パキラとの再会。
目が覚めると、
ふかふかのクッションの上で丸くなって眠っていたことに気付いた。
昨日の昼下がり、
砂利道をよろよろ歩いていたところに、
一人の男性が近づいてきてくれたことを思い出す。
最近は夜明けとともに起きていたからか、
私をここに連れてきてくれた人は、まだ眠っているようだ。
辺りをキョロキョロと見渡すと、
とても広い部屋だということが分かる。
恐らく、フランチェスカの部屋よりも広いだろうか……
少し落ち着いて考えられるようになると、
パキラ宛の手紙はきちんと届いているのか、
孤児院の子供たちは無事か、
フランチェスカは大丈夫なのか――
次々と不安が浮かんでくる。
けれど、今はどうすることもできない。
私は、もう少しだけ眠ろうと、
クッションの上でもう一度丸くなった。
二度寝を楽しんでいると、
誰かが頭を撫でてくる。
ゆっくり目を開けると――
とても綺麗な顔をした人が、ドアップで映り込んできた。
「どうやら起きたようだね?リリー。おはよう」
「にゃぁ~」
前足と背中を伸ばす。
リリーって、私のことだろうか……
そういえば昨晩、名前がないと不便だと言っていた気がする。
エーデルワイスという名前があるのに……
新しい名前をもらった気分だ。
「にゃぁ~にゃにゃにゃぁ~
《助けてくれてありがとなのにゃ。で、君は誰なのにゃ?》」
「お、少し眠って昨日より元気そうだな。
ご飯を持ってくるから、ちょっと待っていてくれ」
ご飯を持ってきてくれるのは嬉しいけど……
そうじゃない。
できれば名前を知りたいのだが、
まぁ、持ってきてもらえるならありがたくいただこう。
そう思い、男の人についていくことにした。
「リエール様。リリー様が後ろからついてきているようですが……」
リエールというのが、この人の名前だろうか。
そういえばこのリエールという人、
誰かに似ている気がする。
特に横顔がそっくりだ……
パキラの主人、エリオントという人に似ている気がする。
「にゃぁ~!《吾輩も探検したいからついていくにゃ!》」
「お腹がすいて待っていられなかったか。
リリーは食いしん坊だな。
仕方がないから一緒に行こう」
私を抱き上げ、リエールは歩き出す。
リエールは猫が好きなのか、動物が好きなのか分からないが、
すぐに撫でてきたり、抱っこをしたがる。
普通の猫は、これが普通なのだろうか……
フランチェスカの家にいたときは、
フランチェスカに話が通じたし、
パキラやお父様たちにも話が通じていた。
だから、こんなにも意思疎通ができないことが、
ここまで大変だとは思わなかった。
そして――
ここに来てから、あっという間に二週間が過ぎた。
フランチェスカの家を出てからは、
一ヶ月以上が経っていたのである……。
その時――
目の前に、とても見知った顔の猫が現れた。
「パ、パ、、パキラかにゃ……?」
「エディ!やっと見つけたぞ!
どれだけ探していたと思っているんだ。
元気そうでよかった」
鼻と鼻をくっつけ、
額を合わせて、
お互いの無事を確かめる。
「パキラにゃ……
ずっと心細かったのにゃ……
会えてよかったにゃぁぁぁ……っ」
思わず大声で泣いてしまったのは、
許してほしい。
***
エディがいなくなったと聞いてから、
俺は王都中を探したが、まったく見つからなかった。
「本当に……あいつはどこに行ったんだ」
前日には手紙を送ってきたくらいだ。
恐らく、自分から姿を消すようなことはしないだろう。
だとすると、一番怪しいのは――
カトレアのメイド、ロベリアだ。
エディがいなくなった日。
ロベリアが馬車で出かけたという情報はあったが、
行き先までは掴めていない。
もしその馬車に乗せられて、
どこかに捨てられたのだとしたら――
王都にはいない可能性が高い。
一応、黒曜石を持たせているし、
大きな怪我はないと思うが……
如何せん、方向音痴だ。
帰巣本能が働くような猫ではないだろう。
「あとは……人通りの少ない道を当たるか……」
そんな道はいくらでもありそうだが……
ロベリアを捕まえるのが一番早い。
だが、大帝国トライアルと繋がりがあるとすれば、
今この場で動くのは得策ではない。
他国で争いの火種を作るわけにもいかない。
「はぁ……地道に探すしかないか……」
そう思って、一ヶ月ほど経った頃――
エリオントが、勢いよく部屋に入ってきた。
「パキラ!エーデルワイスだが……
もしかしたら兄上のところにいるかもしれないぞ!」
リエール王太子殿下から届いた手紙を、
テーブルに置く。
そこには――
最近、白い猫を飼い始めたこと。
二週間前、捨てられていたところを保護したこと。
赤い首輪をしていたこと。
さらには、黒曜石のようなチャームをつけていたことまで書かれていた。
「これは……エディにそっくりだ……
しかし、なぜサントノーレ国にいる……?」
「恐らく、捨てられてから彷徨い続けたんだろう。
ほら、兄上……
舗装されていない道を好んで通る人だからな」
確かに、砂利道を好むような人だ。
その可能性は十分にある。
「フランチェスカも先日、無実の罪で捕まってしまった。
時間がないのは分かっているな?」
「……あぁ」
「お前はまずエディを連れて戻ってこい。
俺はフランチェスカと面会できないか、
処刑前に何とかできないか考えておく」
「頼んだぞ!」
俺はすぐにサントノーレ国へ向かい、
一ヶ月ぶりにエディと再会した。
再会してすぐ――
本物かどうか確かめるように、
額や鼻をくっつける。
そして――
今までの不安が一気に溢れたのか、
泣き出すエディを見て――
守ってやりたいと、そう思った。
この感情の正体は、
まだ分からなかったが――




