輪廻
深夜0時
「・・・・結局読み終わっちゃったなぁ~」
あの後、風呂から上がってきた湊と一緒に部屋まで行き
かなりの量のある本から適当に完結している漫画本を貸してもらった
その後、私も風呂へ入り、出た後ずっと読んでいたらこんな時間になっていた
いやでも・・・本当に面白かった
湊の言ったとおりだ
ーーーー面白くないものなんか買うわけ無いだろ。買ってあるもの全部面白いから適当に持っていけーーーーー
(また明日あたりにでも、他の作品借りに行こう・・・)
そう思いながらPCの前に座ると、メールが何件か着ていた
迷惑メールだったり、ニュースだったりと眺めていたら見知った人物からのメールもあった
「・・・あ、レツオからだ」
レツオ
レツオ・イーメステト・オルマセア
私の幼馴染で今でも交友がある大切な存在だ
彼の両親と私の両親は私が幼い頃から交友があったらしく
それでよく彼と遊んだものだ
仕事の関係で日本へ来ることになった後は連絡していたかったが
になると同時にロシアに帰ると一番最初に出迎えてくれたのがレツオだった
ロシアの教育過程は初等・基本・中等教育と3-6-2制である
なので私が日本で言う中学時代になるころに戻ってきた時
ロシアでいう中学時代の丁度中間だったのだ
勿論勉強は全然だった
中途半端な時期に戻ってきてしまったのでそこはしょうがない
なので転校するまでの1ヶ月間を利用して勉強したのだ
それはまた別の話しなので置いておく
そんな中途半端な時期に戻ってきたにも拘らず、クラスには見覚えがある人達が多くて
過ごしやすかった
そして恐らく一番長く一緒に居たのがレツオだった
家も近かったのでお互いの都合が合えば一緒に帰っていたりしたのだ
しかし、先月の父の一件で私はロシアを再び出なければいけなくなった
折角高校生になったのにあの努力が水の泡になる
・・・なんて考えている余裕は勿論無かった
そんな私を見て、レツオは一緒に暮らさないかと提案してきたのだ
勿論、レツオの家族とは仲が良かったのでそれもアリかなと思っていたが
父の遺言に従おうと思い、丁重にお断りした
それ以来、レツオとはネットを通してお互いの現状を定期的に取り合う仲になった
・・・・なんだろう、こうやって語ってみるとまるでレツオが私の彼氏みたいだ
念のため言っておくが私はそんな感情をレツオに抱いたこのなんて一度も無い
私の大切な親友だ
まあ、男と女の間に親友なんてものは存在しませんっていうぐらいだから彼がどう思っているかは分からないが
現状としてはこんな感じだ
(もうすぐ寝るし、また明日連絡くれるように伝えておこう)
そうメールを打とうとした時、何時間も部屋に篭っていたので流石に喉が渇いているのが
今になって分かった
「・・・紅茶入れてこよう」
甘い紅茶を飲んだほうが穏やかに眠れる気がしたので実行に移した
ーーーーーーー駄目だ
ーーーーーーーもうこれ以上、私は彼方にどうすることも出来ない
ーーーーーーー誰か・・・
ーーーーーーー誰かこの子を導いてあげて
ーーーーーーー彼が幸せだと感じることが出来る世界へ
ーーーーーーー私では駄目だったから
ーーーーーーー私では出来なかったから
ーーーーーーーああ、なんて私は無力なんだろう
ーーーーーーーもう他の人へ託するしかない
ーーーーーーーだって私はもう・・・・・・・・・
「ーーーーーグ・・・・ア"・・・・・」
部屋を出て下に行こうとしたらなにやら呻き声が聞こえた
(・・・・・?なに、お化け?)
いやいや、お化けが出る時期は夏だろう
ならこの呻き声の正体は?
・・・まあ、普通に考えて湊の部屋だろう
恐らくは寝言か、はたまた独り言か
とりあえず聞き流すのが懸命だと判断し
止まっていた足を再び前へ動かせる
ーーーーーが、別の声がそれを阻んだ
・・・ニャーーーーッ!!
「ーーー・・・えっ?」
湊の声から悲鳴とも聞き取れる白キジの猫ことミーの鳴き声がした
でもそれはありえないだろうと思った
何故なら湊の動物への愛は人一倍だ
そんな猫を虐待するなんてことは無いだろうと判断したが
ニャ"ーーーーーッ!!!
閉じてあるドア越しからもハッキリと聞こえた
これは間違いなく悲鳴である
流石にスルーできなくなった私は
「・・・湊?!何してるの?」
ドンッドンッ!
と、普通より若干強くドアを叩き、湊に呼びかける
しかし
ーーーーーーーーーーーーー
返事が無い
あるのはミーの鳴き声だけ
ーーーーー・・・・あまりにも嫌な予感がした
いや、背筋に悪寒が走った
まさか、湊がミーを虐待するなんて・・・・
そんなことを考えてしまう
(勝手に入るなとは言われたけどーーーーー)
仕方ない、非常事態だ
鳴いている猫を放って置けるほど私は冷徹な人間なんかじゃない
ーーーーガチャッ!!
勢いよく扉を開ける
「ーーーー・・・・湊!」
後で何言われようが構わない
とにかく気になった
猫がそして湊が
部屋で何やっているのかが
そして、私は
ありえないモノを
普通では考えられない光景を
目の当たりにしたーーーーーー
「ーーーー・・・・・なに、やってるの?」
その光景はあまりにも残酷で
無慈悲で
そして信じられないモノだった
何故ならベッドで寝ている湊は
自分の両手で
自分の首を絞めているんだからーーーーー
ミーが何度呼びかけても、引掻いても起きない
首を絞める両手はどんどん力を増していく
「ーーーーッ!」
私は咄嗟に止めに入る
湊の身体に跨り、全力で湊の両手を首から離すように引っ張る
だけどーーーーーー
「なんて・・・力・・・ッ!」
この両手は収まる気配が一向にしない
跨ったままでは全力の力が出せないと判断し
具体的には土の中にある作物を引っ張り上げるような体制で
全力で引っ張る
が、案の定ビクともしない
このままじゃ、湊は自分の手によって絞め殺される!
どうすれば・・・・
何か、手は・・・
「ミャー!!」
ミーが隣から大きな声で鳴き、湊に起きるように訴えてる
・・・声?
「・・・グッ・・み、なと・・・・」
恐らく、ミーはこの光景を何度も見てきたのだろう
その度にミーが取ってきた行動は声を掛けることだと予測できる
その証拠にずっとミーは鳴いていた
つまり、声を掛けることが最善だということ
・・・確証は無い
証拠も無い
だけど、やるだけのことはやってやる
こうなった原因は分からないけど・・・
今はとにかく湊を起こすことが先決だ!
「・・・・湊!・・・・・・・湊ッ!!!」
私は恐らく今までで出したことも無いほどの大声を出したのだろう
助けたいから
死なせたくないから
見殺しになんかに出来るわけがないッ!
例えーーーー
自分が犠牲になったとしても、助け出す!
虚空ーーーーーー
虚無ーーーーーー
虚像ーーーーーー
そう、いつだって嘘で、虚ろな世界を視せられてきた
そんな世界が嫌いだった
苦しかった
だから強くなろうとした
俺は決して強い人間ではない
幼少期なんか泣きじゃくり、喚き、甘えていた
らしいーーーーーー
そう、らしいんだ
俺は知らない
それは前の自分だ
記憶を失う前の自分だ
もう、そんな弱かった頃の記憶は蘇らない
何故なら記憶喪失などでは無いからだ
記憶欠落
失うのではなく
欠けて落ちた
だから、もう二度と戻らないし、思い出すことは無い
ーーーー初めて目を開けた世界は、あまりにも衝撃的だった
歪な存在が多く目の前に居たからだ
統合失調症
気になった俺は医者に相談したらそう判断された
何でも事故の後遺症が原因と思われる
よくあるケースだと言われた
この病気は確実に治るかどうか怪しいく
正確な治療方法は無い。今一番使われている治療法はカウンセリングらしい
つまり、こればかりは医者の手で治すことができず、本人の心の持ちようなどで治るかどうか決まる
俺はこの病気については両親に黙っておいて欲しいと頼み込んだ
余計なことを知らせたくなかったのだ
しかし、やはり医者はそれを頑なに拒否した
だけど俺の気持ちが伝わったのか、説得し続けた結果
医者は診ていない、聞いていない事にしてくれた
俺は今でその医者に感謝している
話を戻そう
視えるしまうそいつらは言葉を交わしていた
・・・言葉、なのだろうか
いつもグチグチブツブツ言ってるので理解は出来ないが
だけど、存在している
俺の目の前に、存在しない生物が存在している
だから俺はコイツらに名前をつけた
存在しているのであれば、名前が必要だから
"畸形"
畸形だから、畸形
畸形は俺を蝕んでいった
身体ではなく心を
時間が進んでいくたびに
畸形は感情を持っている
怒り、憎しみ、怨み、妬み、僻み、
そして悲しみ
つまり、人間にとってマイナスな感情を
コイツらは一つ一つの固体に一つ一つ持っていた
ーーーーー五月蝿い
ああ、邪魔だった
あまりにも邪魔だった
だから、
俺は試しに
殺してみたのだ
殺した
殺した殺した
一つ一つ
素早く、手早く
まるで、子供がアリを潰すことに何も思わないように
殺した
返り血は無い
あるのは殺された畸形の叫びだけ
ーーーーーーー黙れ
そんなことを毎日のように続けて、ある日気づいた
殺しても、殺しても、殺しても
数は増えていくばかり
・・・ああ、なるほど
理解した。俺はコイツらを殺せない
ならばどうするか
・・・・ああ、そうだな
決まってる
俺自身強くなるしかない
コイツら程度すら気にしない
コイツら程度に邪魔されない
心と身体を創るしかない
「ーーーー・・・なあそうだろ。俺は間違っちゃ居ない。間違っていたのは俺の視界だ」
夢の世界で一人呟く
いや、呟いてはいない
無数に
無限に漂う畸形に語りかける
「お前らになんかに負けない・・・」
そう思っていた
思い込んでいた
だから強くあろうとした
「ーーーーーだけど、それ自体間違った考えだったんだ」
そう、俺は今までコイツらに負けないように強くあろうとしている
だけど、それこそが間違いだとしたら?
「・・・結局さ、これは俺の持論で俺が考察した結果なんだが・・・」
暗闇に漂う身体
その身体を留まることなく蝕む畸形達
形が形として表していない、グロテスクな存在
そして、一つの結論をコイツらに放つ
「俺にしか視えないし、俺にしか聴こえないし、俺にしか理解できない。だけどお前たちを他人とは思えない」
他人とは思えない
他人とは感じない
それはずっと視界に写っていたからか?
・・・いいや、違う
至極当然のように、もっとも身近な存在なのだと感じたからだ
本当に身近で、友人たちよりも親よりも身近な感覚
それでいて不確定な存在
不確定で不完全で、身近な存在
それはきっと普通の人間には理解できないモノだということを直感で分かった
つまりはーーーーー
「お前たちは、俺の中にあるナニカを具現化したものなのか?」
過去のトラウマか
今まで抱いたストレスか
それとも・・・・欠落したはずの記憶の断片か
それは分からない
だけど、まるで
コイツらを視ていると
自分を視ている様に感じてしまうのだ
ーーーその言葉を聴いたのか
それとも理解してくれたのか
気になったのか
原因は分からない
だけど、畸形は動きを止めた
もしかしたら、俺は俺自身と戦っていたのかもしれない
醜い自分と
過去の自分と
忌まわしき自分自身と
統合失調症
もしかしたら、それこそがこの病気の正体なのかもしれない
そして、その結論に到ったのは紛れも無く変化した日常が原因だ
一見として普段と変わらなかった湊だが
彼女が住むようになり、言葉を交わすことで
既存の思考回路すらも激変した
それとも、元々こういう思考だったが
生きていくうちに、様々な可能性を端から試していくうちに
そんなことすら忘れてしまったのか
どちらにせよ、考えるようになったのだ
ソヴィという他人が傍に居る事で
自分以外の存在を理解しようということ
それは意識してか、それとも無意識か
湊自身そのことには気づいていない
激変した思考回路にすら気づかない
何故ならその激変した思考回路こそが、普通なのだから
「ーーー・・・なあーーーーーーッ!?」
返答が無いのでもう一度聞こうとした瞬間
突然畸形たちが動き始めた
蝕み始めた
「 」
「ーーーーーッーーーーーーッ」
最早、声にならない
最早、何も聞こえない
ーーーーー違ったのか
・・・だったら
お前たちは
一体何なんだーーーーーー
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
・・・・いや、いい
やめだ
それはまた起きた時に考えればいい
今ある現状
それはコイツらは俺を殺そうとしているのだ
・・・いや、違う
少しだけ理解した
コイツらは俺を殺そうとしているわけじゃない
無間のような苦痛を味あわせたいのだ
心に、身体に刻み込みたいんだ
何を?
それはまだ分からない
ーーーーーーー巫山戯な
この10年間、俺はお前たちに負けないために強くなったんだ
そのためだったら何だってやった
何だって試した
だから、俺はお前たちに負けない
お前たち程度の力じゃ俺には届かない
・・・だけど
コイツらは、俺が強くなればなるほど
比例するように強くなっている気がする
「ーーーーーーーーッ!!」
蝕む畸形がついに俺の喉を潰そうとした
・・・畜生
俺が死ぬ?
いいや、死なない
死ねない
死ぬことは許されない
何故ならコイツらは俺を死なせようとしていない
ただ痛めつけたいだけなのだ
つまり・・・
今コイツらに勝つための勝利条件は
この無間地獄に耐え切ることーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーーーはっ
この程度の苦痛で
この程度の窒息する苦しみで
身体に切り傷が無数に刻まれるくらいで
全身火炙りさせていると錯覚するほどの熱さに覆われるくらいで
四肢が?ぎ取られる様な全身に響き渡る痛みで
全ての臓がグチャグチャにされる痛みで
筋一つ動かせることが出来ないくらい身体全体が押しつぶされる程度でーーーーー
「ーーーーーー俺が屈するとでも思ってンのかッ!!それぐらいお前らが一番分かってるだろうがッ!」
「ーーーーーーーーーーーッ!!!」
瞬間ーーーーーーー
霧が晴れるように、畸形たちは拡散していった
「ーーーーーー・・・・うっ、ゴホッ・・・グッ・・・ハァ、ハァ・・・・・・」
呼吸を落ち着かせる
何があったのか現状を把握する
・・・最後に感じ取った全身に響き渡る声
助けたい一心の叫び
それは今までの彼女とは違う感じがした
・・・そして
「ーーーーーーーーーー」
いつも通り、彼女がそこにいた
やっぱり、最後は彼女が助けてくれるのか
「・・・俺はまた、貴女に助けられたのか?」
「ーーーーーーーーーーー」
"彼女"が首を横に振る
・・・違うのか?
いつものように彼女が手助けしてくれていると思っていたが
今回は違うようだ
となると、俺自身で切り抜けたのか?
・・・出来ればそう考えたかったが、恐らくそうじゃないだろう
最後、別の存在から干渉された感じがした
いつも彼女がしてきたように
それが彼女じゃないとなると・・・
「そう、なのか・・・まあどっちでもいいか」
正直、面目ない話だが
結局どれだけ意思が強くても
どれだけ身体が強くても
最後は結局彼女がいつも傍にいる
彼女と逢う条件が、傍にミーがいること
・・・だと思う
統計的に
けど、今回は違うとなると・・・
ーーーーーー・・・・そろそろ夢から醒める頃か
考えるのはまた起きてからだな
なんにせよ起きれば分かることだから
「・・・・じゃあな」
「ーーーーーーーーーー」
"彼女"は笑顔で手を振り、優しく送ってくれた
俺も手を振り返す
・・・本当は出会ってはいけないって分かっている
"彼女"と出会うということはつまり、この悪夢を見なければいけないから
それはあまりにも皮肉で酷な話だ
何せ命がけなんだからな
泡沫に消え逝くこの世界
されど、永久的に構築され続ける無間地獄
地獄の先に待っているのは輪廻の存在
しかし、その輪廻の存在の力は既に衰えていた
輪廻の存在は何を思いながら見送ったのか
どう考えたのか
それは本人にしか分からないこと
ファンタジー要素が多くなってきてしまった・・・気をつけていたのに




