返答
「さて、そんな姿で来たってことは何か策でもあるのかな?」
その男、ヴェチェラーセ・トヴァニコフは愉快に笑う
当然か。何故なら私達今の装備はハンドガンだけなのだから
トヴァニコフの周りの人間は見るからにサブマシンガンを持ち、構えている
さらに後ろのヘリには中型の機関銃を積んである
どう考えたって絶望的
今の装備なんかで役に立つわけが無い
・・・だが、それだけで十分だ
「策なんてものは無い。でもこの状況を打破するため、つまり勝利条件なら既に見えている・・・あなたを倒し、脱出する」
「なるほど、ヘリの奪取か。確かにそれなら一般人にも迷惑は掛からない。まあ、俺の部下が無残に死んでしまった様は明日には町中に広がるが・・・なあ、人殺し?」
「私は殺していないし、最低限の人間は生きているわ」
「おうおう、それはそれはありがとう。だが今のセリフ聞き捨てならないところがあったなぁ・・・殺してないだぁ?てことはお前はその隣の男に『人殺し』の罪を被せたってのか?」
「・・・結果的にはそうなるわね」
「・・・ふざけてんのか?舐められたものだな。そんな覚悟で俺を斃そうってか・・・クハハ、笑わせてくれる」
「・・・・・なぁ、さっきからなんの会話してるんだ?」
雨さんが小声で聞いてくる
当然か、さっきからずっとロシア語で話しているのだから
わかるはずもない
そういえば、ここに来て日本語を話したのは湊との会話からだったか
ほんの数日話していないだけで、これほど懐かしく感じるとは
今更ながらそう思う
「大丈夫です。重要なことは話していませんから」
「・・・まあ、その辺はお嬢さんに任せるが、合図だけは送ってくれよ?」
「解ってます」
とはいえ、この状況
縮地法を使えば潜り込める。その後は習ってきた武術全てを使い敵を薙ぎ倒すことも可能であろう
だが、縮地法を使うにしてもこの距離は流石に遠すぎる
ヘリポートの証であるHを囲う円状の丁度その円のラインを目印に対角線上にいるのだから
・・・そう、遠すぎる
これじゃあ何も出来ない
なにかする前にやられる
だから、私は彼に賭けているのだ
唐突で前触れ無く進展する機会に備え待機するのだ
・・・・・だが
「ああ、そうだ。そういえば確かお前達の仲間と思われる奴等を確保しているぞ・・・・おい!」
後ろに向かって合図する
その合図により輸送ヘリの入り口が開く
するとーーーーーー
「ーーー・・・そんな・・・雪ッ!隊長ッ!!」
雨が大声で呼びかける
その呼びかけに女性の方、つまり雪と呼ばれる人物が反応した
「・・・ごめん、しくじった。」
短髪で茶髪。それでいて寒いからか深く帽子を被っているのが雪だ
表情までははっきりと見えない
「残念だったなぁ。ヘリを奪取するために負傷者のマネをしてくるからこんなことになるんだよ・・・舐めるなよ?俺の部下だ。全員声と顔を覚えているに決まってんだろ」
鋭い目で雪たちを睨みつける
湊は何も言わずただ俯いている
「まあでも惜しかったな。その男はロシア語を話せたし、その傷も実際に自分でつけた傷だろう?その努力は買ってやるよ」
結果的に、湊は助けに来なかったというわけだ
捕まり、惨めな目にあっているだけ
頼ろうとした私が馬鹿だったのだ
そう、馬鹿だったのだ
「・・・・降参よ」
「あ?」
聴こえなかったのか、トヴァニコフが聞き返す
「降参よ。もう、打つ手は無いわ。私はこのまま貴方に捕まるから・・・せめて、この人達だけは逃がして」
「・・・・ハッ!そんなわけに行くか。部下が殺されたんだ。こいつらだって殺すさ。それにお前も殺さない程度には痛めつける。当然だろ?」
「・・・・・・・・」
やはり交渉には応じないか
でも、これ以上の策はない
・・・・仕方ない
・・・・・進む
装備を捨てて、銃を捨て、ナイフを捨ててやつの元へ歩く
雨さんは遠めからすると悲しんでいるように見える
それは慕っていた隊長が無様に捕まっていたところも見てしまったから
それとも負けたからか
どちらにせよ、震えている
・・・・・進む
トヴァニコフは笑う
それは完全なる勝利を確信した顔だ
当然か、こんな状況、湊と雪は捕まり、雨は諦め、そしてさらに敵はトヴァニコフを含め4人。後ろには攻撃ヘリと中型の機関銃を積んでいる輸送ヘリが待ち構えている
トヴァニコフが左手を上げる
それは恐らく攻撃ヘリを浮上させる合図だったのだろう
何のために?決まっている、私以外のみんなを一斉に殺すためだろ
・・・・・進む
ヘリが浮上する
そして機関銃が準備する音がするのがわかった
ーーー・・・だが
「ーーーー・・・・?おい何やってンだッ!」
輸送ヘリが浮上していたのだ
恐らくこの合図は攻撃ヘリを浮上させ敵を撃てという合図だったのだろう
だが攻撃ヘリではなく輸送ヘリが浮上した
それに違和感を感じ、乗っているであろパイロットに怒鳴り散らす
だが一向に動かない攻撃ヘリに違和感を覚え・・・
「ーーーーーーー・・・・・まさか・・・輸送ヘリのパイロットを殺ーーーーーーーッ!!」
だが、遅かった
輸送ヘリの動いていて機関銃はいつでも準備万端だった
そして狙っていたかのように、このタイミングで機関銃は火を噴き、銃弾の雨がトヴァニコフたちに降りかかる
だが、無暗に適当に撃っていたわけではない
トヴァニコフたちは足を狙われたのだ。そして全員が足を蜂の巣みたいに穴だらけにされ、そのまま崩れ落ちる
勿論、手元が狂ったのか死んだやつもいた
だが、指揮官であるトヴァニコフは慎重に狙ったのか足だけがボロボロになった
ーーーーーそして、この瞬間を待っていたのだ
トヴァニコフだけはそんな状態になってでも這いずり私達へ銃口を向けた
(させないーーーーー)
右足に全力を入れ、超疾走でトヴァニコフに近づく
そして顎へーーーーーーー
右足でーーーーーーーーー
思いっきり蹴り飛ばした
「ーーーーーガッ!!・・・アァ!」
・・・こんな方法でトヴァニコフは負けたのだ
あっという間に、ほんの数分数秒で
一瞬で終わったのだ
トヴァニコフは決して弱くはない、むしろ強いだろう。
だがいくら強くたって銃には勝てない
勝てる人間なんか居ない
銃弾を避ける人間なんてアニメだけだ
銃弾の早さを超える動きを人間が持っているわけがないのだから
それに、先に手を出してきたのはコイツらだ、自業自得だろう
他のやつらはトヴァニコフと違って足が粉々になっていることに衝撃を受け、戦意喪失して身動きが出来ない状態だ
「ーーーーー・・・・まだ生きてるか?ソヴィ」
「・・・こんな所で死にたくないわよ・・・湊」
輸送ヘリを着陸させ、入り口から出てくる男・・・有川湊が私に近づきながらそう言う
「・・・・・ふぅ、隊長やるならやるで先言って下さいよ~」
「悪いな雨。敵を騙すにはまず味方からだ。特にお前はこの中で一番顔に出やすいから厳重に注意しなくちゃいけなかったんだよ」
「そりゃヒドイっすよー・・・」
雨は輸送ヘリが機関銃を動かしたと同時に逃げる準備をしていた
「ーーー・・・案外、楽なものだったわね」
「いやー結構ギリギリでしょ」
機関銃の弾幕で気を取られている隙を狙い、捕まっていた雪と湊に成り代わっていた陽がその敵を殺して戻ってくる
「お前の変装にはいつも驚かされるな、陽」
「まあこれだけが取り柄みたいなものですから~」
そういいながらカツラを取り、顔を剥ぐとそこにはさっきまでとは別人のニヤニヤしてる男性がいた
「でも貴方、ロシア語喋れたのね。意外」
「まあね~」
適当に応える陽
それを見て不満そうな雪を見て湊がフォローする
「雪もよくやってくれたよ。君の演技力も大したものだ」
「・・・・ありがと」
さらに帽子を深く被る
素直に褒められると弱いのが雪だ
「・・・・して、どうします?隊長」
シリアスの顔に戻った雨が言う
「後から追加された命令だがトヴァニコフは生け捕りにしろとさ・・・それ以外はいらないだと」
ーーーーーーー瞬間、銃声が同時に5回この空間に響いた
足をやられて這いずっていた敵の男性達はピンポイントに全員頭を狙い打ちにされ死んでいく
・・・・さっきまで陽気に話していた雪、陽、雨、湊は湊の合図と同時に真剣な顔を取り戻したのだ
因みに数が足りていないと思うが雨が二丁持っていたので2人分始末した
ソヴィが殺さなかった連中とは違う
何故なら今の会話を外部に漏らされると困るからだ
困るなするなといいたいが、全員一応の命令を遂行したから気が緩んだのだろう
「・・・・・・・・・・」
私は黙ってみてる
だって殺さないと決めたのだから、そう甘い考えに走ってしまったのだから
殺す覚悟を持った人間を止めることなんて出来るはずが無い。その資格が無い
「ーーーーー・・・・ソヴィ」
湊が声を掛けてきた
ほんの数分、数十分前に声を交し合ったのに、どうしてこんなにも久しぶりに感じるのだろう
当たり前か。何せ訓練は積んで来ても実戦経験は殆んど無いのだから
我ながらよくここまで出来たと感心する
自分で自分を褒めたいぐらいだ
「これで、終わったの?」
早くここから脱出したい
早く日本に帰りたい
「いや、まだ終わっていない」
でもそれは湊が許さなかった
「確かにコイツは中ボスのような弱さだったが、それでも俺達はコイツとは色々と因縁深いものがあってな」
ヒクヒクと、最早今でも干上がりそうな魚のように生きているトヴァニコフを見ながらそう言う
「・・・まだなにかあるの?」
正直、嫌気が差してくる
だが、そんな嫌気も次にはなくなっていた
「ああ、さてここがお前にとっての分岐点ってやつだ。ここまでは予定調和だ」
真剣な顔で私を見る
・・・・ああ、思えばこの男がこうして真正面に立ち、目と目を合わせながら会話したことなんて今まであっただろうか
この人はいつも人の目を見たりしない
でも、今、私の目を見ながら会話している
それだけ真剣だってことが解る
「お前は、死んだ父に会いたくはないか?」
・・・・そうだ
思い出した
久しぶりに会った時に聞いてきた質問
ーーーーーーーー・・・なあソヴィ、お前死んだ父に会いたくないか?
ーーーーーーーー・・・今の質問はここから出るまでに考えてくれれば良い
そう言っていた
「・・・今、ここで答えを言わなくちゃいけないんだね?」
「ああ、今ここで返事が欲しい。恐らく、返答次第でお前の全てが変わる大事な選択だ。よく考えーーーーー」
「ううん、大丈夫。答えはもう出ているから」
そう、答えは既に出ている
あの時、質問してきたときから決めていたし、今でも変わらない
・・・・そう、恐らくだけど、私の勘だけど
彼は父を知っている。それも私なんかよりも深く知っている
何故なら父は軍事関係の職務だった
なら軍人である湊が知っていても可笑しくは無いだろう
だからその質問の本質は
真実を知りたくはないかということ
父が何をしてきたのか、どんな結末を迎えたのか
そういうことだろう
それを知りたいかどうかという質問なんだろう
知れば後戻りは出来ない
知ればもう普通の日常には戻れない
今なら被害者となり戻ることもできる・・・なんて、めでたいことなんて考えていない
私は人を傷つけた。私の命は既にその上で存在しているのだ
そしてそれは父も同じことだったのだろう
私がさっき経験したことを、父は何度も何度も経験しそのたびに乗り越え生きてきたのだろう
・・・正直、怖い
でも、知らなくてはいけない
だって私の、家族なのだから
家族のことなら何でも知りたいし、知っておかなくてはいけない
今はもう、私一人なのだから
だからーーーーー
「会いたい。そしてそれ以上に、私は父のことを知りたいの」
目と目を合わせ、真意の答えを伝える
「・・・嘘は言ってないな」
「私は嘘が嫌いだよ」
「そういえばそうだったな。お前はいつも嘘を言わなかった」
私の顔を、目を見ながら湊が微笑む
つられて私も微笑んでしまう
「・・・・・解った。なら教えようか、ヴェルニクスがどういう結末を迎えたのかを・・・最も、その答えはコイツの口から聞くことになるけどな」
「・・・え?」
「コイツがヴェルニクスについて殆んど知っている。それを含めコイツを生かすことにしたんだ・・・俺が知りたい事も知っているようだからな」
そういうと、湊はその男ことトヴァニコフに近づき胸倉を掴む
「ーーー・・・さあ、起きてもらおうか。」
「・・・・う、ぐ・・・・」
トヴァニコフは意識を取り戻した
が、足のダメージが相当なため辛うじて会話が出来る程度だ
しかしこのままでは出血大量で死んでしまう
まあその辺は後で応急処置をするだろう
「話してもらうぞ、全てを。なぁに時間はたっぷりある。あのヘリでゆっくり聞こうじゃないか」
湊がロシア語で言葉を告げる
「・・・・・・・・・・・・」
だがトヴァニコフは応えない
意識は取り戻しているが、応えない
しかし反抗もしない
つまり、自分の置かれている立場がわかっているのだろう
敗者らしく、無様に不意打ち突かれた強者らしく
従うつもりなのだろう
「テメェがやってきた全てを、話させてもらおうか。中ボスさんよォ」
「・・・・・・」
冷たい目で、若干殺気立っている目でトヴァニコフを見下ろす
・・・私が知りたい父のこと
そして湊が知りたい別のこと
それは決して良い話では無いだろう
きっと、知ってしまったことを後悔することになるような残酷な現実が待っている
そんな予感がしていた
・・・・でも
私達はそれを知らなければならない
知らなければ前へは進めない
知りませんでしたで許されるのは中学までだ
現実を、隠されていた現実を知らなくてはいけない
関係者として、血縁者として
お互いが知る真実が目の前にあるというなら
私達はどんな手を使ってでも知ろうとするだろう
知らないことを知りたがるのが、"人間"なのだから
実際の戦いなんてこんなモノだろうと思いました




