第十二話 失われた星
新編『星を失った騎士と、星を追う少女』。
大切な人を失った騎士と、旅を続ける少女。
二人の出会いが、少しずつ新しい物語を紡いでいきます。
「……大丈夫ですか?」
私は、隣に座る女性に声をかけた。
けれど、返事はなかった。
女性は地面にへたり込んだまま、涙を流している。
さっきまで崖の下に落ちそうになっていた人。
私が助けた人。
……何があったんだろう。
どうして、こんなに悲しそうなんだろう。
気になったけれど、今は聞かない方がいい気がした。
私はそのまま、彼女の隣に座っていた。
川の流れる音が聞こえる。
風が吹いて、木々の葉が揺れる。
しばらくして、女性が小さく口を開いた。
「……私は」
声が震えていた。
「守れなかった……」
私は顔を向ける。
女性は俯いたまま、手の中にあるアクセサリーを握りしめていた。
……大切なものなのかな。
私は何も言わなかった。
ただ、隣に座っていた。
◇
しばらくして、私は女性に声をかけた。
「……街に戻りませんか?」
女性は答えなかった。
「ここにずっといるのも、寒いですし……」
少しだけ考えてから、私は続けた。
「歩けますか?」
女性はゆっくりと頷いた。
私は立ち上がり、手を差し出した。
女性はその手を見つめる。
そして、少し迷ったあと、私の手を取った。
……よかった。
私は彼女を支えながら、街へ向かって歩き始めた。
◇
街に戻ると、門の近くにいた人たちが私たちに気づいた。
「……アリシア様?」
誰かが声を上げた。
すると、周囲の人たちが一斉にこちらを向く。
「アリシア様!」
「ご無事だったのですね!」
街の人たちが駆け寄ってきた。
女性――アリシアさんは、俯いたまま何も言わない。
その様子を見て、街の人たちも心配そうな顔をした。
「アリシア様……どうされたのですか?」
そして、一人の女性が私を見た。
「……そちらの方は?」
あ。
そういえば、私のことを知らないよね。
「私はリリアです」
そう答えると、街の人は少し驚いたような顔をした。
「リリア様……?」
「いえ、様はいらないです!」
私は慌てて手を振った。
「ただの冒険者ですから!」
街の人は少し困ったように笑った。
「そうでしたか……。アリシア様を助けてくださったのですね」
「……はい」
私は頷いた。
すると、街の人たちは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
「アリシア様がご無事で、本当によかった……」
そんな言葉が聞こえてくる。
アリシアさんは、何も言わなかった。
ただ、俯いていた。
◇
街の人たちは、アリシアさんを休ませるために家へと案内してくれた。
私はその後ろをついていく。
街は、どこか温かい雰囲気だった。
大きな建物が並んでいるわけでもない。
お店も、豪華なものばかりじゃない。
でも、街の人たちはみんな笑顔で、互いに声をかけ合っている。
道端で荷物を運んでいる人を手伝う人。
子どもたちにお菓子を分けている人。
そんな光景が、あちこちにあった。
……いい街だなぁ。
私はそう思った。
◇
アリシアさんが休める場所に着くと、街の人たちが温かい飲み物を用意してくれた。
私は椅子に座りながら、周囲を見回す。
すると、一人の女性がアリシアさんに声をかけた。
「……アリシア様。エレノア様は?」
その瞬間。
アリシアさんの身体が、ぴくりと動いた。
街の人たちも、静かになる。
誰もが、アリシアさんの答えを待っていた。
けれど、アリシアさんは何も言わなかった。
ただ、俯いていた。
……エレノア様?
私はその名前を、心の中で繰り返した。
すると、別の人が小さく呟いた。
「……まさか」
誰も、続きを言わなかった。
アリシアさんの手が、震えている。
握りしめていたアクセサリーが、かすかに音を立てた。
私は、そっと彼女の隣に座った。
◇
しばらくして、街の人たちが静かに話し始めた。
「エレノア様は、本当にお優しい方でした」
「貴族なのに、私たちと一緒に畑仕事をしてくださったこともありましたね」
「ドレスがお好きで……。でも、いつも私たちにも分けてくださって」
「困っている人がいれば、すぐに手を差し伸べてくださる方でした」
私は、その話を聞いていた。
エレノア様。
アリシアさんが守ろうとしていた人。
きっと、とても大切な人だったんだ。
街の人たちは、誰もアリシアさんを責めなかった。
むしろ、心配していた。
「アリシア様……どうか、ご自分を責めないでください」
その言葉を聞いた瞬間、アリシアさんの目から、また涙がこぼれた。
「……私は」
小さな声。
「私は……守れなかった」
誰も、何も言えなかった。
私はアリシアさんの隣に座ったまま、そっと声をかけた。
「……アリシアさん」
彼女が、ゆっくりと顔を上げる。
「今は、泣いててもいいんですよ」
私は、そう言った。
アリシアさんは何も答えなかった。
ただ、涙を流していた。
私はその隣にいた。
今は、それだけでいいと思った。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回は、リリアとアリシアの出会いの続きでした。
大切な人を失ったアリシアに、リリアはただ寄り添います。
次回もぜひお楽しみに!
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