第二十二話 過去を繋ぐ宝石
今回も読んでいただきありがとうございます!
宵月「今回は、アリシアがエレノア様との思い出を胸に、新しい一歩を踏み出すお話です。」
リリア「宴もありますよ! 美味しいお料理がいっぱいです!」
宵月「……リリアは、そっちが楽しみなんだね」
リリア「はい!」
宵月「まあ、リリアらしいですね」
リリア「えへへ!」
宵月「それでは、今回のお話もよろしくお願いします!」
# 第22話 過去を繋ぐ宝石
街を襲った魔物たちが去り、数日が経った。
街には、少しずついつもの日常が戻ってきていた。
壊れた建物の修理も進み、冒険者たちも依頼を再開している。
そして、今日。
「リリアちゃん! アリシアさん! こっちだよ!」
街の広場に、明るい声が響いた。
振り向くと、グレイヴさんが大きく手を振っていた。
「グレイヴさん?」
「今日は街を守ったお祝いだ! みんなで宴を開くことになったんだよ!」
「宴……?」
「そうだ。冒険者も街の人も、みんな参加する。お前たちも来い!」
「わあ! 楽しそう!」
私は思わず声を上げた。
アリシアさんも、隣で小さく頷く。
「……そうだな。せっかくだし、参加させてもらおう」
「よし! 決まりだな!」
グレイヴさんは満足そうに笑った。
◆
夕方。
広場には、たくさんの料理が並んでいた。
焼きたてのパン。
香ばしい匂いのする野菜。
大きな鍋に入ったスープ。
そして――。
「……わあ!」
私の目に飛び込んできたのは、巨大な骨付き肉だった。
魔獣のものらしい。
太い骨に、こんがりと焼かれた大きなお肉。
表面には香辛料がまぶされ、焼き色がついている。
その周りには、肉汁を吸った野菜が並べられていた。
「これ、すごく大きいですね!」
「街を襲った魔獣の肉だよ。食べられる部分を使って、みんなで焼いたんだ」
料理を担当した人が、嬉しそうに教えてくれた。
「魔獣のお肉って、こんなに大きいんですね!」
「ははっ。あの魔獣は特に大きかったからな!」
私は骨付き肉をじっと見つめた。
……美味しそう。
「リリア。食べるか?」
アリシアさんが尋ねる。
「はい! 食べたいです!」
私は元気よく頷いた。
◆
「いただきます!」
切り分けてもらった大きな骨付き肉を受け取る。
表面はこんがりと焼かれていて、香ばしい匂いがする。
ナイフを入れると、柔らかいお肉が切れた。
「……!」
口に運ぶ。
じゅわっ。
肉汁が広がった。
魔獣のお肉は、普通の獣のお肉よりも味が濃い。
噛むたびに旨味が溢れてくる。
香辛料の香りもよく合っていて、とても美味しい。
「……おいしい!」
「そうか。よかったな」
アリシアさんは、私の様子を見て微笑んだ。
アリシアさんのお皿にも、骨付き肉がある。
アリシアさんは少しだけ肉を切り、口へ運んだ。
「……美味しいな」
「ですよね!」
私は嬉しくなって、もう一口食べた。
広場では、冒険者たちが笑い合っている。
街の人たちも、楽しそうに料理を囲んでいた。
あの日、魔物に襲われた街。
けれど今は、みんな笑っている。
誰かが料理を作り、誰かがそれを食べる。
誰かが笑い、誰かがその笑顔を見て笑う。
そんな光景が、私は好きだった。
「……アリシアさん」
「ん?」
「みんな、楽しそうですね」
「……ああ」
アリシアさんは広場を見渡した。
その表情は、少しだけ穏やかだった。
「こうして、みんなが笑っていられるのは……」
そこで、言葉が止まる。
アリシアさんは、そっと目を伏せた。
私は何も言わず、隣にいた。
◆
宴は夜遅くまで続いた。
やがて、広場の人も少しずつ減っていく。
私はお腹いっぱいになって、アリシアさんと街の宿へ戻った。
「……今日は楽しかったですね!」
「ああ。そうだな」
アリシアさんはそう答えた。
けれど、その声は少しだけ静かだった。
私は、ふと彼女の首元に目を向けた。
そこには、何もない。
以前、崖の近くで見つけたとき。
アリシアさんは、小さなアクセサリーを握りしめていた。
エレノアさんが身につけていた、大切なもの。
今も、持っているのだろうか。
「……アリシアさん」
「どうした?」
「エレノアさんのアクセサリー……」
アリシアさんは、少しだけ目を見開いた。
そして、ゆっくりと懐から小さな包みを取り出した。
「……これか」
包みを開く。
中にあったのは、あの日と同じアクセサリー。
けれど、宝石は傷ついていた。
アリシアさんは、それを静かに見つめていた。
「……もう、元の形には戻せない」
「……」
「だが、宝石は残っている」
アリシアさんは、そっと宝石に触れた。
「これを……新しく作り直そうと思う」
「新しく?」
「ああ」
アリシアさんは、少しだけ顔を上げた。
「この宝石を、首飾りにしたい」
私は頷いた。
「……いいと思います」
アリシアさんは、私を見た。
それから。
「……そうか」
小さく呟いた。
翌日。
私たちは、街の装飾品を扱う店を訪れた。
店主は、アリシアさんが持ってきた宝石を丁寧に確認する。
「なるほど……。この宝石を使って、新しい首飾りを作りたいんですね」
「ああ」
「どんな形にしましょうか?」
アリシアさんは、少し考えた。
「……首に身につけるものがいい」
「チョーカーでしょうか?」
「……ああ。それで頼む」
店主は頷いた。
「分かりました。宝石を中心に、シンプルなデザインにしましょう」
私は、店主が手に取った宝石を覗き込んだ。
暗い色の石。
けれど、光が当たると、その奥に青い輝きが浮かび上がる。
「……わあ。綺麗ですね」
「ラブラドライトという石ですよ」
店主が教えてくれた。
「光の当たり方によって、様々な色が見えるんです。」
「きれい…」
私は呟いた。
アリシアさんは、宝石を見つめている。
その表情は、どこか寂しそうだった。
「……アリシアさん?」
「いや……」
彼女は首を横に振った。
「何でもない」
そう言って、宝石に手を伸ばす。
指先が、そっと石に触れた。
「……作ってくれ」
店主が頷く。
「かしこまりました」
私は、アリシアさんの横顔を見つめた。
彼女が何を思っているのか。
私には、まだ分からない。
けれど。
その小さな宝石には、きっと大切な想いが込められている。
◆
数日後。
完成したチョーカーを受け取りに、私たちは再び店を訪れた。
店主が、布に包まれたものを差し出す。
「お待たせしました。こちらがご注文の品です」
アリシアさんは、そっと包みを開いた。
黒に近い深い色の紐。
その中央に、小さなラブラドライトが輝いている。
以前のアクセサリーとは違う。
けれど、宝石は同じだった。
アリシアさんは、しばらくそれを見つめていた。
「……綺麗ですね」
私が言うと、アリシアさんは小さく頷いた。
「……ああ」
そして。
ゆっくりとチョーカーを首にかけた。
宝石が、胸元で小さく揺れる。
光を受けたラブラドライトが、青く輝いた。
アリシアさんは、それにそっと触れた。
まるで、そこに誰かがいることを確かめるように。
「……エレノア様」
小さな声が、静かに響いた。
私は何も言わなかった。
ただ、隣にいた。
◆
店を出ると、街には穏やかな風が吹いていた。
空は青く、雲がゆっくりと流れている。
「……リリア」
「はい?」
「これから、旅を続けるんだな」
「はい!」
私は笑顔で頷いた。
「いろんな場所を見に行きましょう!」
アリシアさんは、少しだけ空を見上げた。
そして、首元の宝石に触れる。
「……ああ」
その声は、まだ少しだけ寂しそうだった。
けれど。
アリシアさんは、歩き出した。
私も、その隣を歩く。
過去は、消えない。
大切な人との思い出も。
守れなかった後悔も。
それでも。
私たちは、前へ進む。
空には、星が一つ。
昼の光の中で、かすかに輝いていた。
それは、遠くにある星。
けれど、確かにそこにある。
私はその星を見上げながら、笑った。
「……次は、どこへ行きましょうか?」
「そうだな……」
アリシアさんは、少し考えた。
「まずは、次の街へ向かおう」
「はい!」
私は元気よく答えた。
そして、二人で歩き出した。
過去を繋ぐ宝石を胸に。
新しい星を探す旅へ。
……エレノア様。
私は、まだあなたを忘れられません。
あなたと過ごした日々も。
あなたの笑顔も。
守れなかった、あの日のことも。
それでも、私は旅に出ます。
あなたが愛した世界を、見てみたいから。
……いつか。
あなたに、胸を張って報告できるように。




