第二十六話 内なる魔物
今回の決闘では、リリアの圧倒的な魔法と剣の力が明らかになります。
しかし、その強さの奥には、本人にも制御しきれない危うさがありました。
師匠の教えを胸に、リリアはどんな選択をするのか。
ぜひ最後までお楽しみください!
決闘場。
周囲には、たくさんの冒険者や街の人々が集まっていた。
その中央で、私は剣を構えていた。
向かいに立つのは、レオニス・ヴァルハルト。
この街の有力貴族であり、私に決闘を申し込まれた相手だ。
「……ふん。まさか、本当に決闘をすることになるとはな」
レオニスは、余裕のある笑みを浮かべていた。
「お前のような小娘が、私に勝てると思っているのか?」
「……やってみないと分かりません」
私は剣を握り直した。
レオニスは鼻で笑った。
「まあいい。後悔するなよ」
その言葉と同時に、決闘開始の合図が響いた。
◆
「……では、始め!」
審判の声。
レオニスは、すぐに魔法を発動させた。
「《炎波》!」
その瞬間。
彼の周囲に、無数の炎が浮かび上がった。
火の玉のような小さな炎。
それらが一斉に並び、波のように広がっていく。
「……!」
私は目を細めた。
炎が、こちらへ向かって飛んでくる。
その数は、数十。
しかも、一つ一つがかなりの威力を持っている。
まるで炎の弾幕。
逃げ場を塞ぐように、次々と飛来してきた。
「……なるほど」
私は剣を構えたまま、魔力を感じ取る。
炎の魔法。
その構成は、複数の火弾を同時に生成し、連続して撃ち出すもの。
かなり高度な魔法だ。
通常なら、一発ずつ撃つだけでも難しい。
それを一度に何十発も。
しかも、狙いを定めて撃ち出している。
「……すごいですね」
私は素直に感心した。
けれど。
次の瞬間。
私は同じ魔法を発動させた。
「《炎波》」
私の周囲にも、無数の炎が浮かび上がる。
そして。
一斉に放たれた。
ドドドドドッ!
炎と炎がぶつかり合う。
空中で爆ぜる火球。
広がる熱気。
決闘場が、炎の光で照らされた。
「……なっ!?」
レオニスが目を見開く。
自分の魔法と、私の魔法。
同じ構成。
同じ属性。
同じ名前。
けれど。
私の炎の方が、圧倒的に多かった。
レオニスの炎を押し返し、そのまま彼へと迫っていく。
「……くっ!」
レオニスは慌てて防御魔法を展開した。
炎が、彼の前で弾ける。
そして。
煙が晴れた。
レオニスは、何とか立っていた。
けれど、その表情には驚きが浮かんでいる。
「……今の魔法は、私と同じ……?」
「はい」
私は剣を構えたまま答えた。
「炎属性の《炎波》です」
レオニスは、私を見つめていた。
……同じ魔法なのに。
どうして、ここまで差があるのか。
それは、魔法の熟練度が違うから。
同じ魔法でも、使いこなせるようになるほど、その威力や規模は変わっていく。
そして、一定の域に達すると、魔法の名前さえ変わることがある。
例えば、初歩的な火弾。
それを何度も練習し、複数同時に扱えるようになれば、より高度な炎の魔法へと発展する。
魔法の名前は、習熟度を示すものでもある。
レオニスが使った《炎波》。
それは、彼にとってかなり熟練した魔法なのだろう。
でも。
私にとっては、まだ余裕のある魔法だった。
◆
「……ふざけるな!」
レオニスが叫んだ。
「たかが小娘が、私と同じ魔法を使えるはずがない!」
彼の周囲に、再び魔力が集まる。
炎。
今度は、先ほどよりも大きな火球が生み出されていた。
「《炎波・連弾》!」
炎が一斉に放たれる。
先ほどよりも、さらに数が多い。
私は魔力を感じ取った。
……うん。
さっきよりも、少し強い。
でも。
「……同じですね」
私は剣を構えたまま、魔法を発動させた。
「《炎波・連弾》」
私の周囲にも、同じように炎が浮かび上がる。
そして。
一斉に放たれた。
ドドドドドッ!
炎がぶつかり合う。
けれど。
私の炎は、レオニスの炎を飲み込んだ。
そのまま、彼の防御魔法へと迫る。
「……っ!」
レオニスは、必死に魔力を注ぎ込んだ。
防御魔法が、炎を受け止める。
けれど。
バキッ。
防御魔法に、ひびが入った。
そして。
パリンッ!
砕け散った。
炎が、レオニスの目の前で消える。
決闘場に、静寂が訪れた。
「……」
レオニスは、何も言わなかった。
ただ、私を見つめていた。
周囲の観客たちも、驚いている。
「……同じ魔法なのに」
「……あの子、何者だ?」
「……レオニス様の魔法を、押し返した?」
ざわざわとした声が、広がっていく。
私は剣を構え直した。
「……まだ、続けますか?」
レオニスは、顔を歪めた。
「……ふざけるな」
その声は、震えていた。
◆
「……私が、負けるはずがない!」
レオニスは、再び魔力を高めた。
今度は、炎ではない。
風。
地面。
複数の属性を組み合わせた魔法。
彼の周囲に、魔力が渦巻いていく。
「……《複合魔法》!」
風が巻き起こり、地面が揺れた。
私は、その魔力を感じ取った。
……なるほど。
複数の属性を組み合わせて、攻撃範囲と威力を高める魔法。
これは、かなり高度だ。
でも。
私は、その魔法の構成を見て、少しだけ首を傾げた。
「……あれ?」
何だろう。
どこかで見たことがある。
いや。
正確には。
この魔法の構成を、私は知っている。
師匠が、何度も教えてくれた。
魔法の構成。
魔力の流れ。
属性の組み合わせ。
そして、発動する前の動き。
それらを見れば、どんな魔法なのか分かる。
レオニスが魔力を集める。
その動き。
魔力の流れ。
……間違いない。
「……同じ魔法ですね」
私は、そう呟いた。
そして。
同じ魔法を発動させた。
◆
私の周囲にも、風が巻き起こる。
地面が揺れ、魔力が集まっていく。
レオニスが目を見開いた。
「……なっ!?」
私は、魔法を放った。
風と地面。
二つの属性が、同時に動く。
レオニスの魔法と、私の魔法。
同じ構成。
同じ属性。
けれど。
私の魔法が、圧倒的な勢いで彼の魔法を押し返した。
「……っ!」
レオニスは、防御魔法を展開する。
けれど。
私の魔法は、その防御を簡単に突破した。
そして。
彼の目の前で、魔法が消えた。
レオニスは、膝をついた。
「……な、ぜ……」
声が震えている。
「……なぜ、私の魔法が……」
私は、剣を構えたまま答えた。
「……同じ魔法だからです」
レオニスは、私を見つめた。
そして。
その表情から、少しずつ余裕が消えていった。
◆
私は、ゆっくりと歩き出した。
レオニスは、まだ膝をついている。
その周囲には、魔力が残っていた。
けれど。
もう、戦う意思は感じられない。
「……もう、終わりです」
私は、そう言った。
レオニスは、顔を上げた。
「……ふざけるな」
その声は、先ほどよりも弱かった。
「……私が、負けるはずが……」
私は、剣を握り直した。
……まだ、言うんだ。
この人は。
私は、少しだけ目を細めた。
そして。
「……アリシアさんに、謝ってください」
レオニスの表情が変わった。
「……は?」
「アリシアさんのことを、あんな風に言ったこと」
私は、剣を構えたまま続けた。
「……守れなかったのは、アリシアさんのせいじゃありません」
レオニスは、鼻で笑った。
「……何を言っている?」
「……」
「守れなかったのなら、そいつが悪いんだろう?」
その言葉を聞いた瞬間。
私は、剣を握る手に力を込めた。
「……違います」
声が、少しだけ低くなる。
「……アリシアさんは、必死に守ろうとしたんです」
「……それで?」
レオニスは、私を見上げた。
「守れなかったのなら、結果は同じだろう?」
私は、何も言わなかった。
……この人は。
まだ、分かっていない。
大切な人を失った悲しみ。
守れなかった後悔。
それが、どれほど重いものなのか。
アリシアさんが、どれだけ苦しんできたのか。
それを。
この人は。
「……お前が、守れなかったのが悪い」
レオニスは、そう言った。
その瞬間。
私の中で、何かが弾けた。
◆
……嫌だ。
この人。
嫌だ。
アリシアさんを。
あんな風に。
……許せない。
胸の奥が、熱くなる。
怒り。
悲しみ。
そして。
……どうして。
どうして、そんなことを言えるの?
私は、剣を握りしめた。
魔力が、膨れ上がる。
周囲の空気が、重くなる。
黒い魔力が、私の身体から溢れ出した。
……あれ?
何だろう。
身体が、熱い。
頭の中が、真っ白になっていく。
……この人。
……許せない。
私は、剣を構えた。
レオニスは、私を見ていた。
「……な、何だ……?」
その声が、少し震える。
私の魔力が、さらに膨れ上がった。
周囲の観客たちが、息を呑む。
「……何だ、あの魔力……」
「……まるで、首元に剣を突きつけられているようだ……」
「……近づけない……」
誰かが、そう呟いた。
けれど。
私は、そんな声を聞いていなかった。
ただ。
目の前のレオニスを見ていた。
……許せない。
◆
私は、剣を振るった。
レオニスが、慌てて防御魔法を展開する。
けれど。
私の剣は、その魔法を切り裂いた。
「……っ!」
レオニスは、後ろへ下がる。
私は、さらに踏み込んだ。
速い。
自分でも、驚くほど速かった。
レオニスが魔法を放つ。
けれど。
私は、それを避けた。
そして。
剣を振るう。
レオニスは、必死に防御する。
だが。
私の剣が、彼の杖を弾き飛ばした。
カランッ。
剣が、地面に落ちる。
レオニスは、動けなかった。
私は、そのまま近づいた。
そして。
剣を、彼の首元へ突きつけた。
◆
「……っ!」
レオニスが、息を呑む。
私は、剣を握りしめた。
……許せない。
この人。
アリシアさんを。
あんな風に。
……許せない。
私は、剣を少しだけ押し込もうとした。
その瞬間。
「リリア!」
アリシアさんの声が聞こえた。
けれど。
私は、止まらなかった。
……どうして?
どうして、止めなきゃいけないの?
この人は。
アリシアさんを。
……。
私は、剣を握る手に力を込めた。
そのとき。
ふと。
手の上に、何かが重なった。
……?
私は、目を見開いた。
剣を握る私の手。
その上に。
大きな手が、そっと重なっている。
……師匠?
◆
――リリア。
……師匠?
――力は、誰かを守るために使うものだ。
……。
――怒りに任せて振るうな。
……。
――お前がその力に飲まれたら、誰もお前を止められなくなる。
……師匠。
私は、目を閉じた。
……そうだった。
師匠は、いつも言っていた。
力を持つこと。
その力を、どう使うか。
それが、一番大切だと。
私は、ゆっくりと息を吐いた。
そして。
剣を、止めた。
◆
決闘場に、静寂が訪れた。
私は、剣をレオニスの首元から離した。
そして。
そのまま、ゆっくりと後ろへ下がった。
レオニスは、地面に座り込んでいた。
顔は青ざめ、震えている。
……もう、戦う意思はない。
私は、剣を鞘に収めた。
その瞬間。
「……勝負あり!」
審判の声が響いた。
決闘は、私の勝ち。
周囲から、歓声が上がった。
けれど。
私は、何も言わなかった。
ただ。
空を見上げた。
……師匠。
私。
ちゃんと、止まれたよ。
◆
その後。
レオニスは、決闘の敗北を認めた。
彼の取り巻きたちも、何も言わなかった。
私は、アリシアさんの方へ向かった。
「……アリシアさん」
「……リリア」
アリシアさんは、私を見つめていた。
その表情は、少しだけ心配そうだった。
「……大丈夫か?」
「……はい」
私は、小さく頷いた。
そして。
「……ごめんなさい」
そう言った。
「……私、ちょっと怒りすぎちゃいました」
アリシアさんは、首を横に振った。
「……いや」
そして。
私の頭に、そっと手を置いた。
「……ありがとう」
私は、少しだけ目を見開いた。
そして。
……えへへ。
笑った。
◆
その日の夜。
私は、宿の部屋で空を見上げていた。
星が、きらきらと輝いている。
……師匠。
私。
まだ、ちゃんと旅を続けられるかな。
……。
私は、そっと目を閉じた。
そして。
小さく呟いた。
「……おやすみなさい」
星は、静かに輝いていた。
今回も読んでいただきありがとうございます!
リリア「……ちょっと、怒りすぎちゃいました」
アリシア「……いや。私のために怒ってくれたんだろう」
リリア「……えへへ」
アリシア「だが、次は気をつけてくれ」
リリア「はい!」
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