第二十七話 未熟な力
決闘を終え、自分の力について考えるリリア。
強さだけでは足りないと気づいた彼女は、アリシアとともに新たな鍛錬を始めます。
少しずつ成長していくリリアの姿をお楽しみください。
決闘から一夜明けた翌朝。
リリアとアリシアは、冒険者ギルドに併設された訓練場を訪れていた。
昨日の出来事があってから、リリアはずっと考えていた。
自分の力について。
あのとき、怒りに任せて魔力を膨らませてしまった。相手を圧倒することはできたものの、あと少しで取り返しのつかないことをしてしまうところだった。
師匠から教わったことを、何度も思い返す。
力を持つことと、その力を扱えることは違う。
自分はまだまだ未熟なのだ。
「リリア様、今日は何から始めましょうか?」
「まずは剣の練習をしたいです!」
「分かりました。では、私がお相手を」
アリシアはそう言って、訓練用の剣を手に取った。
リリアも自分の剣を構える。
普段使っている剣ではなく、訓練用の剣だ。さすがに訓練場であの剣を振り回すわけにはいかない。
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ」
最初は軽く打ち合うところから始めた。
リリアの剣筋は鋭く、動きにも無駄が少ない。しかし、アリシアはその攻撃を落ち着いて受け止め、時には軽くいなしてみせる。
リリアは攻め続けるが、なかなか一本を取れない。
「っ……!」
踏み込んだ瞬間、アリシアの剣がリリアの剣を弾いた。
「あっ!」
手元が崩れ、訓練用の剣が地面に落ちる。
「今のは、踏み込みが少し大きすぎましたね」
「うぅ……分かっていたつもりだったんですけど」
「頭で理解していることと、実際にできることは違います。何度も繰り返して、身体に覚えさせていきましょう」
「はい!」
リリアは剣を拾い、再び構えた。
それから何度も打ち合いを繰り返した。
剣を弾かれ、体勢を崩され、それでもリリアは何度も立ち上がる。
少しずつではあるが、アリシアの動きに対応できるようになっていった。
「では、次は魔法の練習をしましょうか」
「お願いします!」
リリアは剣を置き、少し離れた場所へ移動する。
今回の課題は、複数の魔法を同時に維持することだった。
まずは火属性の魔法。
リリアの手のひらの上に、小さな火球が生まれる。
それを一つ、二つ、三つと増やしていく。
四つ、五つ、六つ。
火球はリリアの周囲をゆっくりと浮遊し、彼女の意識に合わせて動いていた。
「順調ですね」
「まだまだいけます!」
七つ、八つ、九つ。
そして十個目。
火球が一瞬だけ揺らいだ。
「あっ……!」
次の瞬間、維持していた火球がすべて消えてしまった。
「十個が限界でしたか……」
「いえ、数だけが問題ではないと思います。魔力の配分が均等ではありませんでした」
「魔力の配分……」
「それぞれの火球にどれだけ魔力を送るのか。どれほどの大きさを維持するのか。そういった細かな調整が必要なのです」
リリアは自分の手のひらを見つめた。
魔力の量には自信がある。
けれど、量が多いからといって、それを上手く扱えるとは限らない。
「もう一度やってみます!」
今度は一つずつ、丁寧に火球を生み出していく。
一つ目。二つ目。三つ目。
先ほどよりも慎重に、魔力の流れを意識する。
十個目まで維持できた。
さらに十一個目。
そして十二個目。
「……できた!」
火球が十二個、リリアの周囲を浮かんでいる。
しかし、まだ安定しているとは言い難い。少し意識を逸らせば、すぐに崩れてしまいそうだった。
「お見事です。ただ、まだ維持することに意識を取られていますね」
「はい。動かそうとすると、少し不安定になっちゃいます」
「まずは維持することに集中しましょう。そこから少しずつ、動かす練習もしていけばいいと思います」
「分かりました!」
午前中の鍛錬は、そこで一区切りとなった。
訓練場の隅に腰を下ろし、二人は昼食を取ることにした。
リリアは持ってきたサンドイッチを頬張りながら、ふと思い出したように口を開く。
「アリシアさん」
「はい?」
「昨日のことなんですけど……」
アリシアは手を止め、リリアの方を見る。
「私、ちょっと怒りすぎちゃいましたよね」
「……そうですね」
「やっぱり、そうですよね」
リリアは少しだけ肩を落とした。
「でも、私は嬉しかったですよ」
「え?」
「私のために怒ってくださったのでしょう?」
アリシアは穏やかな表情で続けた。
「エレノア様のことを侮辱されたとき、私よりもリリア様の方が怒ってくださった。あのときは、本当に嬉しかったです」
「アリシアさん……」
「ですが、リリア様がご自身を見失ってしまうのは望んでいません。どれほど強い力を持っていても、それに振り回されてはいけませんから」
「……はい」
「リリア様には、リリア様らしくいてほしいのです」
その言葉に、リリアは小さく頷いた。
自分の力を制御すること。
それは誰かを傷つけないためだけではない。
自分自身を見失わないためにも必要なことなのだ。
「午後も頑張ります!」
「ふふっ。無理はなさらないでくださいね」
昼食を終えた二人は、再び鍛錬を始めた。
午後は剣ではなく、魔力の制御に重点を置くことにした。
小さな火球を一つだけ生み出し、その大きさを変えずに維持する。
次に、火球の形を変える。
大きくしたり、小さくしたり。炎の揺らぎを抑え、一定の形を保つ。
単純な作業に見えるが、少しでも魔力の流れが乱れれば形が崩れてしまう。
「……難しいですね」
「焦らず、ゆっくりで大丈夫です」
「はい」
リリアは目を閉じ、自分の中にある魔力へ意識を向けた。
流れを感じ取り、必要な分だけを取り出す。
力任せに押し出すのではなく、丁寧に形を整える。
何度も失敗しながら、少しずつ感覚を掴んでいく。
気がつけば、空は夕暮れに染まり始めていた。
「今日はこのくらいにしましょうか」
「もうそんな時間ですか……!」
「ずいぶん集中していましたからね」
「まだまだ練習したいですけど……今日はここまでにします!」
リリアは伸びをして、空を見上げた。
昨日の決闘で、自分の力の未熟さを思い知らされた。
けれど、落ち込んでいるだけでは何も変わらない。
少しずつでも、できることを増やしていけばいい。
「アリシアさん」
「はい」
「明日も、鍛錬に付き合ってもらえますか?」
「もちろんです。リリア様がお望みなら、いくらでも」
「ありがとうございます!」
リリアは笑顔で答えた。
まだ知らないことも、できないこともたくさんある。
だからこそ、もっと強くなりたい。
自分の力を正しく扱えるように。
大切な人たちを守れるように。
夕暮れの空に、一番星が輝き始めていた。
リリアはその星を見つめながら、明日も頑張ろうと心に決めた。
今回はリリアとアリシアの鍛錬回でした!
なんかアリシアのほうが強く見えますが、力の制御の鍛錬してるので抑えすぎてそこ突かれてます。
強大な魔力を持っていても、それを自在に扱えるとは限りません。
リリアにはまだまだ伸びしろがありそうですね。
次回も引き続き、リリアの成長を描いていきます!
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