそう呟いていた


「・・・ソヴィ、なのか?」





リビングらしきところへ取りあえず案内されて大きいテーブルに設置してある椅子に座る


勿論全て木製だ


湊は私の傍らである壁に寄りかかっているだけ


そして私の父、ヴェルニクス・フォグロム・プラウダは私の前に座る


・・・・正直に言うと、父さんが生きていたことには何にも不思議を感じなかった


ただ逢うべくして逢っただけ


薄々感づいていたことだ。湊の質問の意味を


確かに驚いた。こんなにも早く逢うことになることを


もっと先だと思っていたから


だから父の生死については特に疑問は無い


あるとしたら、どうして父がこんな場所にいるかだ


「ーーー・・・さて、本題に入らせてもらおうか」


3人がようやく落ち着いたところで湊が切り出す


「ヴェルニクス、アンタなんでこんなものを娘に預けた?」


そう言うとテーブルの上に私の部屋に隠してあったはずの父からの遺物であるデバイスが出される


「・・・中身を見たのか?」


「まあな、形状に端子も特別性だがうちの国は細かな部品を作るのに長けていてな。見る分にはそう難しいことじゃなかった。・・・今となっては見たくなかったものだがな」


「私の娘ならうまく使えるものだと信じて託しただけだ。最も、見ずに済むならその方が良いが」


「阿呆が。この中身を持ち出したこと、そしてそれを隠していたこと自体が問題なんだよ。」


「ーーーーその中には、何が入ってたの?」


「今の社会の裏事情全てだ。といってもロシア内だけだろうが、この中身を公表すればそれだけでロシアそのもの、いやもしかしたら世界的に影響を及ぼすことになっていただろうよ。それをお前に預けていたんだ。用は核みたいなものだ。お前はそれをいつも傍においておきながら過ごしていたんだよ」


「・・・っ!?そんなものを、どうして私に」


「----ソヴィならこれをうまく使えると思ったからだ。勿論使うつもりがないならそれに越したことはない。だがお前がもし、国に、社会に復讐したいと思うならと思って託した。お前は、むかしからそれのみを糧に生きてきたのだからな。」


父さんは気づいていたのか


そんなこと、一言も話さなかったのに


「だが問題はそこじゃない。それをソヴィに託したことが外部に漏れた可能性があるということだ。一応分かる範囲で捕らえてあるが、不安要素は多い」


「・・・そうか」


そこで父は黙った


黙ってしまった


「・・・・さて、これは俺のものじゃない。お前のものだ。・・・どうする?」


そういいながらそのデバイスを私の傍に再度置いた


どうするか?決まっている


私は無言でその四角いデバイスを真っ二つに割り粉々にした


「・・・私はあの世界が好きになったの。だからもうこれは必要ないよ。父さんがなんだかんだで私を見ていてくれたのは嬉しいけど、もし復讐するにしてもそれは私の力でやってみせる。」


それが私の答えだ


「・・・強くなったんだな。本当に」


「ううん、私はまだ弱い。まだ弱すぎるよ」


その問いに首を振りながら告げた


だって湊に助けられなかったら今頃どうなっていたのか分からない


それは私の認識の甘さと弱さが原因だ


だからこんな自体が起こらないようしなければいけない


「・・・ソヴィ、長旅で疲れただろう。奥の部屋にベッドがある。そこで今は休みなさい」


「でもまだ聞きたいことがーーーー」


「仮眠を逐一取っていたからといって、完全に疲れが取れるわけじゃないだろ。一度横になってグッスリ休め。これからのことはまた起きてから考えろ」


「・・分かったわ」


湊にも後押しされ、私は渋々言うとおりにした


奥の部屋に行き、ベッドに横になる


そうすると私は考える間も無くあっという間に夢の世界へと落ちていった


身体的な疲れは確かに仮眠で和らいだが、精神的には仮眠程度では回復し切れなかった


たまりに溜まったストレスが原因だ


ふと、夢の世界に入る前に感じたことがあった


不安


その不安の正体は、目が覚めてから明らかになるだろう


いつもならその不安をすぐに解消するのだが・・・・・・・・


でも、今は、凄い、眠いーーーーーーー


気づかぬうちにこんなにも疲労しきっていたのか、私は


布団が心地良いとここまで感じたのは初めてだ


だからすぐに、夢の世界へと落ちた







そう、夢を見た


見ることがない、見るつもりも見たいとも思わなかった夢を


私は初めて見た


そこには緑の草むらと山岳に包まれた広大な台地が広がっていた


見覚えの在る場所だ。それは昔、家族でよく行った故郷であるロシアの大地の一部


そしてなにより、父と姉と、そして母が仲良く元気よくにこやかに戯れているのが少し距離をおいて繰り広げられていた


懐かしむ。・・・回想、いや回帰というべきか


昔に、あの頃に戻ってきたと


そう素直に感じて、喜んでしまった


・・・昔は私もそこにいた


家族と仲良く普通に遊んでいた


ほんの数年だったけど、離れたくない大切な存在達と共に暮らしていた


・・・私はただ草むらに体育座りする


あの頃は楽しかった。いじめもケンカもなく、なにより家族が居たから


それだけでよかった。それだけで充実して、失いたくない時間だったと今だからこそ思う


だって、私はあまりにも弱かったから。家族に依存していたから


その方が楽だということを知っていたから


・・・ずっとあのころのままがよかった


やり直せるならこの頃まで戻りたい


掛替えのない刹那を、失いたくない


「ーーーーーー・・・・厭だよ」


体育座りしていた身体をさらに抱きながら知らずそう呟いていた


寂しかった。辛かった。悲しかった。足掻きたかった


だけどそれを許してくれなかった




ーーーーーーーああ、でも今なら


ーーーーこのまま、この夢の大地に抱かれながら眠ることが出来るのであれば


ーーーーこのままずっと居ることが出来るのなら


ーーーーこの光景をいつまでも見ていたい


ーーーーそう思う自分も確かに存在している。今、ここに









「ーーーーーーーーこんなところで何しているの?」


「ッッ!」


驚愕した。いきなり声を掛けられたのだ


ゆっくり顔を上げると、そこには小さな少女。


あの時からずっと時間が止まったままの存在


ミーシェという私の姉がそこにいた


「こんな所で、なにしているの?」


「・・・それは」


「ああ、違う。質問を間違えたわ。こんな夢の世界で、何しているの?」


「夢・・・・」


そうだ。ここは、夢なんだ


夢の世界でしかないんだ


なのに私はどうして・・・・


「・・・現実は辛かった?」


・・・辛かった


「苦しかった?」


・・・苦しかった


「だから、逃げてきたの?」


・・・逃げてきた、のか。私は


「だって、貴女は夢を見るような娘じゃないじゃない。いつだって目の前のことを考える、その材料がなければ図書館に引きこもって日中集める。夢は夢でしかない。そうでしょ?」


・・・・流石、よく分かってる


そう、家族が死んだから、学校でいじめられたからこんなにも無情な思考回路になったわけではない


元から、私はそういう人種だった。夢は夢でしかない。そんなものに頼るよりまず今を変えるべく努力する人種


「お母さんは夢を見る人だった。お父さんは現実を見る人だった。私達の両親はバランスがよかったから、お互いを支えられていたんだ」


姉は母の血が濃い


私は父の血が濃い


なるほど、考え方までも遺伝するのか。私達は


「・・・でも、やっぱり夢を見る人間は早死にするね」


儚げにそう呟いた。その呟きは誰かに言っているように感じた


「嫌だよね、誰かが死ぬところを見るのは」


厭に決まっている


「それでも、ソヴィちゃんは強い子だよ。少なくとも、彼よりは」


・・・・彼?


「ーーーーーだから、こんな所で立ち止まってちゃ駄目だよ」


「ーーーー・・・・ッッ!」


その言葉は、一気に私を現実へと引き戻した


「ああ、立ち止まるなってことじゃないよ。立ち止まる場所を考えなさいってこと。貴女にはもう、居場所があるじゃない。だから、そこで今までの疲れを癒しなさい」


・・・・その言葉の裏を読み取るのは簡単だった


夢は夢だ


いなくなった者は帰ってこない


そんなことはとっくに分かっていたつもりだったのに


それが厭でこの夢に逃げて、


私は・・・・・・私は・・・・・


ーーーーー・・・・死にたかったのか?死ねばそこに家族が居るから、逝きたかったのか?


あれほど身近で間近で死んでいる人間を見て、恐怖したのにも関わらず死にたいと心のどこかで思っていたのか?


・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・


・・・




          

「-----------甘えんなッ!!、ソヴィトヴィーニアッッ!!!!」






叫んだ。この夢に向かって、何より私に向かって私は叫んだ


現実が惨くて酷くて最低で最悪で、望み通りにいかない矛盾した世界だってことぐらい


当の昔に胸裏に刻み込んだだろうが


そんな世界で私は幼少期を過ごしたんだ


それなのに今更真実を知り尽くして、そんな世界が嫌いだから、逃げて休みたいと?


・・・いいや違う。そんな世界でも私は生きてきたんだ


抗ってきたんだ。戦ってきたんだ


ならば、これからも生きていける


頑張れるはずはずだ


甘える場所は弁えろ。愚痴を言う場所は考えろ


こんな「夢」が、私の居場所じゃないッ


・・・・無言で立ち上がり、その光景を目に焼き付ける


例えこの世界が偽りでも、過去の風景でも


この過去を忘れるわけにはいかないから、もう一度しっかりと刻む


「・・・やっぱり強いね。余計なことしたかな?」


ミーシェは今の私を見て微笑んだ


立ち上がり、小さなミーシェを見る。あの時死ぬ前のミーシェはこんなにも小さかったことだと実感する


そしてそれは私が成長したからだ


・・・そうだ、私は立ち止まってなんか居ない。私は現実で生き続けている


過去は過去だ。過ぎ去った時間だ


だからこそ、尊くて忘れてはいけないモノだ


そして取り戻せないモノだ


だからこそ「今」を大切に出来る


「そんなことないよ。ありがとう、背中押してくれて」


「なら・・・・よかった」


ニッコリと、無邪気で愛に満ちた笑みをする


私も釣られて微笑む。微笑みを返す。貴女からくれた愛を今ここで返す


私には、私の道があるから、もう大丈夫だよ。と無言で伝える


気づけばその後ろに母と父も居た


「・・・ああ、そうだ。私の用件を忘れていたわ。・・・ソヴィちゃん、貴女は今真実を知り尽くしたと思っているようだけどそれは違うわ。本当に隠しておきたいことは、真実の上に真実を重ねておくものだよ」


「・・・・・まだ、何かあるんだね」


「その真実を知った時、貴女はこれ以上ないくらい苦しめられる。だけど、ソヴィちゃんなら出来るはずだよ。誰が一番苦しくて悲しい思いをしているのかを見極めることが。まずはその人を助けてあげてから、助けてもらいなさい。結局一人じゃ生きていけない世界なんだからね」


その言葉は酷く私の胸に突き刺さる


一人で生きているようで、生きては居ない


他人の支えがあるから生きている


「・・・解った。用件はそれで終わり?」


「そうだね、寂しいけどこれで終わり。後はソヴィちゃんが決めることだから、私は口を出さない。ううん、口を出せない。死人に口無しってね」


「それ、意味が違うよ」


「あれ?そうだっけ」


もう一度微笑む。思えばこんなやり取りをしていたころがあったっけか


もう、そんな日常は帰ってこない


だけど今の私には私の日常がある


だからーーーーーーーー


「・・・・ありがとう、姉さん。・・・・そして、さようなら」


過去の自分へ、そして過去の存在へ


無言で振り返り、夢の大地の出口へ歩む


・・・・もう二度と私は夢を見ないだろう


見ることは無いだろう


一度味わってしまったから


もう二度と来たく無い場所だということを知ってしまったから


そして何よりも、私の一生が終えるまで


私は現実に存在しているのだから


夢を見る必要なんか、無い


求めるのは、信じるのは夢という不可解で不確定なものじゃない


私は・・・ただ現実に在るモノを求める


私は・・・自ら歩んで来た経験と自身の身体を信じる


さあ、戻ろう。帰ろう


私は今、生きているのだから

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