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飛び石の港

 チューブが都市の外殻に近い区画を突き抜けた瞬間、壁面の透明度が跳ね上がる。視界が一挙に開けた。


 天蓋の最高部に近い位置に、広大な空間が広がっていた。天井までの高さは見上げても測れない。壁面は弧を描いて遠くで閉じているはずだが、霞んで見えなかった。


 その空間を、無数のものが飛んでいた。


 人ひとりが立てるほどの平たい板が、空中に浮いて移動していた。


 一枚、二枚ではない。何十枚もの板が異なる高度で、異なる速度で、異なる方向へ飛んでいる。


 板の底面にはエーテル回路の青白い光脈が走っていた。板の上に人が立っている。荷を積んでいるものもあった。重い木箱を三段に積み上げた板が、人を乗せた板と交差しながら、互いにぶつかることなく空間を流れていた。


 それだけではなかった。

 板より遥かに大きな運搬船が、空洞の中層を悠然と横切っていた。船体の両側面にエーテル噴射の管が束ねられ、推進時に青い光の尾を引く。船尾から漏れるエーテルの残光が、空中に青い霧のように漂っていた。


 風があった。チューブの外だけに存在する風だった。運搬船が通過するたびに空気の層が乱れ、その余波がチューブの壁面を微かに揺らした。浮遊板が高度を変える時に発するエーテルの放出音が、遠くでは甲高い笛の音に聴こえ、近くでは空気を裂く短い衝撃に変わった。


 ナナハルトはチューブの壁面に両手を押し当てた。口が開いたまま閉じなかった。瞬きを忘れていた。


「……板が、浮いてる。あの板、どうやって浮いてるんだ?」


「区間を繋ぐ飛び石(フロートボード)。光の層を厚く敷き詰めて、落ちる力をごまかしているだけよ」


「ごまかしてるって……あんなでかい荷物載せて?」


 エリの声は相変わらず平坦だった。だが、今のナナハルトは気にも留めなかった。飛び交う板を目で追うのに必死で、それどころではない。


 あの板に乗りたい、と思った。乗ってどこかへ行きたいのではない。ただの板が空を飛んでいるという、その光景から目が離せなかった。

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