彼と共に
銃弾は、ソヴィの真横を、頬に一筋の傷を残し横切っていった
「ーーーーー・・・・ッ!」
それは優男が意識を取り戻し後ろから襲い掛かろうとしていたからである
それを、頭部のど真ん中に当てるかつ、ソヴィに当たらないようにした結果だ
「・・・今の質問はここから出るまでに考えてくれれば良い」
「いや、あの・・・質問の意味が分からないんだけど。どうして死んでいる父に会うことが出来るの?それは私が死ぬか死なないかを選べって質問なの?」
「いや、単純に逢いたいのか逢いたくないのかって質問だ。それ以外に意味は無いし、返答次第でお前を殺すつもりも無いから」
「・・・ひとまずは、置いておく。それよりここからどうやって脱出するつもり?指揮しているリーダーを倒すのか、それとも火事なりなんなりと騒ぎを起こして、その騒ぎの乗じて脱出するのか・・・」
今考えた簡単なアイデアを伝えてみる
「そこは考えてある。まあ単純にーーーーー」
強行突破だ
笑いながら、嗤いながらそう付け加えた
・・・久々に見るのに一番最初に見たのがこの表情とは
何ともいえない
「まあ作戦は後で伝えるよ。なあに、何も俺一人で来た訳じゃない。頼りになる戦友と一緒だ」
・・・頼りになる?
この言葉は一見からして普通だが、彼の口から出るには異常すぎる言葉だ
いつだって周りと一線を置き、絶対に信用しようとしない湊が
頼りになる、信頼できる存在を見つけ、こんな危険な場所まで連れてきたというのだ
これが稀有にして何であろうか
でもーーーーー
「・・・そっか、なら大丈夫だね」
「・・・そう思いたいが」
なにやらまだ心配ごとがあるらしい
勿論、私は心配なことだらけだが
「今回の首謀者はなんとなく分かったんだが、その首謀者の付き人の力量が分からない。これはかなり厄介な事なんだよ。恐らくその付き人が一番厄介だ。これだけ調べて何も情報が出てこなかったってことはアイツ並みに面倒な相手になりそうだ」
「この優男はその付き人じゃなかったの?」
死体を見下しながら質問する
「そいつは確かに付き人だっただろうが、その上が居るはずだ。主戦力は最後まで取っておくものだからな。だから、そいつを炙り出す」
「・・・どうやって?」
「それは簡単だ。だがその後が博打なんだが・・・」
どうやら困っている様子だ
それでも、私は彼がこの状況をひっくり返すだけの力があることを信じる
・・・いや駄目だ
信じるだけじゃ駄目なんだ
信じ、信じられなければいけない
そうすれば可能性は広がる
勿論、リスクも多くなるが成功すればそれ以上のモノが手に入る
だから・・・
「ーーーーーー・・・湊」
「なんだ?」
だから、今ここで口にして言う
「今の私は彼方を信頼している。信用している。だから・・・湊も私を信頼して欲しい。私を護るべき存在ではなく、助け合える、協力し合える、支えあえる相手と見て欲しい。」
そう、今の私だ。かつての私は絶対に人を信用なんか、信頼なんかしなかった
それは人を信じることを恐れていたからだ
過去のトラウマ
日常に虐げられた思い出は今でも私を苦しめる
その苦しみこそ、それを克服したいからこそ、私は強くなった
そして同じ過ちを繰り返さないために、人を信じようとは頑なにしなかった
だが、どうだろうか
彼はこんな場所まで来てくれた
彼は人を信頼してまで私のところまで来てくれた
少しの間だけだけど、彼と一緒に暮らしたから解る
私と似て、人を心の底からは信じいない
そんな気がしていた
そんな彼が、誰かを信じて私がいるロシアまで来てくれたのだ
周りからすれば当たり前のことなのだろうが
私達人間不信にとってはとても稀なことだ
そんな、代償を払ってまできてくれたのだ
たすけて、そう一通のメールを送っただけで
だから信じよう
そして信頼しよう
その代わりといっては何だけど、これは単なる欲だけど、私のことも信じて欲しい
確かに、こんな場所で拉致された私だから、弱いと思われても仕方ないだろう
戦力不足だといわれても文句は言えない
そんな私でも、彼方を支えたい
だから、私も一緒に戦わせて欲しい
これはお礼とか感謝とか、そういう意味ではない
ただ、彼方の隣に立ちたい
そう思っただけだ
「・・・・・・」
流石の湊もここまで言えば驚愕していた
だが次の瞬間には少し考え、その答えを伝えるのだが
「・・・・はっ」
そして私の真意の言葉をこの男はあろうことか鼻で笑ったのだ
「な、なんで笑うのよっ!」
「いや、そうだな。やっぱり俺はどこかお前を甘く見ていたんだって自覚したんだよ。女だから非力だ、弱い、未熟だって決め付けていたのかもしれない。だから、そうだな・・・・」
それは嬉しそうなのか、それとも悲しそうなのか
どっちとも言えない表情で私に言った
「いやなに、気づかされたんだよ。今鼻で笑ったのは俺自身に対してだから気にするな。・・・しかし、俺も大概だけどお前にもそういうところがあるんだなって思ってさ」
「・・・どういう意味よ?」
「それはまたーーーーーーー」
湊はポケットから携帯を取り出した。それは誰かからの通信が着たからだろ想像できる
「そっちはどうだ?・・・・解った。ならこっちも作戦通りに行う・・・ああ、皆にもそう伝えてくれ。月は《つき》引き続き念のために情報収集を・・・ああそうだ。んじゃあまた後で」
電話を切り、携帯をポケットに仕舞う
さっきまで話していた時の顔ではなく、そこにはもう既に最初にこの部屋に入ってきたような真剣な顔つきになっていた
「・・・んじゃあ、時間だが・・・準備は出来てるな?」
「ーーー・・・・ええ」
覚悟は出来た
いや既に出来ている
私は絶対に人を殺さない
殺さず生きて帰ってみせる
何が来ようとーーーーー
誰が相手だろうとーーーー
ーーーーー私は彼と共に帰るのだ
「・・・ああ、そうだ。俺はお前が助けてと頼んできたから助けに来たつもりなんだが・・・今のお前はどうだ?助けられたいか?生きたいか?それとも死にたいのか。どれなんだ?」
「・・・違う、どれも違うよ湊。彼方らしくない。」
言いながらほくそ笑む
「・・・・へぇ、ならソヴィトヴィーニア。お前は何がしたい?」
生きるか死ぬか。今の私にそんな贅沢なことを選択できる立場に無い
結局湊が助けに来なかったら、私は連れて行かれていただろう
父の技術を持っても、銃弾に敵うわけが無い
そこは弁えている。
だからこそーーーーーーー
こんな惨めな考えをさせたあいつ等を許せない
つまりはプライドの問題
単純だ。元より私は細かいことを考えるのに向かない
短絡思考、それ故に単純にして明快。
目的は二つ。それはーーーーーーーー
「生きて帰るなんて当然だよ。私は、こんな目に遭わせたあいつ等に一泡吹かせたい」
そう、私はいつだって復讐を糧に生きてきた
そして今の復讐相手は私を拉致した奴等だ。
そして、その復讐が果たされた時ようやく当初の目的に戻ることが出来る
父を殺したヤツへのーーーーーーーーーー
「ーーーーー・・・・いいだろう。だけど、間違ってもお前は殺すなよ。一度その道を選んだんだ。そのまま突き通してみろ」
始まるーーーーいや、ようやく終わるのだ
そして、あの日常に私達が帰ることが出来て、ようやく始められるのだ
平和で退屈で、普通の生活がーーーーーーーーーーーー
割愛されていますが、一応本編の方はクライマックスです




