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きゅうけいさんは休憩したい!  作者: まさみティー
アフターストーリー
248/278

きゅうけいさんはぼーっとしている

「ぼー」


 わあ。

 ふわふわ雲がある。

 おいしそう。


 なんで?

 それはね。

 わたがしにみえるから。


 綿菓子、買わなくなって何年になるかなあ。

 特別食べたいとは思わなくても、やっぱり見た目が好き。

 お祭りだと未だに見ちゃう。

 買うのは大体お酒になっちゃう年になったけどね。


 ……。


 あおいそらもおいしそう。


 ブルーハワイ味って、不思議と子供の頃好きでね。

 なんか、なんとなく爽やかな感じで。

 青い食品にあんなに魅力を感じてたのも不思議だけど。


 なお、大人になってから知った話なんだけど。

 いちご味とメロン味とブルーハワイ味、着色料以外は全く同じ味なんだって。


 かき氷も、食べなくなって何年になるかなあ……。


 ……。


「ぼーっ」


 いつの間にか、そうして“何か”をしなくなるようになって。

 なんかさ、それを『大人になる』と称するじゃない?

 それってどうなのかなって思うんだよね。


 でも、いざとなると。

 思い出すまで、何が日常から消えていたか気付かなかったりして。


 例えば、そう。

 習慣のように毎日起動していたゲームが、いつの間にか半年単位で起動していなくて。

 じゃあその起動しなくなった瞬間に何かがあったかっていうと。


 何もないから、そういうのが時々怖いなと思うこともある。


 ……。


「ぼーっ」


 おそら。


 わたがし。


 おいしそう。


 ふわふわ。


 おそらきれい。


「ぼーっ……」

「……きゅうけいさん、今日は一段とぼーっとしてらっしゃいますね」

「どうしたんでしょう?」


 竜族の村から青空に浮かぶ雲をぼんやりと見上げているけど、シルヴィアちゃんとエッダちゃんから声が掛かった。

 村の中心から外れた、ちょっと小高い丘の上。

 まあ山の中にある村なので、周りは全部高い山なんだけどね。


「……あー、ちょっと気が抜けててね」

「気が抜けているってレベルじゃなさそうですけど……何か考え事ですか?」


 何か、何かかあ。


 いざそう聞かれると、私は何を考えてたかなあ。


「ちょっと、今までのことを考えていてね」

「今までのこと……」


 私の視線を見て、二人が集落に目を向ける。

 そこには、私が来た当初からは考えられないほど、近代的な建物が建っていた。


 ——ドラゴネッティ空港。

 それは、この村で最も新しい場所。

 山の一部を切り開いて作った広い発着場に、広い待合室がある程度の簡単な場所。

 そこへ青い小型の竜が、数人の旅行客を下ろしている最中だ。


 同じ物が、現在ルマーニャにもある。

 ルマーニャと竜族の村を結ぶ、文字通り飛行機で人々を運ぶ場所。

 もちろんジャンボジェット機ではなく、ドラゴンで行き来する。


 実は空港だけでなく、人間の街からやってきた大工がいくつか建物を作っている。

 もうこの場所も主人公が旅の果てに探し出す隠れ里ではなくなった。

 ふつーにお金あったらさくっと来られる、観光名所だ。


 観光地というにはやや殺風景だけど、今はこの地には珍しい魔王がいる。

 無害なミミちゃんの存在なんて、本当に革命だったようで。

 そりゃもう噂が噂を呼んで、すっかり人気となりました。


 観光客の溢れる山奥の集落は、もう竜族の村というより竜族の街。


 この世界は変わった。

 日常は平和になり、魔王は敵ではなくなり、種族の壁もない。


 最初に来た頃からは、すっかり違う世界だ。


「特にすることないなって思ってて」

「……? そりゃまあ、緊急ですることはないですけど」

「うん。だから、ぼーっとしてたの」


 こう、以前はもっとギラギラしていたように思う。

 あれがしたいとあれば、真っ先に走って。

 掴んだ何かを、必死に離さないようにして。


 そうして、全ての人類の敵だった魔王ベルフェゴールに転生したそこらのモブのOLは、自分が世界に受け入れられる世界を作った。


「もしかして——」


 ふと、エッダちゃんが私の顔を覗き込む。


「——きゅうけいさんって、『やるべきこと』を探してます?」


 ……。


 唐突な言葉に、私は僅かに目を見開く。

 同じように瞠目したシルヴィアちゃんを見て、再びエッダちゃんに目を合わせる。


「なんでそう思ったの?」

「な、なんでと言われても……なんででしょうねぇ?」


 エッダちゃんが、自身の言葉を否定するように首を傾げる。


 今の言葉、ほんとびっくり。

 なんといっても私、きゅうけいさんは名前の示すとおり休憩が大好き。

 隙あらば寝たいというやつです。


 その私に、やるべきこととは。


「あっ、えっと、そのぉ……」


 何か言葉を探っているエッダちゃんに対し、ふとシルヴィアちゃんの方が声を上げた。


「……もしかして、きゅうけいさんがあっちの世界に戻ったことで、長い間こっちに過ごしていた分の『飽き』が来たのかもしれないですね」


 飽き。

 その言葉に、私自身がちょっと驚いた。


 そうなんだろうか。

 確かにいろんな交流を持ったし、いろんな人と日本を見たりもした。


 今すぐ『これがしたい』という願いはない。

 特に日本なんて本来は何人も連れて行くなんてルール違反というか、結構とんでもないことやってる。

 写真とかに残ってたら言い訳しようもないし。


 向こうに行きたい人は、一通り行ったと思う。

 そうでない人を無理矢理連れて行くことはできない。

 それは、私も庵奈もそう。


 自分の身体を見る。

 青い身体。赤い長髪。

 まぎれもなく、魔王である。


 最初は驚いた。

 もうほんと、びっくりした。

 割に『まあいっか』にしてしまうのも早かったけど。


 この姿に違和感を持たなくなって、随分と経った。

 新居に馴染むが如く、魔王であることを受け入れている。


「大変なことにはなりたくない。なりたくないけど」


 その言葉を続ける。


「何もないというのも嫌なんだなあ」


 いざ言葉にすると、自分の中にすとんとそれは落ちた。


「ならば、新しい何かを探すべきですね」


 シルヴィアちゃんが、すっと立ち上がった。

 それから竜の姿になると、私を見る。




 初めてその背に乗ったのは、ダークエルフの集落を救った時。


 今度は、エッダちゃんが私より先に乗り、手を伸ばす。


「どこへ行くの?」


 手に捕まりながら、引っ張り上げられる。

 エッダちゃんは、迷い無く答えた。


「ダークエルフの集落ですぅ!」


 その声を聞き、シルヴィアちゃんは自然に動き出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人間は「しない理由」を自分で作ってしまうから、子供の無軌道な行動力が羨ましい。 でも一番怖いのは理由すらなくしなくなった、悩みもしてなかった自分に気づいたときだよね……。 けどまさか、きゅ…
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