二つの太陽
謁見が終わった。
ソスヴァルド王は自ら二人を回廊まで見送った。王が客人を門まで送ることなど、普通はない。
「ナナハルト。次に来る時は、君が持ち帰ってくれたあの遺物について、もう少し詳しく聞かせてほしい。彼女の助言があれば、我々はあれをもっと正しく使えるはずだ」
「はい、陛下」
「それと」
ソスヴァルド王が立ち止まった。回廊の窓から差し込む冬の光が、王の髪を白く照らしている。
「君は、父上とよく似ている。だが、違う道を選べる。……そういう目をしている」
ナナハルトは何も言えなかった。ただ深く頭を下げた。
―
城門を出ると、冬の風が城内の暖気を一瞬で剥ぎ取った。ナナハルトは吐いた息が白く凍るのを見ながら、隣を歩くエリに訊ねた。
「どう思った」
「何を」
「陛下のことを」
エリは数歩歩いた。靴底が石畳を叩く音だけが、しばらく二人の間を埋めていた。
「矛盾しているわ、あの個体は」
ナナハルトは足を止めかけた。
「矛盾……?」
「悪意の値が存在しないの」
風が吹いた。ナナハルトの吐息が白く散った。
「わたしの防衛回路は、敵性を帯びた個体を検知するように設計されている。あの個体から観測されたのは、群体を保護しようとする熱だけ。わたしの回路が、あの個体を脅威として識別できない」
エリの声は平坦だった。観測結果を報告するのと同じ調子で、都市の防衛系統に生じた深刻な不整合を語っている。
「善意で接触してくる存在を排除する定義が、わたしの中にないの。あの個体が都市に近づいても、防衛機能は起動しない。設計そのものの盲点」
「でも」
ナナハルトは前を向いた。
「あの人は、民のために戦おうとしている。国を救いたいって願いは、嘘じゃない」
「嘘は観測できなかった」
エリが立ち止まった。手袋に包まれた指先が、コートの内側で自分の胸――コアの位置をそっと押さえていた。
「でも、危ういわ……これから起こる出来事が、不確定なの」
それだけだった。
冷たい冬の風が吹き抜けた。城壁の鷲の浮彫が、二人の背中を見送るように高みから睨み下ろしていた。ナナハルトは再び歩き出した。エリがその半歩後ろを付いてくる。王都の石畳を踏む二人の足音が、冬の空気の中に硬く響いていた。




