パネットーネ国に戻る前に…
「それで……どうしてここにパキラがいるのにゃ?
ここはサントノーレ国と、リエールが言っていたにゃ……」
「お前は……俺の出身国も覚えていなかったのか?」
頭を軽く小突きながら言うパキラ。
そういえば、色々なことが雪崩のように起こって、
すっかり忘れていた。
サントノーレ国はパキラの出身国で、
あくまでも留学に来ている殿下についてきた側近だったのを思い出す。
「そういえば……すっかり忘れていたにゃ」
軽く舌を出して謝ると、
「まぁいい」と少しそっぽを向かれてしまった。
そのあとは、
少し話をしてくると言って部屋の外に出て行ってしまったので、
私は大人しくリエールの部屋で待つことにした。
そして、待っている間――
なぜパキラがここまで早く来られたのか……
考えているうちに、
リエールが誰に似ていたのかを思い出す。
「あまり会ったことがないから忘れていたにゃ……
リエールは、エリオント殿下に似ていたのにゃ……」
ここに来てから、
あまり部屋から出るなと言われていたため、
外に出ないようにしていた私は気づかなかった。
ただ思っていたのは、
「部屋が豪華で広いにゃ……」くらいだった。
用意されたクッションも一流のものだろうと思うほどふわふわで、
ご飯も猫なのにフルコースのようなものが出てくる。
相当な家柄なのだろうとは思っていたが、
そこまで深く考えていなかった。
決してフランチェスカの家が悪かったわけではないが、
帰れないならこのままでもいいかと思ってしまうほどには、
とても住みやすかった。
一人で考え込んでいると――
ガチャリと扉が開き、二人の男性が入ってきた。
一人はリエール。
もう一人は、黒髪の男性だ。
三白眼で少し怖そうに見えるその顔に、
どこか見覚えがある。
「リリー。いや、エーデルワイスか?
話はこいつから聞いた」
“こいつ”とは……?
そう思って黒髪の男を見ると、
口パクで「気づかないのか?バカ!」と言ってきた。
そこで、先ほど部屋を出て行ったパキラのことを思い出す。
「にゃにゃ~にゃ。にゃにゃぁ~!
《いいのにゃ。リエールはリリーと呼ぶことを許すのにゃ!》」
リエールに近づき、足にすり寄ると、
そのまま抱き上げられる。
最近ではリエールの抱っこも体に馴染み、
安心して身を任せられるようになっていた。
パキラの方を見ると、
猫にならないと私の言葉が分からないらしく、
ただ笑いをこらえているだけだった。
「パキラ。今回の件、サントノーレ国も動くことになった。
今回は国王が行けないから、代わりに私も向かうが……いいか?」
「リエール王太子殿下が動くということは……
そういうことなんですね……?」
「あぁ……
パネットーネ国は今、孤立している。
次期国王になるオルテンシア王太子殿下に期待していたが、
それも難しそうだからね。
それに、税の増額で国に住めなくなり、
移住してくる者が後を絶たない。
カルミアという女の影響で、
王族も内側から崩壊しつつあると聞く。
今が好機と見るべきだろう」
二人の話を聞いていて、
まず思ったのは――
リエールがこの国の王太子だったということを、
知らなかったことだ。
王妃教育で近隣諸国について学んでいたはずなのに……
どうやら完全に抜け落ちていたらしい。
いや、きっとこれは首チョンパされた影響だろう……
そういうことにしておきたい。
そして――
サントノーレ国の王太子が動くということは、
パネットーネ国の王族が放置されることはなくなるということだ。
今までは均衡のために見逃されていたが、
それも限界ということだろう。
「あと、もう一人強い味方がいてね。
一緒に連れていきたいんだが……会ってくれるだろうか?」
「勿論です。リエール王太子殿下。
エディもいいよな?」
「にゃぁにゃにゃ~にゃ!
《もちろんだにゃ!味方は多いに越したことがにゃいにゃ!》」
どや顔で返事をすると、
二人は「ぷっ」と吹き出した。
このプリチーな猫を見て笑うとは、
失礼な二人である。
***
そして部屋を出て、
リエールとパキラと共に王宮を進んでいく。
やがて、一つの部屋の前にたどり着いた。
客間だろうか。
リエールがノックをすると、
中から声が返ってくる。
「リエールです。
急に訪ねて申し訳ない。今よろしいでしょうか?」
「リエール王太子殿下でしたか。
勿論です。どうぞお入りください」
ゆっくりと扉が開く――
そこにいたのは、
ずっと探していた、グラニータ公爵だった。
「グラニータ公爵は、今でこそ会話ができるが、
初めは話もできないほど魅了魔法に侵されていたんだ……
王宮から逃げた方法までは覚えていないらしいが、
たまたま父上が視察で領地を訪れた際に、
歩いているところを見つけてね。
身なりが整っていたのが気になって、
保護したというわけだ」
リエールが淡々と語る。
その内容にも驚いたが――
何より、
ずっと探していた公爵がここにいることに気づき、
思わずパキラと顔を見合わせた。




