本質
このホテルの屋上。つまりはヘリポートがある場所
輸送型ヘリから降りてきたのは数人の男性
そこに数人の男性と、その中心には一般人とは別格の雰囲気を出している人間が居た
目つきは鋭く、葉巻を吸い、白髪のオールバック、その身体は数々の傷に鍛え上げられた肉体に包まれている
つまりはこの男こそが今回のソヴィ拉致の指揮官
「・・・予定より5分遅れている。」
「恐らくは彼女が抵抗しているのでしょう。ですがそれも時間の問題かとーーーーーー」
男が説明すると、いきなり顔面を指揮官の右手で殴られる
「落第点だ。俺はあいつらに時間通りに持ってくるように命令した。そしてあいつらは時間を護らなかった。俺の部下がだ。つまりこれは何か遭ったんだよ・・・おい、ヘリに居る人間とあの部屋に近い人間を向かわせろ。」
「了解!」
嫌な予感がした
それは歴戦の戦士だからこその予感
いや、予感というより感覚だ
以前寸前のピンチの時と似たような感覚がした
(・・・女はあのヴェルニクスの娘だ。甘く見ないほうがいいな)
だがミルヴェアというに信頼に足る人間を向かわせたのだ
そう簡単にはやられないと思いたいが・・・
「ーーー・・・念には念を入れ、確実に成功させる」
それが俺の信条だ
向かわせた部下は既に配置させていた人間含め30人前後か
しかもそれぞれがいくつもの戦場の経験者だ
身体面は愚か、精神面も中々のモノ
娘一人のここまでやるのは大げさかと思っていたが
思いのほか、これで釣り合うみたいだな
(・・・精々足掻いてみせろよ。お前がヴェルニクスの娘なら)
多少期待しているのだ。娘が強いことを
強いモノと戦うことで得られるあの感覚は麻薬みたいにやめられない
それが女であろうが男だろうが関係ないのだから
それから10分が経過した
しかし、未だに音沙汰は無い
(・・・妙だ。何かあればこちらに連絡があるはずだが)
「隊長さん」
後ろから若い男の声がした
その声の持主こそ、今回の首謀者
「彼女はまだなのかい?時間はとっくに過ぎているのに」
「生憎と手間取っているようだな。恐らく何人かは死んだだろう。さて・・・」
こちらもそれに対して準備をしておこう
「お前等。いつでも敵が来てもいいように備えて置けよ」
部下達に命じる
「それじゃあ僕はヘリに戻っているね。出来るだけ、早くしてくれよ?」
「善処しますよ」
その男はヘリに戻ったと同時に、屋上のドアが勢いよく開いた
「ーーー・・・隊長!!」
そこには左腕と横腹を負傷した黒い服とサングラスを掛けた部下と、それに肩を貸す部下が出て来た
「女はどうしたッ!?」
「す、すみません!しかし、フロアは何者かによってジャミングを受けていたので、直接伝えるほか無く・・・」
負傷した部下が大声で応えた
ジャミング?
「・・・まさか」
「敵は彼女を含め男性が2人!恐らくは彼女を救出しに来たと思われます!」
情報が外部に漏れていたのか?
いや、そもそもこうなる前に誰かに伝えられていたとすれば・・・
どちらにせよ。やることは変わらない
「・・・お前等、対象は出来る限り傷つけるな。だが、足の1本や手の一本は構わない。恐らく上に上がってヘリを奪取しようと考えるはずだ。準備しておけッ!!」
「「「了解!」」」
取り巻く3人が返事良く反応した
「お前はヘリで応急処置をしておけ。出来た次第、敵を迎え撃つぞ」
「了解!!」
敵が複数か
想定外だが、久々に面白い展開になったじゃないか
精々足掻いてここまで来て魅せろよ
薄気味悪く、そして既に勝ち誇っている顔を浮かべ敵を待ち受ける
それはさながら勇者が来るのが楽しみで仕方の無い魔王のように
ーーーーーーこの時、勇者ならよかったと、そう思ってしまう展開を一体誰が予想しただろうか
その16分前
『最上階からその部屋のフロアまでの人間を退去させおいたわ。銃声すら下に響かないようにしておいたから思う存分暴れてもいいよ』
「解った。あいつらは?」
『指定フロアの住人を退去させた後、陽と岳は所定位置にて待機。雪と雨は指定フロアに戻って敵と交戦。ここまでは作戦通りだね。』
「だからって油断するなよ?・・・こっちも作戦通りに動く。天から情報は?」
『敵の情報を仕入れてくれたよ。敵は元ロシアンマフィアンの幹部の一人。今は傭兵を主に活動しているヴェチェラーセ・トヴァニコフ。』
(元幹部だと?・・・これは手間取りそうだ)
「なるほど、だから部下達だけでこんなにも時間が掛かるのか」
『彼方なら問題無いと思うけど、トヴァニコフだけには気をつけなさい。出し抜くには細心の注意を払ってね』
「ああ、その情報は岳と陽のも教えておけよ」
『了解っ!』
通信が終わる
その間ずっと銃撃戦をしていたのだ。壁に背を向け、立向かう敵へ壁に寄り添いながら迎撃する
通路は一本。端の曲がり角を利用してお互いが迎撃している形だ
それに、使っている銃は全員サプレッサーをつけて、銃声を鳴らさないようにしている
ソヴィは殺さないようにしているので、足元や太ももを狙い打つが人数が多すぎる
(これじゃあ、回り込まれるのも時間の問題か・・・)
「水隊長ッ!」
若干野太い声が後ろから声がした
「雨か。そっちから来る敵は斃しておいたか?」
「勿論です。ですがいずれ回り込まれ挟み撃ちにされます。・・・どうしますか?」
「雪はどうした?」
「挟み撃ちにしないよう、足止めしています・・・チィ!」
雨を加え、3人で迎撃する
湊と雨は容赦せず狙いうち、数を減らす
この道が一番屋上への近道なのだが、これじゃあ通るに通れない
ここで一つ。湊が提案する
「・・・策があるんだが、お前等聞くか?」
「この状況を打破できるのなら、聞くけどッ!」
「それは成功率が高いんです、かァ!」
「それはお前達の努力と根気次第だ。・・・俺は回り込まれる道に来る敵を雪と共に排除する。お前達はここの敵を足止めし時間を稼げ。その後ろを俺達が叩く。その隙にそこをお前達が一斉射撃で斃すんだ。タイミングは俺が後ろを向いた瞬間からジャスト2分だ。いいな?」
「・・・解ったわ。それで行きましょ」
「単純だが、解りやすくていい作戦ですね。足止めくらいお安い御用です!」
「よし・・・ああそうだ、ソヴィ。一つ言っておきたかったんだ」
「何?手短にお願い・・・っね!」
「お前は普段、俺なんかに手助けされるような人間じゃないだろ?だから・・・出来る限り自分の力で何とかしろよ」
「・・・言われなくたって、私はそのつもりだよ。利用できる物は利用し、使える手段は片っ端から使っていく。いつだってそうだった。それはこれからも変わらないわよ」
でも、少しだけ変わったところがあるけど
それはあえて言わない
「ならいい・・・・俺達の目的は屋上へ行き、脱出することだ。これを忘れるな。カウント3で行くぞ。時間、測れよ・・・・・3・・・・2・・・・1・・・ッ!!」
カウント通り、湊は0になったと同時に後ろを向き、疾走した
2分間。ここで私と雨(?)さんで食い止めること
向こうも簡単には突撃できないだろう。何せ敵情把握できていないのだから
その証拠に今も向こうはずっと銃弾を撃っているだけだ
下手に手出しが出来ないのはお互いさま
なら少しの間。そうこの約2分間会話が出来るだろう
この人から見て湊はどう思うのか
私達が知らない湊を知っている人間だ
だから、多少なりとも気になってしまった
「・・・雨さん。私達も2分後に仕掛けましょう」
「へえ、以外に好戦的だね。お嬢さん」
残り1分40秒
「私はただ自力で脱出したいだけ。湊にばかり頼ってばかりじゃ情けないし」
「隊長に任せておけばあっという間に終わるが・・・まあいいだろう。多少暴れたって怒られはしないだろうから、なッ!」
「・・・ねえ、貴方みたいな大人が湊とような子供に付き従っているの?」
残り1分12秒
「年齢は関係ないな。実力があれば従う。それだけだな、少なくとも俺はそうだ」
「どうして私を助けに来たの?」
「質問攻めだな。まあいい、確かにお嬢さんを助けに来たのも事実だが、もう一つ別の目的があるんだよ」
「・・・別の、目的?」
「ああ、前に俺達をだしに使った奴がこの辺にいるって情報があってな。その一人が今回の指揮官であるーーーーーあぶねッ!!」
飛び交う銃弾の一つが雨の顔を横切った
残りーーーーー19秒ッ!
「雨さん、スモークグレネードとか持ってます?」
「あ、ああ持っているが」
「貸して下さい。今すぐ!」
10秒
懐にあるスモークグレネードを取り、ソヴィへ渡す
「この線を抜けばいいんですね?」
「そうだ、それを投げれば数秒で効果は発揮されるが・・・」
6秒
「・・・ッ!!」
線を抜く
そして、相手に向かって思いっきり投げる
予定時間までーーーーー2秒
「行きますよ!雨さん!!」
「仕掛けるってこういうことかよッ!」
ーーーーーー0秒!!
0秒と同時にスモークグレネードは煙だし、相手の動きを制限させる
ーーーーーーーそしてスモークの効果が薄れた時の光景は、あまりにも非現実的なものだった
いや、その光景が出来るまでの過程を完全に目視したものは誰もいなかった
そして、誰も考えはしなかっただろう
敵の数は合計15人
その3分の1は反対側へ対抗していた
つまりは10人近くがソヴィと雨が相手にしていた数だ
だが、スモークグレネードの煙が晴れた時には
10人全員悶え苦しんでいるではないか
ほんの数秒の間に、だ
雨は完全に出遅れた
だからこそ後方でその光景をぼんやりだが見ていた
ソヴィの動きを。その動きは一流の兵士にも劣らぬ疾さ
最初の2人は持っていた銃で足を狙い撃ち、立てなくさせる
その瞬間に銃を捨て、持っていた8本の内の2本のナイフを両手に掴み、相手の銃を持っている、つまり利き腕であろうその腕をナイフで深く切り刻む
この間約0.8秒
そして次は3人。この3人も同じくナイフで利き腕を切り刻むが、その後に持っているナイフを思いっきり太ももへと抉り刺す
この間約1.2秒。つまりここまで一人当たり0.4秒の速さで斃していることになる
そして次の2人はその異変に気づき即座に臨戦態勢に入るが、既にその時にはナイフを両手に持っていた。その行動にソヴィは気づき瞬間の早さで2人の片目にナイフを投げる。そして残りのナイフを両手に持ち同じく銃を持っている腕をナイフで深く切り刻む
この間約0.9秒
これで残りは3人。ナイフの残りは3本
だが既にこの頃にはスモークグレネードの効果は薄れてきていた。故に敵は対抗できたのだ
相手は幾つもの戦場を潜り抜けてきた兵士。現装備は確かにスーツなので防御は薄いが、逆に動く早さが増しているということ。鍛え上げられたその身体を屈指し3人は対抗する
一人はこの距離では銃では当たらないと判断し、即座にサバイバルナイフに切り替える
ーーーーーが、その瞬間を狙われた
一人がサバイバルナイフを手にした瞬間、ソヴィはその手に目掛けてナイフを投げる。ナイフは見事に命中し、手の甲に刺さる。その結果手力が抜け、サバイバルナイフを落とす
縮地法でそのサバイバルナイフを前屈みなりながらも一瞬で右手で奪い取り、ソヴィの身体を少し浮かせ、身体を横に回転し、縦に円を描く様な一閃を放つ。これによりナイフで傷つけられた手の甲
はさらに抉られてしまう
さらにその一閃は隣に居た敵にも当たる。勿論それを狙っていたがための一閃だったのだろう。
その一閃により左腕を肩から手の甲まで切り刻まれた後、ソヴィはすぐさましゃがみそのサバイバルナイフでさらに横へ薙ぎ払うかのような一閃を放つ
これにより最初にナイフで抉られた一人は右足を切られ、肩から手の甲まで切り刻まれた敵は左足を切られる
この間約2秒
だが既にこの行動が終わっていた時、最後の一人はソヴィへ銃口は狙いを定められていた
そして引き金を引いた。ソヴィの頭に銃弾が飛ぶ・・・はずだった
寸前で左手に持っていたナイフを手首のひねりのみで投げ、銃本体にほんの少しだけ当たり弾道がずれる
・・・・2本。左の頬にこれで2本の傷跡を付けられた
しかしそれを何とも思わない。むしろこの程度で済んでよかったと思っている
腕の1本は覚悟していたから
弾丸が外れたことに驚き硬直する。その間にソヴィは体勢を立て直し、左足による回し蹴りが銃を持っている男性の頭に勢い良く直撃する
さっきの優男の時とは違い、そのまま頭を踏みつけるかのように壁に叩き込み完全に気絶させた
・・・人を殺さず、生きて変えるなんて。こんな状況なら普通欲張りすぎると考える
だからこそ、五体満足で帰ろうとは思っていなかった
傷つけられる、傷つく覚悟をしていたから
こんな無謀な特攻を仕掛け、敵を倒すことを優先したのだ
最も、湊にばかり頼りたくないという思いも本当でそれが頭の中の大半を占めていたのだが
「・・・・・え?」
敵を倒したら、そこに湊がいるはずだ
上に行くにはこの階段が一番近い
反対側の敵を倒した後、ここから上へ行くしかないのだから
だが、湊はそこにはいなかった
そのかわりに残りの敵が全員殺されているではないか
(・・・さっき、残り1秒の時に少なからずフラッシュバンの閃光が見えた。いることは確かだしこの人達を倒したのも湊のはずなんだけど・・・一体何を考えているの?)
ーーーーーーパァン!
後ろからすぐ近くで銃声が鳴り響いた
・・・どうやら私が撃たれた訳ではないらしい
「まだまだ甘いな。殺したくないなら両腕を削ぎ落とすことだ」
すぐさま後ろへ振り向く
すると雨さんが敵の一人を銃で殺していたのだ
(しかし、なんて速さと容赦のなさだ。これじゃあ殺さないよりも性質が悪い。特殊な訓練をしてきたのは銃を簡単に扱ってる時に解ってはいたが、ここまでの動きを見せてくれるとそれはもう並々ならぬ努力をしてきた証だ。一体どうやったら年頃の女の子がここまでの力をつけることが出来る?)
「・・・・すみません」
冷静に謝罪する。だが、一番謝りたいのは雨の方だった
「いやいい。むしろ俺の方が何も役に立ってなくて申し訳ねぇ。それより早く上へ行こう。」
(俺なんかが考えるべき事じゃないな。このお嬢さんは隊長の関係者だ。なら隊長に全て任せればいっか。俺は隊長の命令を最後まで完遂することだけを考えよう)
命令遵守。それこそが部下の役目
当たり前だが、その当たり前をこなすことが一番難しい
だから、余計なことは考えないで置く
俺なんかが知っても意味が無いと言い聞かせて
「あの、湊がいないんですが・・・」
「・・・隊長のことだ。何か策があってのことだろう。それに今居ない人間のことを考えても仕方ない。俺達は当初の目的通り屋上に行き、脱出しよう」
「ーーー・・・そうですね。その通りです。」
そうだ、居ない人のことを考えても仕方ない。
今出来ることをやろう
ーーーーーーーー俺達の目的は俺達の目的は屋上へ行き、脱出することだ
ーーーーーーーー出来る限り自分の力で何とかしろよ
つい先ほど私に湊が残していった言葉を思い出す
「・・・ああ、そうだ。私は私の力で何とかする。自分の身ぐらい、自分で護る」
言い聞かせる、言い聞かせる
それはまるで催眠術のように、何度も言い聞かせる
他人ばかり頼ってはいけない、と
まずは自分自身の力で切り抜けなければ、と
勿論今までだってそう生きてきたしそう言い聞かせてきた
だが、それでは不十分だったのだ
ならこの失敗を糧に更なる成長を遂げよう
もう二度と同じ過ちを犯さないために
「・・・行きましょう、雨さん。貴方の言う通り今は上に行くのが先決です」
「・・・どうしたんだい、お嬢さん。顔つきが変わったぜ?」
「それは良い方向にですか?悪い方向にですか?」
「勿論、良い方向にだ」
ニカッと雨さんは笑う
つられて私も笑ってしまう
こんな状況なのに、いや、こんな状況だからこそなのだろうか
なにせ私は今、"楽しんでいる"のだから
階段をそのまま上がればいいというものではない
敵を全員倒さなければ後々追いかけられ挟み撃ちにされるからだ
だから屋上までの3フロア、全てを確認し迎撃する
そして、屋上に上がるころには既に雨さんが所持していた弾薬は底を尽き
今持っている雨さんの銃2丁。そして私の持っている銃1丁に入っている弾薬だけだ
そんな状態でも、行かなければいけなかった
他に仲間はいないのかと聞いたが、各自やるべき仕事があるということ
雪という人物は恐らく湊と行動しているとか
残りの陽と岳という人物も各箇所での仕事があるらしい
そして、屋上に辿り着く
思いドアをこじ開ける
するとヘリポートの真ん中には、風格のある男性が立ちふさがっていた
その後ろには2機にヘリが着陸してある。一つは輸送ヘリ、もう一つは護衛ヘリだろう
私一人のためによくもまあここまで用意するものだ
「ーーー・・・ほう、君がソヴィトヴィーニアか」
第一声はその男性からだった
「・・・ええ、貴方が連中の首謀者ね」
さあ、最終決戦だ。
現状はすでにピンチ。何故なら向こうはヘリがある
さらにその男性の取り巻きに3人いる
対してこっちは二人、しかも武器は銃とナイフのみ
しかも弾薬はもう底を尽き、ナイフはこの状況では役に立たない
所謂、絶体絶命なのだ
だがそんなことは百も承知
道中で解っていたこと
しかし下に逃げれば一般人を巻き込むことになりかねない
それだけは避けたい
ならばどの道、屋上を目指すしかないだろう
こんな現状でも・・・
だが万策尽きたわけでもない。
まだ一つの可能性がある
私はそこに全てを賭ける
だからここまで来たのだから
ーーーーーさあ、もうこんな茶番劇は終わりにしよう。
ここで全て決まるんだ
私の未来の在り方がーーー・・・ッ!
解りにくいかもしれませんが、ノリで楽しんで頂ければ幸いです




