8.
「行ったぞ」
「そう」
「……」
「ハンマーは持っていったかい?」
「ああ」
「わたしている鉱石には限りがあるから、足りなくなったら自分で集めないといけない。鉱石を砕くにはハンマーが必要だからねえ」
「……そのためにハンマーの使い方を教えてたわけじゃねえよ」
「瓦礫を砕く仕事でも、レーア・エルツを集めるにも重宝するからいいじゃないか」
「わけの分からねえ絵かきになるよか、解体屋の方がよっぽど金になる」
「はっ、はっ、はっ。そのとおりだねえ」
老人は真っ白いキャンパスに向かって、ライムから映し出した緑の鉱石を動かす。
「でもいつか、ウィルバーくんが色を求めて旅立つこと、わかっていたんじゃないのかい?」
「……」
「だから、どちらにでも通ずるハンマーの使い方を教えた」
「はんっ、勝手に言ってろ」
じわじわと白いキャンパスが緑に染まっていく。
「やっぱり、わけが分からねえ」
「この街の人たちは外の世界を見ない。だから描く意味も描かれる価値もわからない」
「わからなくて結構だね」
「もったいない。この世界はいろんな色にあふれているのに」
老人が顔を上げるのと、つられるように親方も顔を上げ、部屋に飾ってある色とりどりの絵画を見渡す。
「こんな、どこの世界のなにかもわからねえ絵なんぞに金なんか払えるか」
「外の世界を見てくればわかるよ。そうだ、ウィルバーくんと一緒に行けば……」
「俺は! あんたっていう飄々と旅に出ちまう親が居たせいで、外の世界なんかまっぴらごめんだね」
「……」
「俺は堅実に生きるんだ」
「そうだね」
老人は優しく微笑んで、再びキャンパスに、ウィルバーがこれから行くであろう北の街の風景を描きはじめた。




