第三十六話 届かぬ誘い
宵月「今回は、リリアからグレイヴへのお誘いです!」
リリア「一緒に旅をしてくれたら、きっと楽しいと思うんだ!」
宵月「ただ、グレイヴには簡単に受け入れられない理由があります」
リリア「うーん……どうしたら一緒に来てくれるかな?」
宵月「そこはリリアらしく、真っ直ぐに伝えてもらいましょう!」
それでは、第36話をどうぞ!
翌朝。
グレイヴはいつものように、冒険者ギルドへ顔を出していた。
昨日の戦闘で消耗した魔力は、まだ完全には戻っていない。
それでも、休んでばかりいるわけにもいかない。
「……さて、今日は何をするか」
依頼掲示板を眺めていると、背後から聞き覚えのある声がした。
「グレイヴさん!」
「……あ?」
振り返ると、リリアとアリシアがこちらへ歩いてきていた。
「おう。もう動けるようになったのか」
「うん! 昨日はゆっくり休んだからね!」
「そうか。無理はするなよ」
「グレイヴさんもね!」
「俺はいいんだよ」
いつもの調子で返すグレイヴ。
しかし、リリアはその場から動こうとしなかった。
「……何だ?」
「えっとね、グレイヴさんにお願いがあるの!」
「断る」
「まだ何も言ってないよ!?」
「お前のその顔は、面倒事を持ち込むときの顔だ」
「そんな顔してないよ!」
アリシアが小さく咳払いをする。
「グレイヴ殿。少しだけ、お話を聞いていただけませんか」
「……まあ、聞くだけならな」
グレイヴは掲示板から離れ、近くのテーブルへ向かった。
三人が席に着く。
リリアは少し身を乗り出し、真っ直ぐにグレイヴを見つめた。
「グレイヴさん。私たちと一緒に旅をしない?」
「断る」
今度は、即答だった。
「ええっ!?」
「何度も言わせるな。俺は誰ともパーティを組むつもりはねぇ」
「どうして?」
「昨日の話を聞いてなかったのか?」
グレイヴは眉間にしわを寄せる。
「俺は仲間を失った。もう二度と、あんな思いはしたくねぇ。だから一人でやってるんだ」
「うん。聞いたよ」
「なら分かるだろ」
「でも、グレイヴさんは一人でいたいわけじゃないんじゃないかな」
グレイヴの表情がわずかに固まった。
「……何が言いたい」
「本当は、また誰かと一緒に旅をしたいんじゃない?」
「勝手なことを言うな」
「違う?」
「違うに決まってるだろ」
グレイヴは視線を逸らした。
リリアは少しだけ考えるように首を傾げ、それから言葉を続ける。
「私ね、グレイヴさんと一緒に戦ってみて思ったんだ」
「何だよ」
「すごく頼りになる人だなって。雷の魔法も、最後の一撃も、本当に格好よかった!」
「おだてても無駄だぞ」
「おだててないよ。本当にそう思ったの!」
リリアは笑顔を浮かべる。
「それに、グレイヴさんって怖いことを言うけど、ちゃんと私たちのことを心配してくれてるでしょ?」
「……」
「だから、一緒に旅をしたいなって思ったんだ」
グレイヴは何も答えなかった。
アリシアが静かに口を開く。
「私も、グレイヴ殿が仲間になってくだされば心強いと思っています」
「お前まで何を言ってやがる」
「もちろん、無理にとは申しません」
アリシアは一度リリアを見てから、再びグレイヴへ視線を戻した。
「ですが、私たちはあなたと一緒に旅をしたい。それだけは伝えておきたかったのです」
「……お前らは分かってねぇ」
グレイヴは低い声で言った。
「俺と組めば、危険な依頼に巻き込まれることもある。昨日みたいな相手と、また戦うことになるかもしれねぇ」
「うん」
「そのとき、俺がお前らを守れる保証はねぇ」
「うん」
「それでもいいのか?」
リリアは少しだけ目を伏せた。
それから、ゆっくりと顔を上げる。
「私たちだって、グレイヴさんを守れる保証はないよ」
「……何?」
「一緒に旅をするなら、誰か一人だけが守るんじゃなくて、皆で助け合えばいいと思うの」
グレイヴは黙り込んだ。
「私もアリシアさんも、まだまだ強くなりたい。だから、グレイヴさんにも一緒にいてほしいんだ」
「……簡単に言ってくれるな」
「簡単じゃないよ。でも、一緒にいたいって思ったの」
リリアの言葉には、迷いがなかった。
グレイヴはその顔を見つめる。
かつての仲間たちと過ごした日々が、ほんの一瞬だけ脳裏をよぎった。
あの頃も、こんなふうに笑いながら、次の旅の話をしていた。
「……悪いが、答えは変わらねぇ」
グレイヴは椅子から立ち上がる。
「俺は一人でいい。お前らはお前らで、好きに旅をしろ」
「そっか……」
リリアは残念そうに眉を下げた。
だが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「じゃあ、また誘うね!」
「……は?」
「だって、まだ二回しか誘ってないもん!」
「何度誘われても答えは同じだ!」
「それはそのとき考えるね!」
「考えなくていい!」
グレイヴは頭を抱えた。
アリシアはそんな二人を見て、わずかに微笑む。
「リリア様。グレイヴ殿も困っていらっしゃいますから、今日はこの辺りにしましょう」
「うん!」
「まったく……」
グレイヴは深いため息をついた。
リリアとアリシアは席を立ち、依頼掲示板へと向かっていく。
「それじゃあ、グレイヴさん。またね!」
「……おう」
二人の背中が遠ざかる。
グレイヴはしばらくその場に立ち尽くしていた。
「……まったく、変な奴らだ」
そう呟きながら、彼は再び掲示板へ視線を向ける。
けれど、そこに並ぶ依頼の文字は、なかなか頭に入ってこなかった。
――一緒に旅をしたい。
その言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
「……俺は、もう……」
言いかけて、口を閉じた。
グレイヴは胸元に手を当てる。
そこには、いつものように小さな袋がしまわれていた。
中にあるのは、昔の仲間たちとの写真。
「……まだ、無理だ」
そう呟く声は、誰にも届かなかった。
リリア「うーん……断られちゃったね」
アリシア「すぐに受け入れていただくのは、難しいでしょうね」
リリア「でも、諦めないよ! グレイヴさんと一緒に旅をしたいもん!」
アリシア「ふふっ。リリア様らしいですね」
リリア「いつか、グレイヴさんも一緒に笑ってくれるといいな」
アリシア「ええ。きっと、その日が来ることを願っています」
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