第三十四話 雷槌、轟く
宵月「今回は龍との決着回! 追い詰められた龍が、最後の手段に出ます!」
リリア「最後の手段……?」
宵月「そして、グレイヴの本気も見られます。普段の戦い方とは一味違う、とんでもない一撃が飛び出します!」
リリア「グレイヴさんの本気! 楽しみ!」
宵月「もちろん、リリアたちも負けていませんよ!」
リリア「私も頑張る!」
宵月「それでは、第34話をどうぞ!」
龍の咆哮が、ダンジョン全体を震わせた。
「グオオオオオッ!!」
黒い魔力が龍の身体から噴き出す。
その魔力は、先ほどまでのように周囲を漂うものではなかった。
龍の身体の内側へ、無理やり押し込まれていく。
「……何だ?」
グレイヴが眉をひそめた。
龍の身体が膨れ上がったように見える。鱗の隙間から黒い光が漏れ、周囲の空気が歪み始めていた。
「魔力が……集まってる?」
リリアが呟く。
「違う。あれは……!」
グレイヴの表情が険しくなった。
「全員、止めろ! あいつ、自爆する気だ!」
「自爆!?」
「自分の魔力を暴走させて、周囲ごと吹き飛ばすつもりだ!」
龍の身体から漏れ出す魔力が、さらに強くなる。
このまま放置すれば、ダンジョンごと巻き込まれるかもしれない。
「止める方法は……!」
「ぶっ壊すしかねぇ!」
グレイヴが武器を構える。
「嬢ちゃん! 魔法で動きを止めろ! アリシアは俺と一緒に攻める!」
「分かった!」
「承知しました!」
リリアは両手を掲げた。
まずは地面へ魔力を流し込む。
「《岩槍陣》!」
龍の足元から、幾本もの岩槍が突き出した。
鋭い岩の槍が龍の脚へ刺さり、その動きを封じようとする。
「グルルル……!」
龍が身体を揺らす。
岩槍が次々と砕けていくが、その一瞬の抵抗で十分だった。
「今です!」
アリシアが駆け出す。
狙うのは、先ほどグレイヴが破壊した指の周辺。
剣が閃き、傷ついた鱗の隙間へと斬撃が叩き込まれる。
「グオオッ!」
龍の前脚が大きく揺れた。
さらに、グレイヴが反対側から踏み込む。
「おらぁっ!」
雷を纏った武器が、龍の腕を打ち据えた。
龍の身体が傾く。
その隙を逃さず、リリアが魔力を練り上げた。
周囲の温度が急激に上昇する。
彼女の頭上に、赤黒く輝く炎が集まっていく。
「《燼焰》!」
放たれた炎が、龍の身体を包み込んだ。
ただ燃やすだけではない。
高密度に凝縮された炎が、龍の鱗を焼き、傷ついた箇所へと食い込んでいく。
「グオオオオオッ!!」
龍が大きく身をよじる。
しかし、魔力の暴走を止めるには至らない。
「まだ足りない……!」
リリアはさらに魔力を込める。
炎が勢いを増し、龍の身体を覆い尽くした。
アリシアも剣を構え直し、龍の動きを抑えるように攻撃を続ける。
だが――。
ピシッ。
龍の身体から、異様な音が響いた。
黒い魔力が、今度は身体の外側へと膨れ上がる。
「まずい!」
グレイヴが叫ぶ。
龍の自爆が始まろうとしていた。
「もう時間がねぇ……!」
グレイヴは武器を握り直した。
そして、静かに息を吐く。
「……しゃあねぇな」
彼の身体から、魔力が溢れ出した。
青白い雷が武器を包み込む。
同時に、筋肉が強化され、全身の力が引き上げられていく。
だが、グレイヴの魔力はそれ以外には一切使われていなかった。
防御魔法も、補助魔法も、他の攻撃魔法もない。
すべてを雷と身体強化に注ぎ込んでいる。
「グレイヴさん……?」
リリアが振り返る。
「嬢ちゃん、アリシア! 少しでもいい、あいつの動きを止めろ!」
「はい!」
「分かった!」
二人が同時に動く。
リリアは魔力を振り絞り、炎をさらに強める。
アリシアは龍の前脚へ飛び込み、剣を振るった。
龍の身体が揺れる。
ほんのわずかな隙。
それで十分だった。
「……これで終わりだ」
グレイヴが低く呟く。
武器を握る手に、さらに力がこもる。
青白い雷が激しく弾けた。
「《雷槌・天墜》!!」
地面が砕けた。
グレイヴの身体が、一瞬で龍との距離を詰める。
雷を纏った武器が、龍の身体へと叩き込まれた。
――轟ッ!!
青白い閃光が、部屋を覆い尽くす。
凄まじい衝撃が走り、龍の身体が大きくのけぞった。
そして。
ドォォォンッ!!
龍の巨体が、地面へと叩きつけられた。
同時に、膨れ上がっていた黒い魔力が霧散していく。
「…………」
静寂。
先ほどまで部屋を満たしていた魔力も、龍の咆哮も、もう聞こえない。
龍は動かなかった。
「……倒した、の?」
リリアが呆然と呟く。
「ああ。終わりだ」
グレイヴが答える。
その声には、いつもの余裕がなかった。
彼は武器を地面に立て、身体を支える。
「グレイヴさん!」
リリアが駆け寄る。
「おいおい、そんな慌てんな。ちょっと魔力を使い切っただけだ」
「ちょっとじゃないですよ!」
アリシアも近づき、グレイヴの様子を確認する。
「魔力がほとんど残っていません……」
「だから言っただろ。全部使ったんだよ」
グレイヴは苦笑する。
リリアは倒れた龍へ視線を向けた。
あれほど苦戦した相手を、一撃で倒した。
魔力を雷と身体強化に集中させ、ただ一度、武器を振るっただけだ。
「……すごい」
「何がだ?」
「今の一撃……すごく強かった」
「そりゃあ、出し惜しみしてる場合じゃなかったからな」
グレイヴはそう言って、龍を見上げる。
「中位龍でも、あの一撃なら一発で仕留められる。まあ、毎回こんなことやってたら魔力がいくらあっても足りねぇがな」
「中位龍を、一撃で……」
リリアは改めて、グレイヴの武器を見る。
そこにはもう、雷の光は残っていなかった。
「……さて」
グレイヴが息を吐く。
「とりあえず、全員生きてるな」
「はい。グレイヴ殿のおかげです」
「礼はいい。帰るまでが依頼だ」
そう言って、グレイヴは武器を肩に担ごうとした。
しかし、身体に力が入らず、わずかによろめく。
「……ったく。年は取りたくねぇな」
「グレイヴさん、まだ四十代ですよね?」
「まだ三十代だ!」
思わず声を荒らげるグレイヴ。
その様子に、リリアは少しだけ笑った。
ようやく、戦いが終わったのだ。
けれど、彼女たちはまだ知らない。
この龍がなぜ、これほどまでに強くなったのか。
そして、なぜギルドの調査では、その力を見抜けなかったのか。
その答えは、地上へ戻った後に明らかになることになる。
グレイヴ「……ったく、とんでもねぇ敵だったな」
リリア「グレイヴさんの最後の一撃、すっごく格好よかった!」
グレイヴ「おだてても何も出ねぇぞ」
アリシア「ですが、魔力を使い切るほどの一撃……相当な負担だったのでは?」
グレイヴ「まあな。しばらくは大人しくしてるさ」
リリア「じゃあ、帰ったらゆっくり休もうね!」
グレイヴ「……そうだな。まずは帰るぞ」
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