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探索者としての行動

これまでのあらすじ:第一部『理想郷の少女』編


北方の貧しい探索者の少年・ナナハルトは、父の地図を頼りに地下深くへと潜り、

高度な文明を持つ古代都市『エリュシオン』に迷い込む。


そこで彼が出会ったのは、都市そのものを管理する、感情を排している少女・エリ。


音で世界を捉える少年と、都市を律する少女。

二人の不揃いな合奏は、変わらないはずの存在に、わずかな揺らぎを刻んでいく。


やがてナナハルトは、都市の「余り物」を地上へ持ち帰り、家族の生活を支えるようになる。


それは確かな救いだった。

――少なくとも、彼にとっては。


だがその善意は、知らぬ間に都市のどこかを傷つけ始めていた。


第二部「太陽を知る少女」編、開幕

 初めてエリュシオンから生還したあの日から、すでに半年が過ぎていた。

 暗い地下通路を進むナナハルトの歩みは、自然と速くなっていた。

 背負い鞄の中で、今日拾い上げた三つの欠片が、かすかに触れ合って鳴る。


——早く、エリに見せたかった。


 最後の一つは、王都郊外の森深く、崩れた石切場の斜面で見つけた。霜解けの泥水が瓦礫の根元を洗い、その土の断面から、薄い金属の角が突き出していた。


 膝をつき、手袋越しに冷たい泥を掻く。


 凍った地面が指先で軟らかく崩れるたび、重苦しい土の音がした。指をかけて引き抜くと、板がずりりと音を立てて這い出した。

 掌に収まるほどの大きさ。


 表面に刻まれた幾何学模様は、目を凝らさなければ見えないほど細い。

 指の腹でなぞれば、かつてエリに届けたものと同じ、微かな、けれど確かな震えが伝わってきた。

 この、模様に触れることで入口が現れる。


 立ち上がり、膝についた泥を叩き落とす。吐き出した息は白く、森に沈みゆく空気は、まだ冬の名残をはらんで冷たかった。


 乗り合いの馬車を街道の途中で降り、道なき森を抜けて、この正規ゲートが隠された旧施設跡へ通う回数は、もう数えるのをやめていた。


 足取りから怯えが消えるのと引き換えに、身体はこの場所の規則を吸い込んでいった。


 壁を走る光の脈が分岐の先を示し、空気の循環が切り替わる独特の風の鳴りが、身体のどこかで旋律のように重なっている。迷うことはなかった。足が先に知っている。


 腰のカリンバに手が触れた。


 修繕した弦は以前よりも張りが強く、指をかけると中音域の三番が、以前よりも深く澄んだ響きを返した。

 一つの音の中に、もう一つ、高く細い音が混ざっている。クレーナの工房で分けてもらったあの真鍮線は、地上の安物とは震えの伝わり方が違う。

 歩きながら、親指が鍵の端を弾く。四拍子の裏、筐体の底を叩く小さな打撃音。その音が白い床に反射し、遠くの暗闇へと吸い込まれていく。一歩ごとに刻まれるそのリズムは、今の彼の心臓の鼓動と等しかった。


 歩みは、自然と速くなった。


 母が繕ってくれたコートの裾が、足首に当たって心地よい重みを作る。袖の折り返しはすっかり馴染み、腰紐を締める手つきも迷わなくなった。報酬で新しい服を買う余裕はまだない。けれど、靴底を張り替え、油を差してもらった革の感触が、彼に確かな居場所を与えていた。


 背負い鞄のなかで、今日拾い上げたものが、歩調に合わせて僅かな音を立てている。


 あの梟のような第四柱が「あてがない」と放り出した欠けた丸い金属と、居住区の外縁で埃をかぶっていた爪ほどのバルブ。それに、さきほど地表で掘り出したばかりの冷たい薄板が加わった。

 それらは皆、エリが「末端の予備」だと呼んだものたちだ。

 都市の巨大な心臓を止めることもなく、ただの余りとして捨て置かれていた欠片。それを持ち帰ることで、地上の食卓に温かいスープが並び、母の顔から焦燥が消える。


 それは、ナナハルトにとって疑いようのない、救いの循環だった。


 通路を曲がると、エーテル回路の光がいつもより柔らかく、彼の横顔をなぞった。


 かつて彼を脅かした異質な反響は、今では村で聴く夕暮れの鐘のように聞こえる。帰るべき場所があることを報せる響き。この半年、彼は二つの世界を往復し、どちらも損なうことなく守り続けてきた。


 家族の笑い声。訪れるたびに少しずつ、雪解けのように和らいでいくエリの声音。

 すべては、正しく、穏やかに回っている。


 自分が持ち帰るこの小さな余り物が、停滞していた家族の時間に新しい血を送り込んでいる。その確かな手応えだけが、今のナナハルトの支えだった。

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