第九話 ダンジョンに籠もって
ダンジョンでの素材集めに挑戦するリリア。
一度攻略した場所でも、新しい発見や経験が待っているかもしれません。
そして、頑張った後には美味しいご飯も!
リリアの冒険を、ぜひお楽しみください。
模擬戦で壊してしまった訓練場の壁。
その修理費を思い出すたび、私は肩を落としていた。
「うぅ……せっかく貯めてたお金が……」
冒険者になってから、少しずつ貯めていたお金。
新しい服を買ったり、美味しいものを食べたりするために使おうと思っていたのに。
まさか、壁の修理に使うことになるなんて。
「……よし!」
私は頬を軽く叩いた。
落ち込んでいても仕方ない。
お金が足りないなら、稼げばいいのだ。
そうして私は、ギルドへ向かった。
受付のお姉さんに事情を話すと、いくつかの依頼を紹介してくれた。
その中で、私の目に留まったのは――。
「ダンジョンの素材採取依頼?」
「はい。以前リリアさんが攻略した洞窟型のダンジョンですね」
前に入ったダンジョン。
あのときは、内部の魔物が進化していて、Aランク相当の危険度になっていた。
でも、今は攻略済み。
ダンジョンの魔物は、攻略されると一定時間、再び出現しなくなる。
その間に探索者が外へ出られるようになっているのだ。
「今回は、そのダンジョンに出現する魔物の素材を集めてきてほしいんです。討伐対象の素材なら、通常の買取価格に加えて依頼報酬もつきますよ」
「なるほど……」
私は依頼書をじっと見つめた。
魔物を倒して素材を集める。
それを繰り返せば、かなりのお金になるかもしれない。
「これ、依頼に書いてない素材も買い取ってもらえますか?」
「もちろんです。ギルドでは冒険者の方が持ち込んだ素材も買い取っていますから。依頼対象の素材なら報酬が上乗せされますけど、それ以外も大丈夫ですよ」
「じゃあ、これにします!」
私は依頼書を受け取った。
よし。
今日はたくさん稼ぐぞ!
……その前に。
私は街の料理屋へ向かった。
ダンジョンに長時間籠もるなら、食事は大事。
それに、美味しいものを食べると元気が出る。
これは師匠と暮らしていた頃から変わらない。
料理屋の扉を開けると、香ばしい匂いが漂ってきた。
「いらっしゃい。おや、嬢ちゃんか」
カウンターの向こうにいたのは、料理屋のおやじさん。
以前、街で食事をしたときにもお世話になった人だ。
「こんにちは!」
「今日はどうした? 飯か?」
「えっと……ダンジョンに行くので、お昼ご飯を買いたくて」
「持ち歩けるやつか。そうだな……」
おやじさんが厨房の奥を振り返った。
「ちょうどいいのがあるぞ。大猪の照り焼きサンドだ」
「照り焼きサンド?」
「脂の乗った大猪肉を、甘辛いタレでじっくり焼いてな。焼きリンゴも一緒に挟んである」
大猪のお肉。
甘辛いタレ。
焼きリンゴ。
……絶対に美味しい。
「食べたいです!」
「ははっ。食べるんじゃなくて、持っていくんだろ?」
「はい!」
「なら、包んでやるよ。冷めても美味いように、肉汁を吸った平焼きパンで挟んである。腹持ちもいいぞ」
おやじさんが見せてくれたのは、平たく焼かれたパンだった。
中には、照りのある大猪肉と焼きリンゴ。
タレが染み込んだパンは、見るからに柔らかそう。
お肉の甘い香りが、ふわりと鼻をくすぐる。
「……おいしそう」
「いくついる?」
「えっと、三つお願いします!」
「おう。代金はこれだな」
私はお金を取り出し、きちんと支払った。
おやじさんは一つずつ丁寧に包んでくれる。
「ダンジョンで食べるなら、無理せず休憩も取れよ」
「はい! ありがとうございます!」
私は包みを大事にしまい、料理屋を後にした。
……そのとき、店の窓から見えていたのは。
ひょこひょこ揺れる、私の髪の毛だけだったらしい。
◇
街を出て、ダンジョンへ向かう。
前に訪れたときと同じ洞窟。
入口から中を覗くと、ひんやりとした空気が流れてきた。
「よし。今日も頑張ろう」
私は剣を握り、奥へと進んだ。
しばらく歩くと、魔物の気配。
洞窟の奥から現れたのは、以前も戦ったことのある魔物だった。
私は身体強化を軽くかける。
そして――。
一閃。
魔物が倒れた。
素材を回収して、次へ。
また魔物を倒して、素材を回収。
さらに奥へ進み、別の魔物を見つけて倒す。
……うん。
順調。
以前は、進化した魔物たちを相手に苦戦する場面もあった。
でも、今は違う。
私も冒険者として経験を積んできたし、魔物の動きにも慣れてきた。
それに、ここは一度攻略したダンジョン。
危険な場所や魔物の特徴も、ある程度わかっている。
素材を集めながら、少しずつ探索範囲を広げていった。
しばらくすると、魔物の姿が見えなくなった。
ダンジョン攻略後の再出現しない時間だ。
私は安全な場所を見つけ、荷物を下ろした。
「……お昼にしよう!」
待ちに待った食事の時間。
包みを取り出して、そっと開く。
平焼きパンは、まだ柔らかい。
中から、ハチミツとタレの甘い香りがふわっと広がった。
照り焼きにされた大猪肉は、表面がこんがりしていて、噛むと肉汁が溢れそう。
その隣には、焼きリンゴ。
甘みと酸味が、お肉の脂をほどよくさっぱりさせてくれる。
「いただきます!」
私は大きく口を開けて、サンドにかぶりついた。
もちっ。
パンの柔らかい食感。
じゅわっ。
大猪肉の肉汁。
甘辛いタレの味が広がって、そこに焼きリンゴの甘酸っぱさが加わる。
「……おいしい!」
思わず声が出た。
冷めているのに、全然固くない。
むしろ、タレが染み込んだパンが美味しい。
お肉も柔らかくて、噛むたびに旨味が広がる。
焼きリンゴのおかげで、脂の重さも気にならない。
「これ、また買おう……」
私は幸せな気持ちで、ゆっくりと食べ進めた。
食事を終えたら、少し休憩。
水を飲んで、剣を確認する。
そして、再び立ち上がった。
「よし。午後も頑張ろう!」
魔物が再出現する時間を見計らい、また戦闘を始める。
倒して、素材を回収。
待って、また倒して、素材を回収。
それを何度も繰り返した。
気がつけば、荷物の中には大量の素材が詰まっていた。
……そろそろ帰ろう。
これ以上持っていくと、帰り道が大変になりそうだ。
私はダンジョンを後にした。
◇
ギルドに戻ると、受付のお姉さんが私を見て驚いた。
「リリアさん、お帰りなさい。……えっ、その荷物は?」
「ダンジョンで集めてきました!」
私は荷物をカウンターに置いた。
どさっ。
……ちょっと置きすぎたかもしれない。
受付のお姉さんは目を丸くしながら、素材を一つずつ確認していく。
「これは……依頼対象の素材ですね。こちらも、こちらも……」
「はい!」
「それに、依頼対象以外の素材もこんなに……」
お姉さんは少し呆れたような顔をした。
でも、すぐに笑顔になる。
「全部買い取れますよ。依頼対象の素材は、報酬も上乗せされます」
「本当ですか!?」
「ええ。では、査定しますね」
私はわくわくしながら待った。
やがて、査定が終わる。
提示された金額を見て、私は目を輝かせた。
「……こんなに!?」
「はい。依頼達成報酬も含めて、この金額になります」
私は思わず両手を握った。
これなら、修理費を払ってもまだ余裕がある。
それに、これからも依頼をこなせば、もっとお金を貯められる。
「よかったぁ……!」
ほっと胸を撫で下ろした。
受付のお姉さんは、そんな私を見て微笑んだ。
「リリアさんは、まだ冒険者になって間もないですよね」
「はい」
「それなのに、これだけの依頼をこなして、素材も持ち帰ってくる。実力もそうですが、継続して活動できることも評価されています」
お姉さんは一枚の書類を取り出した。
「ギルドとして、リリアさんのランクをDからCへ昇格させたいと思います」
「……え?」
私はきょとんとした。
「Cランク……?」
「はい。おめでとうございます、リリアさん」
そう言って、お姉さんが新しい冒険者証を渡してくれた。
そこには、Cランクの印が刻まれていた。
「ありがとうございます!」
私は冒険者証を両手で受け取った。
Cランク。
冒険者になってから、まだそんなに時間は経っていない。
でも、少しずつ前に進めている。
師匠が教えてくれたこと。
山で過ごした日々。
そして、街で出会った人たち。
その全部が、今の私につながっている気がした。
「……師匠。私、頑張ってますよ」
小さく呟く。
頭の星の髪飾りに、そっと触れた。
次は、どんな冒険が待っているんだろう。
どんな景色が見られるんだろう。
どんな美味しいものに出会えるんだろう。
私は新しい冒険者証を握りしめ、笑顔でギルドを後にした。
今回はリリアがダンジョンに籠もって、素材集めに挑戦するお話でした!
持ち歩けるご飯として、大猪の照り焼きサンドも登場。
甘辛いタレと焼きリンゴの組み合わせ、私も食べてみたいです。
そして、リリアはついにCランクへ!
これからどんな冒険が待っているのでしょうか。
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