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レーア・エルゼ  作者: ゆきや
第2章 生きる
9/14

9.

「これを、一つ! これ、一つ、ください!」


ウィルバーの必死な身振り手振りでも、露天の店主は首を縦にはふってくれなかった。


――ここでもだめか……


ウィルバーは見せていた金貨を巾着にしまって市場をとぼとぼと歩く。


北に進めば進むだけ、言葉と通貨が通用しない。

そんな違いがあるとは思わなかった。


金貨にもう価値がない。

おかげで食べ物も満足に買えない。


ウィルバーが再び食べられそうなものを求めて森へと入ろうとした時、声をかけられた。


「オイ! コレ! コレ!」

「……え?」


振り返ると見知らぬ男が一人、パンを高らかに掲げている。


――パンだ!


先程買えなかったパンが突然目の前に飛び込んできて、ウィルバーの喉が条件反射で鳴った。


男は駆け寄ると、手を前に差し出した。


「ヤル、カネ」

「売ってくれるの!?」


空腹を思い出した腹を満たしたい。

ウィルバーは巾着から金貨を一枚取り出して、男の手のひらに乗せる。

しかし、男は首を横にふった。


「え……ダメなの? なら……」


二枚目を出しても男は首を縦にはふってくれなかった。


「だってパンでしょ? そんな高いはずは……」


パンなんてどこにでもある食べ物だ。

銀貨数枚で買える程度のものが、なんでこんなに高いのだろうと、五枚目の金貨を出した時に、ウィルバーは一瞬戸惑ってしまった。

男はそれを見逃さなかった。


「うわあっ!」


金貨を握りしめた手のまま、男はウィルバーの顔を思いっきり殴る。

そして、パンを放り投げてそのまま走り去ってしまった。


「……くっそ」


パン一個に対して代償は大きすぎる。


それでも生きるために、ウィルバーは道に落ちたパンを拾って、再び歩き始めた。

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