覚悟
ロシア ヴォルゴグラード
「ここが貴女が数日過ごす部屋になります」
とある高級ホテルの最上階から3番目の部屋に案内される
その部屋を一言で表すなら、素晴らしい
何でもある、そう印象付けるほどのスイートルーム
しかし・・・
「勿論、この部屋は外との通信を遮断させて貰っています。連絡は出来ませんのでご了承ください。数日後、こちらの準備が出来次第とある場所へ向かいます。そこで貴女には貴女の父が残したデバイスの在りかを吐いてもらいます。・・・否が応でもね」
「・・・・・」
「それでは、私たちはこの辺で。見張りは外に居ますので、存分にお寛ぎください」
そういい残し、男たちは部屋から出て行った
「・・・なんで、こんなことに」
元を辿れば、私が不注意すぎたのだ
私の故郷はここのヴォルゴグラードという都市の近くにある
そこへ行くためには、勿論ヴォルゴグラードへ行かなくてはならない
・・・・・そこで寄り道をしている間に、同行してくれたレツオが行方を暗ました
何処へ行ったのだろうと考えていた瞬間、携帯が鳴る
それはレツオ携帯から掛かってきた
「レツオ?今どこにーーーーー」
『こんにちは、ソヴィトヴィーニア』
その声は明らかにレツオの声とは違った
例えるなら優男を気取った犯罪者のような
「誰ですか?」
『名前は名乗れない。しかし、用件は言おう』
「・・・何かしら?私みたいな一般人に彼方の様な人から用があるとは思えないのだけれど」
『はははは、君がその辺の一般人な訳が無いだろう?ヴェルニクスの娘さん』
「・・・・ッ!!」
やはり、父の関係者か
『用件というのは・・・そうだな今からある画像を送ろう。それで分かる』
そう言うと男は通話を切り、直後に画像が送られてきた
「ーーーーーーー」
その画像には、男たちの手で押さえつけられているレツオが居た
そして、また電話が掛かってくる
「・・・これを見せ付けて、私に何の用?」
『用件は一つ、この男を助けたいのであれば貴女の父が残したとあるデバイスを渡して欲しい』
しかし、またよりにもよって古典的な方法だな
「デバイスなんて知らないわ。それに、用件があるなら直接言いに着なさい」
『・・・分かった。ではーーーーー』
瞬間ーーーーーーー
「そうさせてもらおうか」
背後からさっきまで通話していた男の声がした
「ーーーーー・・・なッ!・・・・グッ」
振り向いた時には遅かった
首筋に小さな注射器でナニカの薬を打たれ
瞬く間に意識が朦朧とする
(これは、拙い・・・)
公衆の面前で、仕掛けてくるとは思わなかった
いや、可能性としては考慮していたが
それでも確率は低いものだと
・・・いや、結局油断していたのだ
全て私の判断ミス
残るは後悔ばかり
そして、私はそのままーーーーーーーー
深い眠りにーーーーー
(ーーーーー着ける訳無いじゃないっ!!)
手に持っていた携帯を特に考えず操作する
しかし、その動作は確実で確定的なモノだった
相手から見えないように操作した携帯の画面には
有川湊へのメール画面になっていた
「・・・どうして、そこまで私たちを」
「それは追々説明しますよ。それでは一緒に来てーーーーー」
後半はよく聞こえなかった
だが、ほんの少しだけど時間稼ぎが出来た
この会話の中、湊へのメールを済まし、履歴を削除することに成功
・・・したと思う
確認はしていない。だがそう信じるしかなかった
(なんで、私はあの時湊に助けを求めたんだろう・・・)
もう、湊は居ないのに
私の知ってる、私が魅力に感じていた湊は居ないのに
それでも、期待してしまった
信頼していた
絶対に人を心の底から信用しないと決めた、決意した私が
彼を、彼が助けてくれると信じてしまった
そもそも、この人たちの狙いはデバイス
恐らく遺書と一緒に入っていた媒体だろう
・・・信じてみたい
信用してみたい
信頼してみたい
(・・・試す価値はある)
どうせこのまま手を拱いていたら、数日後に薬を打たれて
在りかを吐かされた後、死ぬかそれとも肉便器にされるかだ
最悪、既に私は死んだことになっているのではないか
そんな不安もある
だがーーーーーーー
(不思議と、何とかなる気がする)
だから、試してみよう
もうこの手しかない
数日・・・
数日後にそういう場所へ連れて行かれる
吐けば、レツオを助けてくれるのだろうか
あいつらを信用するわけではない
だが、もうコレしかない
1日経過
「おはようごさいます。どうですか、身体のほうは」
「・・・落ち着いてるわ。驚くほどに」
「それは何より」
この男は日に3回監視に来る
朝昼晩
1時間経過したら後は部下と思われる人達に託し、退出する
そして今は朝・・・・
数日を最低で3日から5日の間と想定して
・・・やるのは今しかない
「・・・そういえば、一番大事な質問をし忘れていたわ」
「なんでしょう。答えられる範囲であれば答えますよ」
「この後、数日の間に連れて行かれるという話だけれど、何処へ連れてってくれるのかしら?」
「そうですね、警察や軍には最早手が及ばない人間社会の深い部分ですかね。具体的には言えませんが、これで察しはつくでしょう」
・・・やっぱり
「・・・これが一番知りたいことなのだけれど」
「なんでしょう?」
「私がデバイスの在りかを吐いたら、レツオは開放してくれるかしら?」
「・・・おや、話して頂けるのですか?あの人の娘だ。決して口を割らないと思ったのですが・・・」
「開放してくれるのなら話すわ。大切な、友人ですもの。私たちの問題で痛い思いをさせたくない」
「いい心掛けです。しかし、前もって言っておきますと・・・」
その顔はより一層、邪悪に感じた
「貴女が言おうがいまいが、結局は貴女はあらゆる手段で吐かなければいけなくなる。そして今となっては最早レツオ君は必要無い。それでも、今ここで在りかを教えてくれるのですか?こちらとしてはどっちでも良いのですが」
分かっている
レツオはあの時、私を捕まえる時の囮だ
今となってはどうでもいいんだろう
そして、こいつらの今の目標は
私を数日後のある場所まで生かせること
もうこの時点で、私は詰んでいるのだ
だが、でもーーーー
どちらにせよ、私が死ぬのであれば
「ええ、分かってるわ。それでも、私が吐けば彼方たちがレツオを無事に開放してくれることを祈っているわ」
「・・・分かっているのであれば結構。さて、教えて頂けますか。デバイスの在りかを」
「・・・あのデバイスが今在る場所はーーーーー」
信じているわ
実際に見たことも聴いたことも無いけど、彼方が心身ともに強く、そして優しいことを
そして、彼方を信用してくれる人物を守るために、彼方は無茶をしてきたこと
出遭った時の雰囲気が普通の人間とは違った
そして、どこか私に似ていた
無慈悲にも自分が弱いと突きつけられ、絶望したこと
そして、そんな自分が厭だから強くなろうとしたこと
そんな私と、彼方は似ていた
だから、彼方が強いことは出会ったときから分かっていた
心身ともに、強固な存在だということを
だから、私は彼方に掛ける
私はこのまま死にたくなんか無い!
生き恥なんて掻きたくない!
せめて恥を掻くなら、彼方の傍で恥を掻きたい!
きっと、そんな私を見たら嘲笑って、面白がって
そして最後は一緒になって手伝ってくれる
そんな彼方を、そんな彼方の力を、強さを、意志を
私は信じる!
身勝手だけど、自己中心的だけど
それでも、そんな私を助けてくれると信じてる
湊ーーーーーッ!!
結論から言うと、有川湊はソヴィトヴィーニアを助けに来なかった
数日後、具体的には4日経ったこの日
私はその夜頃に屋上のヘリポートへ向かわされる予定だった
どうやらヘリで移動するらしい
そして私はずっと考えていた
どう逃げるか
どう切り返すか
どう生き延びるか
ずっと考えていた
そして、どうしても
逃げるために、切り返すために、生き延びるために
やはり、誰かを殺すことからは逃げられないのだと
確信した
殺しをせず、逃げれるわけが無かった
その結論に到ったのは最初の1日目
そしてこの3日間はその覚悟を決めていた
いや、しなくてはならないのだから覚悟も何も無い
どう殺すかを考えていたのだ
食事をする時に、与えられる数本のナイフ
それを少しずつ、気づかれないように奪い、隠す作業をしていた
勿論、盗めない時もあった
よって、ナイフは全部で8本ある
これでここから脱出するが・・・
しかし、脱出したところでどうする?
もう社会的に死んでいるのかもしれない
そしてパスポートも無い
携帯も無い
つまり身分証明が出来無い
それでも・・・
(私は、自殺だけはするつもりは無いっ)
・・・しかし
私は何故生きているのだろう
あれから何も情報が無い
デバイスの在りか、それは有川家の私の部屋のクローゼットの引き出し下から二番目の中にある
そう伝えた
それは嘘ではない
事実だ
あいつらはその情報を元に取りに行ったはずだ
だが、見つかったとも、見つからないとも聞いていない
・・・嘘をついていると思われているのか?
いや、そうだとしたら何かしらの言動があるはずだ
例えば、レツオの首を差し出されるとか
だがそんなことは無い
不気味なことに
そして、もう一つの可能性がある
私はこれに掛けていた
なら、私は賭けに勝ったのだろうか
・・・聴いて見るか
ーーーーーーーーガチャッ
「やあ、おはようございます。昨日伝えたとおり、今日移動してもらいます。準備のほうをよろしくお願いしますね」
「・・・ねえ、結局デバイスは見つかったのかしら?それとも、見つからなかったのかしら?」
「やはり聞いてきますよね。ふむ・・・白状しますと、その場所へ向かわせた部下から連絡が無いのですよ。なので、今貴女が嘘を言ったのか言ってないのかすら確認することが出来ない状態なので、当初の予定通りに動こうかと思いましてね」
「・・・そう、なの。ならレツオが無事なのかどうかだけは教えて欲しいのだけれど」
「無事ですよ。五体満足です。なので今晩まで大人しく待っていてくださいね。貴女をある場所へ送り届けることが出来れば彼を解放しますから」
そういうと男は出て行った
ーーーーーー夜
なら仕掛けるのは・・・
夜 20時
さあ、約束の時間だ
準備はいいな。ソヴィトヴィーニア
覚悟を決めろ
自分の意思を示せ
迷うな、進め
父の名を、母の名に恥じぬように
私は私として生きていく
そうだ、私はあの父の娘だ
最強の存在の娘だ
ならば、私が強くない道理は無い
いや、もう強い強くないは関係ない
ここまでくれば、人を殺す覚悟があるかどうかだ
それだけで人は変われる。変わってしまう
だけど、でも
こんな奴らに殺されるくらいなら、殺してでも生きたほうがマシだ
人を殺した十字架は背負おう。背負って魅せよう
私は、ソヴィトヴィーニア・フォグロム・プラウダ
ソヴィトヴィーニアとは自身という意味。
フォグロムとは破壊という意味
プラウダとは真実という意味
全てに意味はある
父の家系の人間は全て善悪問わず破壊を好む人間が殆んどだったという
そして私はその血を受け継ぐもの
ーーーーもう迷う必要は無い
自己暗示は完了した
本当はずっと試してみたかったんだろう?
人を殺してみたかったんだろう?
どんな感覚か興味があったんだろう?
それは人として生まれ、社会に生きたものが思うことの一つだ
やってはいけないことをやってみたいと思うのは当たり前のこと
そして今、それが合法的に、必然的に出来るのだ
だったら楽しまなくては、味わってみなくては損だ
後悔は後で出来る
でも、死んだら後悔も何も無い
ーーーーーーコンッコンッ
向こうのドアからノックが鳴る
始めよう。どちらにせよ、これが今までの私で在れた最後の日だ
最後くらい、派手に行こうじゃないか
ーーーーーーガチャッ
「お迎えに上がりましたよ。ソヴィトヴィーニ・・・ア?」
そこに、ソヴィトヴィーニアは居なかった
居るはずの部屋から姿を消していたのだ
部屋を見渡す
すると、窓に異変があった
なんと、あらゆる衣類を使い一つのロープになっているではないか
「ーーー・・・まさか!」
優男は確認するべく駆け足で窓へ近づく
そんな男を見て、後ろに付いていた護衛の4人の男もまた後を付いていく
優男が窓から顔を出す。そこにはせいぜい3.4階ぐらいしかない衣類のロープがあった
・・・・まさかここから飛び降りて自殺をした?
いや、それはないだろう
下には見張りが数人付けている
今、飛び降りたとすればすぐに報告が来るはずだ
なのに、それが来ないとなると
ソヴィトヴィーニアはまだーーーーーー
ーーーーーー刹那
本当に一瞬の出来事であったのだ
優男がソヴィトヴィーニアがまだ部屋に隠れているのではないかと思いながら窓から手を離し部屋を見渡すべく後ろを向いたその時には・・・
護衛に当たっていたはずの4人の大人が、無残にも赤暗いく光っている液体を流しながら横たわっているではないか
そして、そこには、一本のナイフを右手に握り締めた・・・
狂人が居た
各死体は顎から突上げるようにナイフが串刺しにされており、これにより言葉が出なかったと思われる
そして留めか、それとも最初に行ったのか綺麗に動脈を切りつけ息の根を止めている
・・・こんなことが普通の女子高生に出来るのだろうか
「・・・・・・」
狂人の目には光が無い
その目は覚悟をした目であり、同時に何かを無くした目でもあった
だが、これでソヴィトヴィーニアが生き残る可能性が上がる
優男はただ驚く
勿論、こういうことを想定していなかった訳ではない
だが、所詮女だと
どうせ殺すことなんて出来やしないと
そう軽んじていたのだ
そう油断しきっていたのだ
それがこの優男の人生最大のミス
「・・・なるほど、結局貴女もこちら側の人間でしたか」
「こちら側?」
「人を殺すことに何も感じない人間のことですよ」
「・・・・ふざけないで。人を殺すことに何も感じない訳が無い。でも、それでも、私は死にたくなんか無い。だから、その障壁となる彼方達は殺す。私に立向かう奴らは一人たりとも逃がさない。逃がしてなるものか」
生きるため、生きたいがために行う行動
決して褒められることではないが、誰だって我が身が可愛い
だから、自分を蹂躙しようとする他人を返り討ちにする
「・・・そうですか。良い覚悟です。ですが・・・実戦経験が足りてない」
優男はすかさず腰に仕舞ってあった銃を取り出しソヴィへ向ける
がーーーーーーーー
ソヴィは既に目の前にいた
「・・・・・・なッ!!」
流石の戦場に慣れ、実戦経験も積み、そして生還してきた優男もこれには驚きを隠せなかった
縮地法
瞬時に相手との間合いを詰めたり、相手の死角に入り込む技術
「確かに私は人を殺すことには慣れていないわ。だけど、人を倒すことなら幼少期から父から学んでいる」
ただ淡々と、説明する
一瞬にして間合いを詰めたソヴィは、右手で握り締めている銃を薙ぎ払い、そのまま右足で思いっきり腹部を蹴る
「ーーー・・・チッ!!」
なんとかガードが間に合ったものの油断が出来ない状態
そして尚、ソヴィの攻撃は続く
優男の左腕を台座代わりにして、右足の爪先を軸に空中に回転。そしてそのままの勢いで左足の踵で優男の頭へ目掛け放たれる
右手でガードしようにも思いのほか銃を薙ぎ払われた時の衝動が強く
ガードが間に合わず、踵が優男のこみかみへ直撃する
そのまま勢いよく倒れ、意識を失った
「・・・脳震盪で落ちたか。案外、弱い身体をしてたのね」
こみかみに弱いも何もないか
取り合えず・・・カチャッ
弾いた銃を拾い、倒れているコイツへ銃口を向ける
コイツを殺しておこう
どうせ情報を吐かないし、荷物になるし、もう用は無い
だから、コイツをーーーーーーーーーッ!!
ありきたりだが、それでも意味がある




