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適合者検査

 王都の練兵場に、長い列ができていた。


 兵士たちがみぞれ混じりの朝の空気の中で順番を待っている。吐く息が白く立ち昇っては、城壁の上を這う冬の風に攫われて消えていった。石畳に薄く張った氷を軍靴や木靴が踏み砕くたびに、乾いた破裂音が列の端まで走り、その音だけが退屈な待ち時間に小さな句読点を打っていた。


 練兵場の中央には、長机が一つ据えられていた。


 机の上に置かれたのは、手のひらほどの真鍮の筐体だ。古い聖遺物から取り出した感応素子を収めた検査用の灯火器で、ハルグリムがこの冬の間に設計し、ナナハルトの手で調整を施したものだった。日用の灯火と見分けがつかない外見だが、側面に薄く刻まれたエーテル回路の紋様が、これが別の用途を持つことを示している。真鍮の表面はみぞれの水滴を弾いて鈍く光り、その冷たさだけが、この道具が人の手で温められるのを待っていることを告げていた。


 ハルグリムが机の後ろに立っていた。右手の演算器は灯を落としている。この作業に計算は要らないということだった。左手に薄い冊子を持ち、ページの端を指で折り返しながら、列の先頭に穏やかな視線を向けていた。


 机の横にはディートリヒが控えている。帳面を開き、ペンの先にインクを含ませ、懐中時計の蓋を閉じたまま待っていた。この検査に秒の精度は要らない。閉じたままの蓋が、それを示していた。


「では、始めましょう」


 ディートリヒの通りの良い声が響く。


「一番、前へ」


 最初の検査対象は兵士だった。二十歳前後の、顎に薄い髭が生え始めた若い男が列を離れ、長机の前に進み出た。ハルグリムが灯火器を指し示した。


「手袋を外し、この灯の側面に掌を当ててください。そのまま、こう唱えてもらいます」


 ハルグリムは冊子から目を上げ、兵士の顔を見て言った。


星よ、光を(ステラ・ルクス)


 兵士が復唱した。声が少し上擦っていたのは緊張のためか、寒さのためか。素手が真鍮に触れ、冷気に指先が僅かに震えている。唇が言葉の形を作り、吐く息の白さの中に短い詠唱が溶けた。


 掌の温度が真鍮に移る間もなく、灯火器は沈黙を返すばかりだった。冷たい金属は、色を変えない。


 ハルグリムが首を微かに振った。責めるような動きではなかった。ただ結果を確認しただけの、穏やかな否定だった。


「ありがとう。ご苦労でした」


 ディートリヒのペン先が帳面の上を短く走り、兵士は手を離して列に戻った。


 二人目、三人目、四人目。同じ手順が練兵場の冷たい空気の中で繰り返された。掌が真鍮に触れ、「ステラ・ルクス」と唱え、沈黙が返り、灯の中では何も揺れず、帳面に同じ印が並んでいく。列が一人ずつ短くなるたびに、後方で待っている者たちの足踏みの間隔が詰まった。寒さと退屈が混じった空気が、練兵場の石畳の隅に淀んでいた。


 ナナハルトは練兵場の外壁の前に立っていた。


 壁に背を預け、腕を組んでいる。組んだ腕の下で、指先が手袋の内側で動いていた。弦を切った日から、この癖がついていた。もう存在しない弦の溝を指が探すような、記憶の残滓が指先に沈殿した反復運動だった。背中には盾があった。冬の間に王都の鍛冶工房で外装を改められ、弦の溝と弓の受け金具は取り外されていた。代わりに王国の紋章が浮き彫りに打ち直されている。かつて楽器だった面影は、もう外からは何も読み取れない。


 掌が触れては離れ、言葉が紡がれては消え、真鍮は沈黙を返し続けた。帳面に同じ印が並んでいく。繰り返す検査の中でも、ハルグリムの声は、最初の一人に向けたのと同じ穏やかさを崩さなかった。

 ナナハルトにとっては適合者は少なければ少ないほどいい。見つかるなよ、と半ば祈りながら、その列を見つめ続けた。

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