第三十五話 誰がための大悪
宵月「今回はグレイヴの過去に迫ります!」
リリア「グレイヴさんの過去?」
宵月「どうして新人冒険者にあんなに厳しく接していたのか。その理由が明らかになります」
リリア「そっか……。何か理由があったんだね」
宵月「そして、普段は見せないグレイヴの本音も……」
リリア「ちゃんと聞いてあげたいな」
宵月「それでは、第35話をどうぞ!」
龍を討伐したリリアたちは、グレイヴとともにダンジョンを後にした。
地上へ戻る頃には、すっかり日が傾いていた。
「ようやく戻ってきたな……」
グレイヴが大きく息を吐く。
「お疲れさまでした、グレイヴさん!」
「おう。お前らもな」
いつものぶっきらぼうな返事だったが、そこには少しだけ柔らかさがあった。
三人はそのままギルドへ向かう。
扉を開けると、受付にいた職員がすぐにこちらへ気づいた。
「皆さん! ご無事でしたか!」
「ああ。何とかな」
「よかった……! グレイヴさんまで向かったと聞いて、心配していたんですよ」
「余計なお世話だ」
グレイヴはそう言いながら、受付の前に立つ。
リリアたちも隣に並び、今回の依頼について報告を始めた。
ダンジョンの構造、遭遇した魔物、そして最深部にいた龍。
話を聞くにつれ、受付嬢の表情が険しくなっていく。
「……龍、ですか。それも上位龍に進化していたと?」
「ああ。元は下位の龍だったんだろうな。だが、ダンジョンの中で魔力を蓄え続けた結果、あそこまで成長したんだろう」
「しかし、どうして魔力探知に引っかからなかったのでしょう?」
「魔力の扱いが異常に上手かったんだよ。自分の魔力を抑えるだけじゃねぇ。外から探知される魔力そのものを、誤認させるように操ってやがった」
グレイヴは腕を組む。
「だから、ギルドの調査でも低ランクだと判断された。あの龍は、侵入してくる冒険者を観察して、そういうやり方を覚えたんだろうな」
「そんなことが……」
「普通の魔物なら、そこまで器用な真似はできねぇ。厄介な相手だった」
受付嬢は報告書に内容を書き留めていく。
「今回の件は、ギルドとしても重大な問題です。すぐに調査結果を訂正し、同じことが起こらないよう対応します」
「ああ。頼む」
報告が一段落し、リリアたちはようやく一息ついた。
そのときだった。
「ねえ、グレイヴさん」
「あ?」
リリアが彼の顔を見上げる。
「前から気になってたんだけど……」
「何だよ」
「どうして新人さんには、あんなに厳しいの?」
グレイヴの表情が、わずかに変わった。
受付嬢も手を止める。
「……何でそんなことを聞く?」
「だって、最初に会ったときも、今回も。危ない依頼には行くなって言ってくれたでしょ?」
「そりゃあ、危ねぇからだ」
「でも、それだけじゃない気がするの」
グレイヴはしばらく黙っていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……昔、俺にも仲間がいた」
その言葉に、リリアとアリシアは静かに耳を傾けた。
「今のお前らみたいにな。四人かでパーティを組んで、いろんな依頼を受けてた」
「その人たちは……?」
「いい奴らだったよ。腕も立ったし、何より一緒にいて楽しかった」
グレイヴは遠くを見るように目を細めた。
「くだらねぇことで笑って、依頼が終われば酒場で騒いでな。次はどこへ行こうか、どんな魔物を倒そうか……そんな話ばかりしてた」
その声には、懐かしむような響きがあった。
「だが、ある依頼で失った」
空気が静かになる。
「俺たちは、勝てると思ってた。自分たちの実力なら問題ないってな。けど、見通しが甘かった」
グレイヴは拳を握る。
「結局、俺だけが生き残った」
「……グレイヴさん」
「それからだ。新人が無茶な依頼を受けようとしてると、放っておけなくなった」
彼は自嘲するように笑った。
「普通に止めたって聞きやしねぇ。だったら、嫌われるくらい強く言ってやればいい。俺のことを嫌いになれば、俺が受ける依頼にも近づかなくなる」
「だから、わざと嫌われるように……?」
「ああ。新人に厳しく当たって、嫌な奴だと思われりゃそれでいい。危険な依頼に手を出さずに済むならな」
リリアは何も言わず、グレイヴを見つめていた。
受付嬢が静かに口を開く。
「……グレイヴさん。もう、皆に本当のことを話してもいいんじゃないですか?」
「必要ねぇよ」
「でも、あなたが新人たちを守ろうとしていることを知れば、皆だって……」
「だから何だ」
グレイヴの声が少しだけ低くなる。
「俺がいい奴だと思われたいわけじゃねぇ。新人が生き残れば、それでいい」
受付嬢は困ったように眉を下げた。
グレイヴは一度目を伏せ、それから静かに言った。
「……俺は悪役でいいんだよ」
その言葉に、リリアは少しだけ俯いた。
「でも……」
彼女は顔を上げる。
「グレイヴさんは、優しいんだね」
「……どこがだよ」
「だって、皆に嫌われてもいいって思えるくらい、皆のことを考えてるんでしょ?」
「勝手に決めつけんな」
「違うの?」
「……うるせぇ」
グレイヴは顔を背けた。
アリシアも静かに口を開く。
「ですが、あなたが一人で背負う必要はないと思います」
「簡単に言ってくれるな」
「ええ。簡単なことではないでしょう」
アリシアはグレイヴの目を見つめた。
「それでも、誰かと一緒に背負うことはできるはずです」
「……」
グレイヴは答えなかった。
リリアは彼の表情を見て、無理に言葉を続けることはしなかった。
ただ、少しだけ笑っていた。
その後、簡単な手続きを済ませた三人は、ギルドを後にした。
それぞれ宿へ戻り、長い一日を終える。
そして、その夜。
グレイヴは一人、宿の部屋にいた。
椅子に腰掛け、荷物の中から小さな袋を取り出す。
その中に入っていたのは、一枚の写真だった。
そこには、かつての仲間たちが写っている。
剣を持った男。
杖を掲げる女性。
明るい笑顔を浮かべる女性。
そして、その隣には、今よりもずっと穏やかな顔をしたグレイヴ自身がいた。
「……懐かしいな」
写真の端を指でなぞる。
「お前らといた頃は、本当に楽しかったよな……」
返事はない。
当たり前だ。
もう、あの頃には戻れない。
「俺は……また仲間を失うのが怖い」
誰かと組めば、また大切になる。
大切になれば、失ったときに苦しくなる。
だから、一人でいい。
そう言い聞かせて、ずっと一人で依頼を受けてきた。
「もう、あんな思いはしたくねぇんだよ……」
グレイヴは写真を胸元に引き寄せる。
昼間の出来事が頭をよぎった。
リリアの笑顔。
アリシアの言葉。
そして、あの少女の無邪気な誘い。
『グレイヴさん、一緒に旅をしない?』
「……本当に、変な嬢ちゃんだ」
小さく呟き、写真をもう一度見つめる。
そこに写る仲間たちは、今も変わらず笑っていた。
「俺は……どうすりゃいいんだろうな」
答える者はいない。
それでも、グレイヴはしばらく写真をしまうことができなかった。
アリシア「グレイヴ殿にも、あのような過去があったのですね……」
リリア「うん……。でも、グレイヴさんは一人で頑張りすぎだと思う」
アリシア「リリア様は、やはりグレイヴ殿と一緒に旅をしたいのですか?」
リリア「うん! だって、グレイヴさんと一緒なら、きっと楽しいと思うから!」
アリシア「ふふっ。そうですね。いつか、その気持ちが届くとよいですね」
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