9.
「これを、一つ! これ、一つ、ください!」
ウィルバーの必死な身振り手振りでも、露天の店主は首を縦にはふってくれなかった。
――ここでもだめか……
ウィルバーは見せていた金貨を巾着にしまって市場をとぼとぼと歩く。
北に進めば進むだけ、言葉と通貨が通用しない。
そんな違いがあるとは思わなかった。
金貨にもう価値がない。
おかげで食べ物も満足に買えない。
ウィルバーが再び食べられそうなものを求めて森へと入ろうとした時、声をかけられた。
「オイ! コレ! コレ!」
「……え?」
振り返ると見知らぬ男が一人、パンを高らかに掲げている。
――パンだ!
先程買えなかったパンが突然目の前に飛び込んできて、ウィルバーの喉が条件反射で鳴った。
男は駆け寄ると、手を前に差し出した。
「ヤル、カネ」
「売ってくれるの!?」
空腹を思い出した腹を満たしたい。
ウィルバーは巾着から金貨を一枚取り出して、男の手のひらに乗せる。
しかし、男は首を横にふった。
「え……ダメなの? なら……」
二枚目を出しても男は首を縦にはふってくれなかった。
「だってパンでしょ? そんな高いはずは……」
パンなんてどこにでもある食べ物だ。
銀貨数枚で買える程度のものが、なんでこんなに高いのだろうと、五枚目の金貨を出した時に、ウィルバーは一瞬戸惑ってしまった。
男はそれを見逃さなかった。
「うわあっ!」
金貨を握りしめた手のまま、男はウィルバーの顔を思いっきり殴る。
そして、パンを放り投げてそのまま走り去ってしまった。
「……くっそ」
パン一個に対して代償は大きすぎる。
それでも生きるために、ウィルバーは道に落ちたパンを拾って、再び歩き始めた。




