僕と俺
「ーーーーーーーーんで、その後学校へ行ったら地震の影響で校舎が危険だから一時的に別の学校へ行けって言われたんだっけか」
・・・・もう、うろ覚えだ
記憶が朦朧としている
ここまでよく覚えていたものだ
・・・・ああそうか
それほど濃い日常だったんだな
それほど、楽しかったんだな
今になって気づくなんて
俺も鈍感なものだ
「・・・続きを聞かせて?」
「ああ。それで天音が裏で働いてソヴィと同じ学校同じクラスになったんだ。それからソヴィはことある事に俺のところへ来て雑談や勉強を教えたりしたな。ソヴィはモテるから、俺みたいな根暗に何故完璧超人がいつも傍にいるのかってことで学校中の話題になって大変だったよ」
「ふふ、ソヴィちゃんは知らないことにはとことん知ろうとするからね。昔はそのせいで朝から晩まで図書館に篭っていたこともあったかなぁ」
「自分のPCも持ってきてたくらいだし、母が与えたアイフォンもあるからそれはなくなったと思う」
「それはよかった」
・・・さて、どのぐらいまで話しただろうか
「ああ、そうだ。それからは普通と呼べる日常が続いたんだよ。それで、まあ問題はクリスマスでな。女って奴はそういうイベンには本気だから面倒だったな」
「年に一度のイベントなんだからいいじゃない」
「まあ、な。耕哉に海に美樹に美月にレツオ。みんなを俺の家に勝手に呼んでパーティーらしきものをやってそのまま皆疲れて眠ったんだったな」
「あら、美樹ちゃんとは仲悪かったんじゃなかったの?」
「その後に俺の何が起こってるのか、そして俺が何を考えてたのかを白状して和解したんだ」
元々それが原因だったからな
「よかったじゃない。これで昔みたいに仲良くなれたんじゃないの」
「そうだな、昔付き合ってた以上にベタ付いてきてな・・・俺よりも強く気高く誰にも屈しない精神に成長してるはずなんだけど・・・って、俺はいつまで過去語しなくちゃいけないんだ?」
「こんな場所だモノ。いつまでだって時間はあるわ。そして、あなたが消えるまでいつまでも傍にいるわ」
「・・・・・そうか」
そう、ここは有川湊の・・・そうだな、精神世界とでも言うべきか
そんな場所でなんで俺はミーシェと過去話をしているのか
答えは単純。有川湊本来の人格と入れ替わったからだ
ならそれは何故か
記憶欠落
その正体は本来の人格がただ自分の奥底へ逃げただけだった
だから、有川湊としての精神《記憶》は欠けて落ちていった
人格が心象世界の奥底へ逃げたおかげで、この身体は行き場を失った
あのままでは植物状態か、はたまた意識不明のまま一生を過ごすことになっていただろう
逃げた理由は、本来の人格がミーシェの死を直視してしまい全てに絶望したからだ
言うのは簡単だが、恐らく途轍もない衝撃的だったのだろう
幼く惨めで弱い有川湊にとっては
そして、俺が生まれた
人であれば誰もが持っているモノ
感情
感情は人格と連結している
だが、ある感情は身体にまで身にしみているものだ
それこそが、マイナス感情。畸形の正体
憎み、怨み、妬み、悲しみ
この感情だけは身体の芯にまで身にしみている
そして、そんな中。俺は有川湊が願った一つの祈りとして生まれた
強靭で強固な精神で有りたい
強ければ、何もにも負けない
強ければ、全てを受け入れることが出来る
そう思った
そう強く思ってしまった
だけど、弱かった有川湊はそう在りたいが、そう在るがための努力をせずに逃げた
だから俺に託した
無意識に、俺という存在に有川湊の身体を譲渡したんだ
強靭で強固な精神に
だが、俺はそんな存在じゃなかった
強靭でも強固でもなかった
俺は無欲なだけだったのだ
無欲であれば、負けたって何とも思わない
無欲であれば、全てがどうなっても何も思わない
そんな存在なのだ
そんな存在に、有川湊は身体を託したのだ
バカだよな
本当にバカだよ
だが、身体に染みこんだ畸形は無欲が身体を持つことを許さなかった
逆に無欲を侵食し始めようと考えたのだ
それが、俺の統合失調症の正体
普通の人間はマイナス感情を視ることは出来ない
だが、俺は精神世界の中で生まれた存在だ
侵食してくるコイツらを視ることぐらい容易い
それに気づいたのが・・・いや、それを思い出したのがここに再び来た時だった
全て遅かったのだ
でも、思い出していない状態でもしっかりと正しい選択していたことには安心した
さて、入れ替わった結果どうなるか
まあ恐らく、時間が経てば薄っすらと跡形も無く消えるだろう
それは本来の人格と融合するという意味
もとは一部だった俺が、ここまで自立的になってしまった
そうそう消えはしないだろうが、先も言った通り時間が解決してくれる
「・・・退屈だな」
「私が居るのに?」
「ああ、何せ俺とアナタは面識は一切無いからな。アンタがどういう人間かは知らない」
「知ってるくせに」
「知識として知っている。だけど、対面したことも無かった人物だ。その人物の人柄までは分からないさ」
「・・・そう、だね」
「なぁ・・・結局のところ、アンタは一体何なんだ?さっきまでこっちが昔語りしてたから、今度はそっちがしてくれ」
「これから消えるのに?」
「お互い様だろ」
「その通り。さて・・・・」
知識だけ知ってる
湊の経験だけ頭に入っている
それだけだ
それだけしか知らない
この女、ミーシェがどういう存在なのか
それを聞きたい
勿論、タダの興味本位である
「今の私はね、恐らく未練なんだと思う。あなた・・・湊を置いて去ってしまったことへの未練。だから女々しくもこんな場所まで追ってきたの」
「猫の姿になってまでか」
「ええ、それに猫大好きだから願っても居なかったわ」
なるほど
「俺を畸形から救っていたのはお前だな?」
「そうね。でも途中からもう私の力じゃどうすることも出来なかった」
存在が薄まってきているの
そう付け足した
薄まっていくより、現世に居られる時間が少なくなって来ているの間違いだろう
もう死んでいるのだから
「それでーーーーーーーー」
『・・・なんだ、これ』
「「・・・?」」
2人して疑問の顔を浮かべてしまう
この声は本来の人格である有川湊の声だ
一緒だが、声色が違う
勿論現実世界で話せば一緒だが、ここは精神世界
精神年齢に比例しているのだ
ーーーーーあるビジョンがこの世界を覆った
それは携帯。スマートフォンを手に持つ有川湊視点だろう
そのスマートフォンにはこう記述されていた
たすけ
差出人:ソヴィトヴィーニア
「「ーーー・・・?!」」
流石に驚愕した
あいつがこんな直接的に助けを呼ぶことなんて、それこそ最初の時ぐらいだ
つまり、自分の命が危険になった時
それは絶対に他人を信じないソヴィだからこその苦渋の決断
頼ると信じるは違う
だから今まで頼ることはしてきても信じることはなかったであろう
だが、どうだ
このメールの文
俺を信じ、頼ろうとしている
希望として
「・・・・・・」
俺は呆然と眺めていることしか出来ない
今のこの身体の所持者は湊だ
俺ではない
・・・・今すぐ助けに行ってやりたい
そう思ってしまった
この俺が
他人を助けてやりたいと
救ってやりたいと
・・・・いや、そうか
俺にとって、アイツはもうーーーー
『たすけてって・・・・どうやって助ければいいんだよ』
・・・そうだった、湊にはこの記憶を渡していなかった
こいつには一般人としての日常を歩んで欲しいと思ったからこそ、この記憶を渡さなかった
渡したところで、意味が無いと思ったからだ
それは今の状況でも変わらない
だから、今の湊でソヴィを助けてもらうしかない
『普通に無理だろ・・・君は今ロシアに墓参りに行ってるんだから・・・はぁ・・・』
湊はそのままそっとスマートフォンを机の上に置いた
「・・・おい」
何やってんだよ
助けに行けよ
アイツは俺たち日常には必要不可欠な存在だぞ?
それを護らずしてどうする
・・・いや、違う
俺と湊は、別人なんだ
別の人格なんだ
だから、俺があの思い出の場所で誓ったことなんて知らないんだ
「・・・・この」
だからなんだよ!
別な人格だろうが、今まで引きこもっていようが
女一人助けに行けない、行かない
そんな情けない男にお前はなろうとしたのかッ?
お前はミーシャの死で一体何を学んだんだ?
「馬鹿野朗がッ!」
ーーーーー刹那、漂う畸形が一斉に有川湊へ向かう
・・・・ハハ
滑稽だろ。今まで散々コミュ力ないだ人が苦手だ俺に構うなとか言って来た俺が
今、ソヴィを助けたいと思っている
この無欲が
そんな欲求に駆られているんだ
『・・・!?』
そしてーーーーー湊の視界が畸形に覆われる
ーーーーーー落ちる
人の精神のどん底の部分へ
オレとミーシャが居る、もうすぐ消えてしまうそんな世界に
お前が創り出した世界に
有川湊はもう一度落ちる
そしてーーーー
俺たちは再び対面する
もう対面することは無いだろうと思っていたが
こいつはもう救いようがない
だから一度、コイツの根性を叩きなおしてやろう
お前が望んだ、強靭で強固な精神として
お前よりも現実世界で過ごしてきた俺から最後のプレゼントをくれてやる
「よう、また逢ったな」
「・・・・君は、僕はなんでまたこの世界に?」
「分からないのか?いや、気づいているだろう。気づいてないフリをしているだけだ」
「ーーーー・・・・ッ」
あーあ、俺はいつからこんな熱いキャラになったのか
いや、そうじゃ無いか
結局誰だって、自分の欲のために動いているんだ
俺もそれに準じただけ
つまり、俺はようやく人並みに成れたってことか
「なんで、助けに行こうとしない」
「・・・言っただろう。行ける事なら行きたいけど、行けないんだ。行く方法も、現地のことも何も知らないんだ!こんな状態で行ったって無謀なだけだ!」
「無謀ってだけで放置するのか?あのソヴィトヴィーニアだぞ?一人で何でも出来る完璧超人がお前に助けを求めたんだぞ?お前はそれを無謀だからって無碍にするのか?」
「無碍になんかしたくない!出来ることなら助けたい!・・・だけど、どうやって海外まで行って、言語も分からず探し出すんだ!?それにたすけてってことは、既に行方を暗ましてるって意味なんじゃないか?そんな状態でどうやって見つけるんだよッ!!」
「・・・・そうだな、確かに無茶振りだ。だけど、そんな状態でもお前が救いたいと、行動に移すなら俺が力を貸しても良かったが・・・それがどうだ、お前が取った行動を見直してみろ。お前はそのスマホを机の上において日常に帰ろうとしたんだぞ」
「それは・・・・ッ!!」
「誰かに相談すると考えなかったのか?誰かに頼るという発想は無かったのか?まあ、俺が言えた義理じゃないんだが・・・・・ああ、そうだ。お前も気づいているんだろ?」
「・・・何に?」
「お前を待っていた存在なんて、居ないことにだよ」
「ーーーーーーーーー」
俺は決して熱血なヒーローなんかじゃない
俺は決して悪を好むダークヒーローでもない
ましてや主人公でもない
この身体は湊のモノだ
そして無欲はその一部に過ぎない
だけど、それでも
オレは欲を持ってしまった
だからオレはこの欲に従う
人間らしく、最後まで生きてみせる
悪いとは思っているよ、湊。だけどーーーーー
オレはオレの欲を貫き通してもらうぞ
「お前、何年ここで篭ってた?確か小3からだよな?ってことはざっと10年ぐらいか。・・・10年だぞ?誰がこの身体が湊だと信じるよ。信頼関係友達関係恋人関係、それら全部作ってきたのは無欲だ。勿論、無意識だがお前がいつでも現実に帰ってきてもいいようにと創ってきた関係だ。だがどうだ。味わっただろ。周りがお前を見て驚愕と不安の顔を浮かべてただろ?」
「そ、それでもこれからまた築きあげていけばいいだろ!例え僕が君が作った関係から望まれていない存在でも、僕は僕として現実に生きていくと決めたんだ!きっと皆だって分かってくれるはずだ。だってこれが真実なんだから」
「・・・そうだな。それが真実だ。それに俺が何者であるか、お前が何者であるかは周りの連中に説明してから俺はお前と入れ替わったんだから。自ずと認めてくれるだろうよ」
「ああ、皆に認めてもらうように努力して今までよりもいい関係を持つように頑張るさ」
「それで?」
「・・・え?」
「お前は一番最初に認めてもらうのに必要な存在をこのまま見殺しにするつもりなのか?」
「・・・ッ!?」
そんなこと、させない
アイツはもう俺たちの、みんなの日常に必要不可欠な存在になったんだ
だから、見て見ぬフリは許されない
他の誰が許そうと、お前が見殺しにしたことを俺は決して許さないだろう
みんなのためにも、そしてーーーー
「でも、ならどうすればいいんだ?!僕にはこれ以上考えられないっ。だから・・・情けないけど、教えて欲しい。」
「・・・・お前は、本当にソヴィを助けたいと思っているのか?」
「勿論だ」
「なんとしてでも?」
「当たり前だ。」
「・・・なら」
我ながら心底意地の悪いモノだ
でも、仕方ない
全ては湊が決めること
俺は選択肢を用意してやることしか出来ない
だから、言おう
そしてそれでも無様なことを言うのであれば、俺も覚悟を決めよう
本当はしたくない
これは俺が背負う十字架なのだから
「他人」に押し付けるような真似はしたくなかった
「有川湊・・・お前が消えても護りたいか?」
「・・・・・どういう、意味?」
「言ったとおりだ。用は俺とお前がまた入れ替わるってことだ。そうしたら俺は全力でアイツを助けに行く。そしてお前はもう二度とこの世界から出ることが出来ない。自分から人格としての死を望むか、この身体が朽ちるまでな」
「・・・・なっ!?だっだが、確かに僕の力じゃ無理だ。そして君なら出来るのかもしれない。だけど、入れ替わった後ソヴィを救出した後にまた入れ替わればいい話じゃないのか?」
「・・・俺もそうしてやりたかったんだが、どうやらこの身体に染み付いた畸形が・・・この身体に染み付いた感情達がそれを許してくれないらしい」
「・・・そういうことか」
「さあ、選んでみろよ。自分が死んでも護りたいか、それとも死ぬのは厭だから惨めで無様なまま生きていくのか」
「・・・・・・・・」
そうだ、悩め
悩み考え抜け
俺が選択肢を用意してやる
俺がお前を導いてやる
結局、俺もお前の一部だったんだからな
少なからずの親孝行はさせてもらうよ
「因みに、後者を選んだ場合・・・ここで俺を殺してみろ。じゃないと俺がお前を殺してソヴィを助けに行く」
「・・・・ッ!」
「・・・・ああ、そうだ。もう一つ選択肢があった」
「これ以上、何があるんだい」
苦笑いすら出ない、余裕の無い顔
俺はそこに、お前にとって唯一の希望を捧げてやる
「ーーーーーー真実を知ること。そして受け止めることだ」
「しん・・・じつ?何をいってるんだ?」
「お前、まさか俺が過ごしてきたこの10年間の記憶を全て渡したとでも思っているのか?」
「・・・え?」
「お前にはひだまりで暖かい、平和で普通な日常の記憶しか渡していない。・・・・これで察しはつくな?そうだ、俺は色々なことをしてきた。その色々なことには普通の人間では考えられないことだって沢山ある。この記憶はお前には意味の無いものだと思ったから渡していなかったんだが・・・これを受け止めることが出来るなら、お前はソヴィを救い出せるのかもしれない」
「どんなことを・・・してきたんだ?」
「そうだな、核心の部分を教えたら意味がないから、それを避けて今教えるとなると・・・・・俺が軍で活躍していたこととかかな?」
「軍?・・・なるほど。それなら確かにソヴィを助けることが出来るかもしれない」
ーーーーさあ、選択肢は出し尽くした
どれを選ぶ
本当の人格、有川湊・・・・・ッ!!
次から時系列が飛びますが、要約しているので問題ないです。決して書くのが面倒になっとかじゃないです




