きゅうけいさんは当たり前と思いたくない
そして本日も優雅なシルヴィアちゃん航空に乗ります。
「当たり前のように乗ってるけど、ほんと風も受けないし揺れないし、乗り心地最高でーす」
私は地面にぺちゃーっと寝そべって、声をかける。
どんな小さな声でも聞き逃さないって前に言ってたもんね。
その返事として、シルヴィアちゃんの喉が小さく『グル……』と鳴るのが聞こえてきた。
「あっ、きゅうけいさんがシルヴィアさんにお礼言ってます!」
「こういうの慣れてくると感謝しなくなって、断られた時にケチだなとか思うようになっちゃうからね。そうじゃないなーって思った時に、できるだけ細かく感謝を伝えるんだよ」
「わあ……! やっぱりきゅうけいさんは素敵ですぅ!」
いやいや、これは素敵なのでも何でもなくて、私がやらされる側だったからなのだよ。
お上司さんのおコーヒーをお出しになった時、最初は褒められたけど次の週には一切礼ナシ、その次の週からは忘れる度に嫌味だったからね!
転職して天職にありつきました。天職すぎてKAROSHIしちゃったけど。
「えへへ、私も、シルヴィアさんいつもありがとうございますぅ!」
天使降臨。
こういうポジティブトークの時にすぐに乗ってくれるのって素敵だと思うんです。
それに対してのシルヴィアちゃん、顔をこちらにちょっと向ける。
下瞼が若干上がったように目を閉じる。にっこり顔ですね。
と同時に、首を前に向けて、ぐいっと上方に動かす。
これはあれだ、『顎で指す』だ。
ルフィナさんもやったから覚えてる。
前方を見ると、グリフォン姿のクローエさんが遠くでなんかびゅんびゅん魔法撃ってる。
ぼちゃぼちゃ海面にワイバーンが落ちててやばい。なんだあの島、明らかに魔物多すぎる。
——そっか。
シルヴィアちゃんの言いたいこと、そういうことか。
目的の島まで降り立った時、私はエッダちゃんと目配せした。
エッダちゃんも、笑顔でこくこく頷いている。
そしてシルヴィアちゃんから降り立ち、人の姿に戻ったシルヴィアちゃんとも目を合わせると、最後に降り立つクローエさん。
ちなみにクローエさん、空の上で人間の姿になって降りてきました。
格好良すぎか。解釈一致です。
「クローエさん、お疲れ様です!」
「ああ、大したことじゃないさ」
「お疲れ様でしたぁ!」
「道中楽で助かったわ」
「えっ、何なの怖いんだけど」
エッダちゃんとシルヴィアちゃんの畳みかけ攻撃!
クローエさんは口でこう言いつつも笑っているぞ!
「ふふっ、きゅうけいさんがですね——」
そしてここで、よりによって騎乗中に話した内容を淡々と解説し始めてしまった!
そりゃこの展開だとこうなりますよね! 私が止めないからですね!
クローエさん、一通り聞いて腕を組みつつしみじみと頷く。
「……なるほど、感謝するべき場面になれると、それが当たり前のようになってしまう、か。眷属として当たり前のようにやっていたことが、きゅうけいさんの一言で全く違うことに感じられてきた。そうか、これ、当たり前じゃないのか」
「当たり前じゃないですよー! 一回やってもらったら、今度は私がクローエさんのために頑張って、それでやっと貸し借りナシの対等! それぐらいの感覚でいいと思うんです!」
「いやしかし、魔王様に眷属が代わりに仕事を……ああ、そういえばただの友達でしたね俺ら」
クローエさんは頭を掻き、そして笑った。
「はは、なんか一気に気が抜けたっていうか、きゅうけいさんと一緒にいると段々俺もダメになってきてしまいそうだよ」
「むしろ普段から働き過ぎなので、どんどん休んでいきましょう! なんだったらお休みできるように料理とかも作りますよ!」
「ははははは! これは参った、まさに新手の『怠惰の魔王』様だ。先代の誘いには乗らなくても、きゅうけいさんの誘いにはやられてしまいそうだよ」
あっ、それはいいですね。
働き過ぎのみなさんを怠けさせちゃう休暇の魔王きゅうけいさん!
割と真面目にいい方向なのではないかなと思っちゃう。
「さて、目的の島に着いたわけだが、どうする?」
「はいはい! 先行したいです!」
ここで私は、立候補。
だってですよ、新ダンジョンですよ。
これってある意味、有料DLCの先取りですよ。
そりゃあもう、最初に遊びたいよね!
あ、でもレーダーとかは使います。
基本的に安全第一、みんなのことを危険に晒してまで楽しむつもりはないからね。
遠足中に忘れ物してお通夜ムードみたいなことになったらめちゃつらい。
「それじゃ、行きまーす」
「遠足ですか、もう」
大変鋭いシルヴィアちゃんの苦笑気味のツッコミに、それぐらいの気分でいけたらいいなー、なんて思うのだった。
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入って早々、最初に感じた違和感がひとつ。
なんか、外より洞窟の中の方が暑い。
結構涼しいというか寒いに近い気候だったことを考えると、ここまで暑いのは不自然だ。
「バックアタックはなし、と。それじゃー私の後ろからついてきてねー」
皆の返事を聞きつつ、ゆっくりと前方の相手を凝視する。
出てきましたね……これは、いつぞやかのオークさんです。
いきなり大当たりかも。






