真っ直ぐ進むだけではどうやら森は抜けられなかったようですにゃ……
歩き始めて、結構な日数が経った……と思う。
初めは日の出の数を数えていたけれど、
段々と考えるのも億劫になり、
ひたすら前だけを見て歩く日々。
お腹がすいたら、とりあえず木の実などはあるから、
何とか生きていける……という感じだ。
これが人だったら、間違いなく死んでいただろう。
「それにしても……ここは一体どこにゃのにゃ……」
猫には帰巣本能があるというし、
普通だったら帰ることができるのかもしれないが、
何故か私にはそれができずにいた。
「せめて馬車でも通ってくれたら……
わかるのにゃ……」
そう言いつつ、森の中を進む。
「にゃ!?よくよく考えれば……
森の中を歩いていたら、馬車にゃんか通るわけにゃいのにゃ……」
必死に森の中を歩いていたが、
道のない森だ。
それは馬車が通るわけがないだろう。
もう少し早く気づくべきだったと思い、
私は急いで道を探し出す。
ロベリアに捨てられたとき、
馬車が通れる道を通っていたのだ。
ならば、どこかに道はあるはずだろう……
あまり人通りが少ない道だとしても、
多少なりとも痕跡は残っているはずだ。
なぜそんなことにも気づかなかったのか……
「そ、それは猫だから仕方がにゃいのにゃ……
そ、そうにゃのにゃ……」
自問自答を繰り返し、
気持ちを紛らわす。
そして、日が落ち始めたころ――
やっと砂利道だが、
道を見つけることができた。
「はじめから前ばかり行かずに、
右や左に行くべきだったにゃぁぁぁぁぁああ!!!」
こんな時に、パキラから言われた一言を思い出す。
「お前はすぐ突っ込んでいくから、気をつけろ……」
本当に、真っすぐ進んでばかりいたのだと、
やっと気づいた瞬間だった……。
森から出てからは、
砂利道をひたすら走る。
どうやら前後左右を見ても、
人一人歩いていないようだ。
せめて馬車でも通ってくれれば……
そう思うが、まったく通らない。
どこの領地なのかも分からず、
城壁さえ見つからない。
「本当にこういう時はどうしたらいいにゃ……」
日が落ちたまま進むのは危険だと思い、
いつも通り木の上で休むことにした。
そして数日後――
やっと一台の馬車が、目の前で止まった。
「大丈夫かい……?」
「にゃぁぁぁ……《大丈夫じゃないにゃ……》」
声をかけてきたのは、
この辺りでは見かけたことのない人物だった。
ただ、どこか誰かに似ている気がした。
だが、空腹と疲労で限界だった私は――
そのまま、意識が途切れた。
***
視察からサントノーレ国の王都へ帰る途中、
汚れた猫がヨタヨタと歩いているのを見つけた。
この辺りは動物もおらず、
人もほとんど通らない。
砂利道のため、馬車もあまり通らない場所だ。
そんな場所で、一匹の猫。
恐らく、捨てられたのだろう。
僕は馬車を止め、猫に駆け寄った。
「大丈夫かい……?」
抱き上げると、
体は軽く、骨ばっているのが分かる。
相当無理をして歩いてきたのだろう。
「にゃぁぁぁ……」
すり寄ってきたと思った次の瞬間、
そのまま力尽きるように倒れた。
僕は慌てて、
呼吸を確かめるため耳を口元に近づける。
「すぅ……すぅ……」
「よかった……生きている」
安堵の息をつき、
そのまま猫を抱えて馬車に戻った。
「リエール様。その猫は一体……」
「今、そこで見つけたんだ。
恐らく飼い猫だったのだろうが、
捨てられたのか……その辺は分からない」
少し間を置いてから続ける。
「……かわいそうだ。
連れて帰ってもいいか?」
従者はため息をつきながらも、
「仕方ありませんな……」とタオルを差し出してくれた。
それで包んでやると、
先ほどまで苦しそうだった顔が、
少しだけ穏やかになる。
しばらくして、
王都が見えてきた。
そのまま馬車は王宮へと入っていく。
「リエール様。到着いたしましたが……
その猫はどうされますか?」
「あぁ……元気になるまでは、
一緒にいてやりたい」
そう言って、猫を抱えたまま馬車を降りた。
「にゃぁ……《ここはどこにゃ……》」
部屋に戻り、
ソファの上にそっと寝かせると、
ゆっくりと目を開けた。
「起きたかい?
ここは僕の部屋だ。安心していい」
弱々しい声だが、
返事をするように鳴いた。
「このまま寝てもいいが、
風呂に入った方が気持ちがいいだろう。
食事も用意させている。
まずは体を綺麗にしてきなさい」
一緒に入ろうとしたが、
メイドに止められてしまい、
仕方なく任せることにした。
しばらくして――
綺麗になった猫が戻ってくる。
先ほどまで汚れていたため分からなかったが、
真っ白で、驚くほど美しい毛並みをしていた。
「猫と呼び続けるのもあれだな……
名前をつけよう」
少し考えてから口にする。
「……リリーでいいか?」
「にゃぁぁぁぁ!!《違うにゃ!エーデルワイスにゃ!》」
「なんだ、そんなに嬉しいのか」
そう言って笑う。
「じゃあ、お前は今日からリリーだ。よろしくな」
首元を撫でると、
気持ちよさそうに喉を鳴らした。
その時――
扉の外から声がかかる。
「リエール様。国王様がお呼びです」
「……せっかくの時間だったのに」
小さく息をつく。
「すまないが、少し待っていてくれ」
そう言って、
猫の額に軽く口づけを落とし――
僕は父の元へ向かった。




