第二十五話 決闘の申し込み
こんにちは!
今回は、リリアとアリシアが再びあの横暴な貴族と出会うお話です。
アリシアの過去を侮辱されたリリアは、ついに怒りを露わにします。
そして、彼女が選んだのは――
それでは、第25話をどうぞ!
グランベルの街。
私はアリシアさんと一緒に、今日も街の中を歩いていた。
「わあ! このお店、昨日は気づかなかった!」
「昨日とは違う道を歩いているからな」
「そうですね! まだまだ見ていないところがいっぱいあります!」
街を歩いていると、知らないお店や見たことのない商品が目に入る。
それだけで、なんだか楽しい。
「アリシアさん、あのお店も見てみましょう!」
「ああ。構わないぞ」
私はアリシアさんの手を引いて、店へ向かった。
……そのとき。
「おや?」
聞き覚えのある声がした。
振り向くと、立派な服を着た男性が、数人の従者を連れて歩いてきていた。
昨日、街の人たちや冒険者を見下していた貴族だ。
「……また、あの人か」
アリシアさんが小さく呟く。
貴族は私たちに気づくと、少しだけ目を細めた。
「おや。昨日も見かけた冒険者たちではないか」
取り巻きの一人が、すぐに口を開く。
「おお、これはこれは。昨日の冒険者ですね」
「このような街中で何をしているのです? 魔物でも探しているのですか?」
別の取り巻きが笑う。
「いやいや、冒険者に街の散策など似合いませんよ。森で薬草でも拾っている方がお似合いでしょう」
私は、特に表情を変えずに彼らを見ていた。
……また嫌なことを言っている。
貴族は私を見下ろすと、口元を歪めた。
「それにしても、ずいぶんと小さな冒険者だな。お前のような子供が冒険者とは、ギルドも人手不足らしい」
「お嬢様はまだ幼いようですし、剣を振るうよりも人形遊びでもしていた方がよろしいのでは?」
取り巻きが笑う。
私は少しだけ首を傾げた。
「……そうですか」
貴族は、私の反応を見て満足そうに頷いた。
「そうだ。冒険者など、剣を振るうことしか能がない者ばかりだからな」
「まったくですな」
「まともな教育も受けていない者たちですから」
取り巻きたちも、次々と口を挟む。
貴族はさらに続けた。
「まあ、冒険者として生きるしかない者もいるのだろう。だが、せめて身の程くらいは知っておくべきだな」
私は、黙って聞いていた。
別に、私のことを何と言われても構わない。
でも。
この人たちは、どうしてこんなに偉そうなんだろう。
◆
貴族は、隣にいるアリシアさんへと視線を移した。
「……ところで、そちらの女は騎士か?」
「……そうですが」
アリシアさんが答える。
貴族は、少しだけ笑った。
「ふむ。騎士にしては、ずいぶんと地味な格好をしているな」
取り巻きがすぐに反応する。
「確かに。騎士ならば、もっと立派な装備を身につけるべきでしょう」
「その程度の装備で、よく騎士を名乗れますな」
アリシアさんは、何も言わなかった。
貴族は、そんなアリシアさんを見て、さらに言葉を続ける。
「……いや、そもそも」
その声が、少しだけ低くなった。
「お前は、騎士として何を守れたのだ?」
アリシアさんの表情が、わずかに変わった。
「……何?」
「調べさせてもらったよ。かつて、お前が仕えていた主がいたそうだな」
貴族は、楽しそうに笑った。
「エレノア・ヴァレンティア。随分と立派な家柄だったらしい」
私は、アリシアさんを見た。
アリシアさんの手が、少しだけ震えている。
貴族は、そんなことには気づかず続けた。
「それで? その主を守れなかったお前が、今さら騎士を名乗っているのか?」
「……っ」
「守るべき主を守れなかった騎士など、ただの役立たずではないか」
取り巻きたちが笑う。
「まったくですな」
「騎士としての役目を果たせなかったのなら、剣を持つ資格もないでしょう」
「今度は、その小さな冒険者でも守るつもりですかな?」
私は、アリシアさんを見つめた。
……アリシアさん。
その顔は、悲しそうだった。
私は、貴族へと視線を戻す。
そして。
剣の柄に手をかけた。
◆
――抜けない。
剣を抜こうとした瞬間、手が止まった。
「……っ?」
右手を見下ろす。
アリシアさんが、私の手を掴んでいた。
「リリア」
静かな声。
「……やめなさい」
「……アリシアさん」
「ここで剣を抜いてはいけない」
アリシアさんの手は、私の手を包み込むように握っていた。
……強い。
剣を抜こうとしても、まったく動かない。
私は少しだけ驚いた。
でも。
「……離してください」
「リリア」
「……離してください」
私は、貴族を見つめたまま言った。
アリシアさんは、私の手を握ったまま、静かに首を振る。
「……駄目だ」
その声は、いつもより少しだけ強かった。
私は、もう一度貴族を見た。
……許せない。
アリシアさんを。
大切な人を失ったアリシアさんを。
こんな風に侮辱するなんて。
◆
そのとき。
私は、ふと思い出した。
冒険者ギルドで見かけた掲示。
決闘制度について書かれた案内。
冒険者同士だけではなく、貴族との間でも、一定の条件を満たせば決闘を申し込める。
正式な決闘として認められれば、双方が合意したうえで勝敗を決めることができる。
……そうだ。
剣を抜けなくても。
決闘なら。
私は、貴族を見据えた。
「……決闘を申し込みます」
貴族が、目を丸くした。
「……何?」
「あなたに、決闘を申し込みます」
取り巻きたちが、一斉に笑い出す。
「ははは! 決闘ですと?」
「お嬢さん、冗談はやめておいた方がいいですよ」
「相手は貴族様ですよ? 勝てるわけがないでしょう」
貴族も、呆れたように笑った。
「……面白いことを言う」
そして、私を見下ろす。
「お前が、この私に決闘を申し込むというのか?」
「はい」
「……後悔することになるぞ」
「構いません」
私は、貴族を見つめた。
目は、笑っていなかった。
貴族は、しばらく私を見ていた。
そして。
「……いいだろう」
笑みを浮かべる。
「その決闘、受けてやろう」
取り巻きたちが、嬉しそうに声を上げた。
「さすがです!」
「お見事です!」
「このような小娘に、身の程を教えてやりましょう!」
貴族は、満足そうに頷いた。
「決闘の日を決めよう。逃げるなよ?」
「……はい」
私は、静かに答えた。
アリシアさんは、私の手を離した。
そして、私の顔を見つめる。
「……リリア」
「……はい」
「本当に、やるつもりなのか?」
「はい」
私は頷いた。
「……アリシアさんを侮辱したこと、許せません」
アリシアさんは、何も言わなかった。
ただ、私を見つめていた。
◆
貴族たちは、そのまま去っていった。
取り巻きたちは、最後まで笑っていた。
「決闘の日が楽しみですな!」
「お嬢さん、逃げないでくださいよ!」
私は、彼らの背中を見つめていた。
そして。
ゆっくりと、アリシアさんへ振り向く。
「……アリシアさん」
「……何だ?」
「……ごめんなさい」
アリシアさんは、少しだけ目を細めた。
「……謝る必要はない」
「……でも」
「……リリア」
アリシアさんは、私の頭に手を置いた。
「……ありがとう」
その声は、とても小さかった。
私は、顔を上げた。
「……はい!」
そして、笑った。
……でも。
私の胸の中には、まだ怒りが残っていた。
決闘の日。
あの貴族に。
アリシアさんを侮辱したことを、後悔させてやる。
そう思いながら。
私は、剣の柄を握り直した。
今回も読んでいただき、ありがとうございます!
アリシアの過去を侮辱され、怒りを抑えられなくなったリリア。
ついに、横暴な貴族へ決闘を申し込みました。
次回、リリアとレオニスの決闘です!
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