第十三話 窓辺の騎士と星を見る少女
町での日々を過ごすリリア。
子供たちと魔法を楽しみ、ギルドの冒険者たちと模擬戦をし、鍛冶屋では師匠の剣について新たな事実を知る。
そんな彼女の姿を、窓辺から見つめる騎士がいた。
町に滞在して、数日が経った。
私は今日も、町の中をのんびりと歩いていた。
美味しいご飯を食べて、知らない場所を見て回って、気になったお店に立ち寄る。
旅って、やっぱり楽しい。
……でも。
「リリアおねえちゃーん!」
「ん?」
声がした方を振り向くと、数人の子供たちが駆け寄ってきた。
「ねえねえ、今日も魔法見せて!」
「星のやつ!」
「あれ、すっごく綺麗だった!」
以前、子供たちに星を映し出す魔法を見せたことがある。
星の位置を観測して、空に映し出す魔法。
師匠に見せた、あの魔法だ。
「いいよ!」
私は笑って答えた。
「じゃあ、広場に行こうか」
「やったー!」
子供たちは嬉しそうに声を上げた。
◆
町の広場。
私は子供たちに囲まれながら、魔法を使った。
空に、星々が浮かび上がる。
昼間の空に、夜空が広がった。
「わあああ!」
「すごい!」
「星がいっぱい!」
子供たちは目を輝かせながら、空を見上げていた。
私は星座を動かしたり、流星を流したりしてみる。
「見て! あっちにも流れた!」
「こっちにも!」
みんな楽しそうだ。
私も、つい笑ってしまった。
師匠に見せたときも、こんな風に喜んでくれた。
……師匠。
私は少しだけ空を見上げた。
でも、すぐに子供たちの声が聞こえてくる。
「リリアおねえちゃん! もっと見せて!」
「うん!」
私はもう一度、魔法を使った。
◆
その様子を、町の建物の窓から見ている人がいた。
アリシアだ。
彼女は部屋の窓辺に立ち、広場で楽しそうにしているリリアを見つめていた。
子供たちに囲まれ、笑っている少女。
あの少女も、大切な人を失ったと言っていた。
それなのに。
どうして、あんな風に笑えるのだろう。
アリシアは、そっと窓枠に手を置いた。
◆
夕方。
私はギルドに顔を出した。
すると、冒険者たちが私を見つけて声をかけてきた。
「おう、リリア!」
「今日も元気そうだな!」
「なあ、ちょっと模擬戦やらないか?」
「いいよ!」
私は気軽に答えた。
訓練場に移動すると、何人かの冒険者が待ち構えていた。
私は剣を構える。
相手も構えた。
そして――
あっという間に、勝負がついた。
「……やっぱり強えな」
「いや、今のは何が起きたんだ?」
「もう一回! もう一回やらせてくれ!」
私は笑った。
「いいよ!」
その後も何度か模擬戦をした。
楽しかった。
――夢中になりすぎて何人倒したのかは覚えていない。
◆
ギルドを出たあと、私は鍛冶屋に立ち寄った。
「こんにちはー!」
「おう、リリアか」
店主が顔を上げる。
「今日はどうした?」
「ちょっと剣を見てもらいたくて」
私は腰に差した剣を抜いた。
師匠の剣。
店主はそれを受け取ると、じっくりと眺め始めた。
刃を確認し、柄を見て、強化魔法の痕跡を調べる。
そして――
「……おい、リリア」
「なに?」
「これ、本当にお前の師匠が作った剣なのか?」
「うん。そうだよ」
店主はしばらく黙っていた。
「……最上大業物クラスだな」
「そうなの?」
「しかも、何重にも強化魔法がかかっている。刃も最高級品だ。これほどの剣を人間が作ったとは……」
店主は剣を見つめながら、感心したように息を吐いた。
「……その人は、本当に凄い人だったんだな」
「師匠は、凄いよ」
私はそう答えた。
店主は剣を返してくれた。
「大切にしろよ。お前の師匠が、長い年月をかけて作り上げた剣だ」
「うん。大切にする」
私は剣を受け取り、鞘に収めた。
◆
夜。
私は食べ物を持って、アリシアの部屋を訪ねた。
扉を叩く。
「アリシアさん。私です」
少しして、扉が開いた。
「……リリアさん」
「こんばんは。ご飯、持ってきました」
「……ありがとうございます」
アリシアはそう言って、部屋に通してくれた。
私は持ってきた食べ物を机に置く。
「ちゃんと食べてますか?」
「……あまり」
「そっか」
私は椅子に座った。
アリシアは、少しだけ俯いていた。
「……どうして、私に構うのですか?」
「え?」
「私は……守るべき人を守れなかった騎士です」
アリシアの声が、少し震えた。
「……騎士失格です」
私は、すぐには答えなかった。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……私も、師匠を亡くしたんです」
アリシアが顔を上げた。
「師匠は、私を育ててくれた大切な人でした。ずっと一緒に暮らしていて……色々なことを教えてくれたんです」
「……」
「だから、アリシアさんの気持ち、少しだけわかる気がします」
私は、アリシアを見つめた。
「……私も、もっと一緒にいたかったです」
アリシアは、何も言わなかった。
私は続けた。
「でも……後悔してばかりだと、アリシアさんの主様も悲しんでしまうと思います」
「……っ」
「私の師匠も、きっとそうです。私がずっと悲しんでいたら、心配すると思いますから」
アリシアは、俯いた。
しばらく、沈黙が続いた。
やがて、彼女の目から涙がこぼれた。
「……私は」
小さな声。
「……私は、どうすればいいのでしょうか」
私は、少し考えた。
そして、答えた。
「……今は、無理に元気にならなくてもいいと思います」
アリシアは顔を上げた。
「悲しいなら、悲しいままでいいんです。泣きたいなら、泣いてもいいんです」
私は少しだけ笑った。
「私も、そうでしたから」
アリシアは、また俯いた。
そして、静かに泣いた。
私は何も言わず、そばにいた。
◆
帰り道。
私は夜空を見上げた。
星が、綺麗だった。
師匠。
私は、あなたが見せてくれた世界を、少しずつ見ています。
美味しいご飯も。
楽しい場所も。
優しい人たちも。
そして――
大切な人を失って、悲しんでいる人も。
私は、空を見上げたまま歩いた。
いつか。
アリシアさんも、また笑えるようになるといいな。
そう思いながら。
第13話を読んでいただき、ありがとうございます!
今回はリリアの日常と、アリシアとの交流を描きました。
大切な人を失った二人が、少しずつ心を通わせていくお話です。
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