きゅうけいさんは感謝を伝える
メッセージという魔法のことは知っていたけど(っていうかゲームではレーダー同様に魔法でも何でもない機能だったけど)、結構上級の能力が必要になる魔法であり、ほいほい誰でも使えるものではないらしい。
ギルドでは専用に魔道具があって、その魔力を使って誰でも使えるとのこと。オレスティッラさんぐらいのレベルになると、普通に使えるのだそう。
私?
そりゃ余裕ですとも。
「【メッセージ:リリアーナ】」
これで大丈夫だったはず。
頭の中に電話の発信音が鳴り、その音が途切れると頭に何やら繋がった感覚が出てきた。
「リリアーナさん! 出てきてくださーい!」
『まあ! 本当にきゅうけいさんだわ。メッセージなんて初めてじゃない? 嬉しいわね』
「やった! じゃないんですよ!」
『……あらら、ちょっとおかんむり? 何かしら』
私は、リリアーナさんに言いたいことをわーっと伝えた。
魔王のこと。
オレスティッラさんのこと。
それに、リリアーナさんのことも。
……途中、後ろから「んふ」「やぁん」と嬉しそうな声が聞こえてきて集中力がゴリゴリ削れたけど、これは不可抗力だと思います。
目は向けません。目を向けた時点で口が止まっちゃうので。
一通り黙って聞いたリリアーナさんが、小さく溜息を吐いて、笑った。
『私もまだまだ、あなたのことを侮っていたのかもしれないわね。あのマモンですらちょっと気圧されてしまうほど、無欲なんだもの』
いえ、かなり欲深い方だと思います。
『わざわざ人生初のメッセージ魔法を使ってまで魔王様がお願いしたのは、うちの眷属のさらに下の、サキュバス達のため……であってるわね?』
「そうです! 他のみんなと優劣つけられないぐらい大事な大事な、私の友達です!」
『ふふ、ふふふふ……もう、面白いったらありゃしないわ。平民一人のためにお城を抜け出す王様みたいなものよ? でも、私の可愛い眷属をそこまで大切に考えてくれて嬉しいわ』
リリアーナさんさんは心から嬉しそうに言うけど……だからこそ、気になることをぶつけてみる。
「だったら、オレスティッラさんを危険に晒してまで探索なんてしてほしくなかったというか……さすがに酷いんじゃないかなって……」
『理想論は、ね。でも、現実として人間の街が襲われているし、究極的には後れを取った時点で一番下の眷属って真っ先に犠牲になってしまうものなのよ』
「……すみません、生意気言いました」
『いいのよ。きゅうけいさんが本気で言ってくれてることぐらい分かるもの』
リリアーナさんだって、苦渋の決断だったはずだ。特に、今はサキュバスクイーンも二代目アスモデウスも力がない状態。手駒として考えると、付き合いの長い眷属三人は自分達にとって一番の手札。
みんな仲が良さそうだった。死んでも構わないなんて思っているわけない。
それでも、三人を探索者に選んだ。
それがどれほどの覚悟であるか、同じグループに属していない私には計り知れない。
『……正直、言いだしてくれてかなり助かったという思いもあるわ。ただでさえマリーアとイデアがお世話になって、サタン討伐まで任せておいて、更に私からお願いするのって厚かましすぎだったもの。私も何か、してあげられたらいいのだけれど……ね』
「むしろ魔王から人間に転生したリリアーナさんに助かってる部分が多すぎるんですが……」
『え?』
いや、無自覚か。無自覚ですねこの人も。
リリアーナさんは、正真正銘本物の元魔王。
魔王の記憶を全て引き継いだ女性というとんでもない人である。ハッキリ言って、現時点で人類全体でも上から数えた方が早いぐらい強い。
そんなリリアーナさんが、魔族と人間の架け橋になるためにどれほど大きな存在かなんて、ちょっと考えれば分かるというもの。
だって今のリリアーナさんは人間なのだ。
ここまで魔族に何の抵抗感もないどころか、魔王相手に気さくに話しかけられる人間、リリアーナさん以外に絶対現れないだろう。
竜族の村に辿り着いて、ずっと住んでいる人間ということにして、他の種族に慣れていることにしてもらっている。
竜族の村、魔族というか魔王というか、つまり私みたいな見た目の魔族に対する警戒の目が緩んだのは、先代のベルさんとリリアーナさんのお喋りタイムのお陰だと思うんだよ。
あの二人が喋ってると、もうほんと魔族と人間の垣根とか見えなくなるもん。
実際は魔王同士の会話なんだけど、来てる人には分からないからね。
最後にですね。
各方面からやってくる男性のお偉いさん相手に、人間でありながらサキュバスクイーンより存在感のある美人の人間というリリアーナさんそのもののウケがドチャクソに良い。
基本的にリリアーナさんの『お願い』に逆らえる男はいない。
大罪魔法なんて使わなくても、それぐらい余裕。それがリリアーナさんなのだ。
「リリアーナさんは、いるだけで私の役に立ってますよ。私、人間に気に入られるために走って走って、でも最初は助けても拒絶されたりして……」
『……』
「だから、リリアーナさんにはずっとお返ししたいと思ってたんです。それに私のためにもなることだし……この機会に、リリアーナさんがやりたいこと、調べたい場所、全部私に教えてくださいませ!」
一通り言い終えると……なんだか、無言の時間が……。
あ、あれ……?
「……リリアーナさん?」
『……』
「お、おーい……あれっ……?」
『きゅうけいさん』
「あっ、はいっ!」
電話が切れていた、みたいなことじゃなかった。よかった。
『帰ったら、私の部屋に来てね』
「えっ」
『今、抱きしめたいのを我慢してるの。約束ね』
——あっ、えっ。
うん。
…………。
エッ!!?
「きゅうけいさん、気に入られちゃったわね~」
後ろを向くと、とっても嬉しそうなオレスティッラさんの満面の笑み。
あわわ、な、なんかとんでもない約束をされてしまったような……!?
「どどどうしよう!」
「私が枕にするチャンスはまた今度かしらぁ?」
オレスティッラさんもそのつもりだったんですか!?
いや、枕ですか!?
まさか……抱き枕ですか!?
『断ったら嫌よ、泣いちゃう』
「あわわ! わ、わわ、わかり、ました。善処します……!」
『やったわ! 楽しみにしてるから』
うーん、今更ながらルフィナさんの無自覚タラシとかいうの、実感として湧いてきた部分ありますね……。
でも駒として使うのなら、レベルきゅうけいさんが一番便利だからなあ。
まあお陰様で、チェスとか最初にクイーン動かして速攻で負ける子でしたけどね!
リリアーナさんのハグか……いやハグで済むかな……。
でもゆっくりお話もできそう。
『で、目的の場所だけど』
私の照れと悶々を余所に、ずばっとリリアーナさんは本題を切り出す。
さすがというか、割とマイペースですねこの人も。
『オレスティッラに向かってもらった場所は、ヴェアリーノ東の山奥と、遙か南の森の中。きゅうけいさんに行ってほしい場所が東の孤島の——えっとルフィナ、何だっけ? そうそう『迷いの洞窟』ね——その最深部だったから、きゅうけいさんに行ってもらえて助かるわ』
すぐそこにルフィナさんがいたようで、場所の名前を告げていた。
きっとそのダンジョンも、ルフィナさんが調査したんだろうなあ。相も変わらず凄い人だ。
「東の孤島ですか、お任せください!」
『期待しているわ! もちろん、帰ってきた後も、ね』
——チュッ。
リリアーナさんとのメッセージは、最後にハートマークでも付きそうな声と投げキッスの音とともに切れた。
さ、最後まで落ち着かせない人ですね……!
あれで男の人には乙女で奥手なの、完全に耳年増な女友達じゃないですか! あっじゃあ私女友達だ、やったね!
一体誰だあの爽やか元気なお姉さんを色欲の魔王にしちゃったぽんこつは。
私の9kを九京にした人ですね。じゃあぽんこつだわ。証明完了。
……ふと、私は疑問を投げてみた。
「オレスティッラさんって飛べます?」
「う〜ん、羽は出せるけど長距離飛行は無理ねぇ〜」
「……本命の場所、私に任せられそうなら任せる方針で取っておいた、なんてことはあったりしません?」
オレスティッラさん、視線を逸らして「あー……」と呟いた。
可能性、五割を超えそうな反応ありがとうございます。
しかしそういうことなら、期待通り頑張らせてもらいますかね!






