第十一話 守れなかった騎士
川沿いで出会った、深い悲しみを抱える騎士。
そして、リリアが思わず手を伸ばした理由とは……。
次回もぜひお楽しみに!
――守れなかった。
私は、ただ一つの言葉を繰り返していた。
手の中にあるのは、血に染まった小さなアクセサリー。
大切な人が身につけていたものだ。
あの日、私は騎士として、主を守るために剣を振るった。
けれど、どれだけ剣を振るっても、どれだけ必死に戦っても。
守るべき人を、守ることができなかった。
「……私は」
声が震える。
視線の先には、深い崖。
風が吹き抜け、私の髪を揺らした。
「騎士失格だ……」
もう、何も残っていない。
私が守れなかった人は、もう戻ってこない。
握りしめたアクセサリーを、もう一度見つめる。
その宝石は、かつての輝きを失っていた。
私の心と同じように。
◇
私は馬車に揺られながら、のんびりと鼻歌を歌っていた。
山を越え、森を抜け、知らない景色を見ながら旅をする。
うーん。旅っていいなぁ。
師匠と暮らしていた山も好きだったけど、こうしていろんな場所を見られるのは楽しい。
そんなことを考えていると、馬車の窓から川が見えた。
きらきらと光る水面。
川沿いには木々が並び、風に揺れている。
「わぁ……綺麗」
思わず声が出た。
あの川、どこまで続いているんだろう?
ちょっと気になる。
私は馬車を降りると、御者さんに声をかけた。
「すみません。少し川沿いを歩いてみたいので、ここで降ろしてもらってもいいですか?」
「おや、いいのかい? 次の街まではまだ距離があるよ」
「はい! 歩いてみたいんです!」
御者さんは少し困ったように笑った。
「じゃあ、気をつけてな。街道からあまり離れないように」
「ありがとうございます!」
私は手を振って、川沿いへと歩き出した。
水の流れる音が心地いい。
時折、小さな魚が跳ねるのも見える。
こういう景色を見ていると、師匠にも見せてあげたかったなぁ、なんて思う。
……いや、師匠ならきっと、もっと綺麗な川を知っているのかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていたときだった。
ふと、森の奥から魔物の気配を感じた。
「……ん?」
私は足を止める。
魔物の気配だけじゃない。
何か、変な感じがする。
少し先へ進むと、川沿いに破壊された馬車が見えた。
馬車の車輪は壊れ、荷物が散乱している。
そして、その周囲には――
「……っ」
鎧を着た人たち。
ドレスを着た人。
誰も動いていなかった。
私はそっと近づく。
もう、助からない。
それが分かってしまった。
「……ごめんなさい」
私は小さく呟いた。
何があったのかは分からない。
でも、ここに放っておくわけにはいかない。
私は彼らを一人ずつ、丁寧に埋葬した。
せめて、安らかに眠れますように。
手を合わせて祈る。
そのとき、地面に残された血の跡が目に入った。
川沿いから、森の奥へ。
そして、崖の方へと続いている。
「……まだ、誰かいるのかな」
私は血の跡を追いかけた。
◇
崖の近くまで来ると、一人の女性が立っていた。
鎧を身につけ、腰には剣。
騎士さんかな?
でも、その姿はとても疲れているように見えた。
女性は手の中に何かを握りしめている。
そして、崖の向こうをじっと見つめていた。
「あの……」
声をかけようとした、その瞬間。
女性がこちらを振り向いた。
目が合う。
その顔には、深い悲しみが浮かんでいた。
何かを言おうとしたのか、女性が一歩こちらへ踏み出す。
けれど――
「……っ!」
足元が崩れた。
女性の身体が、崖の外へと傾く。
「危ないっ!」
私は咄嗟に駆け出した。
伸ばした手が、女性の手を掴む。
そのまま、身体を引き戻す。
……よかった。
間に合った。
私は女性を引き上げ、地面に座り込んだ。
「ふぅ……びっくりしたぁ……」
心臓が、まだドキドキしている。
普段ならこんなことで息が上がることはないのに、さっきは本当に焦った。
隣では、女性も地面にへたり込んでいた。
そして、涙を流している。
「……大丈夫ですか?」
私はそっと声をかけた。
女性は何も答えなかった。
ただ、私を見つめていた。
その目には、涙が溢れている。
まるで――
どうして、私を助けたの?
そう問いかけているようだった。
私はその視線を受け止めながら、静かに彼女のそばに座った。
今は、何も聞かない方がいいのかもしれない。
そう思った。
川の流れる音だけが、静かに響いていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回はリリアとアリシアの出会いを描きました。
次回は、助けられたアリシアとリリアのやり取りを中心に描いていく予定です。
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