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第二十七話 恋人

海に行った日の後も、蒼汰は何度も面会に来てくれた。昼間は両親が来てくれて、夕方には蒼汰が来てくれる。寂しい時間が無くなり、私は嬉しかった。ちなみに蒼汰と海に行った日、私は死ぬつもりだった。死期が近いのはわかっていたし、唐突に誰もいない病院のベッドで死ぬくらいなら、ここで死んだ方がいいと思った。蒼汰が近くで見てくれているなら、安心して死ねるんじゃないかと思った。


結局、死ぬことはできなかった。でも、蒼汰が止めてくれなかったら死んでいたと思う。海の中に進んでいく私の手を掴み、抱きしめて必死に止めてくれた。そのときは、いろんな感情があった。不安と恐怖が心を覆い尽くしていくが、次第に外側から安心が覆い被さる。恐らく、蒼汰が手を握ってくれたり、抱きしめてくれたからなのだろう。


手をつないでいるだけなのに、身体ごと包まれている安心感があった。抱きしめられたときは、それ以上の安心感が私を満たしていく。面会に来てくれた蒼汰と話していると、海に行った日のことを思い出した。沈みかける夕日を浴びて、病室から私の顔までが茜色の染まる。夕日の光と共に、夕風が肌を撫でるように吹く。そろそろ、面会終了の時間。面会の時間は、あっという間だ。三◯分だけじゃ話し足りない。私は面会終了間際で蒼汰にお願いをした。


「蒼汰くん、渡すものがあるから目を瞑っててくれる?」

「……。わかった」


蒼汰は目を瞑り、私の合図を待つ。ベッドが、ぎしっと動く音に反応する。蒼汰が、すぐ目の前にいる。蒼汰のマスクを外してから、顔を近づき唇を重ねた。数秒後、唇がそっと離し、近かった顔が離れていく。蒼汰は、ゆっくりまぶたが開ける。すごく驚いた様子だった。ゆっくり頬が赤く照れていく蒼汰の顔。恐らく、私も同じような顔をしているのだろう。


「えっと……。渡したいものって」

「もう渡したでしょ?」

「なるほど……。ごめん、びっくりしてどう言えばいいのか」

「お願いがあるの。友達は、もう終わりにしない?」

「……。どうして?」

「私が生きている間、恋人になってくれませんか?」

「……。はぁ、そういうことか」

「思ってた反応と違う!笑 でも、もうすぐ死ぬかもしれない人と恋人なんて嫌だよね?」

「嫌なわけ無いじゃん。僕は、ずっと沙織里さんが好きだったんだから。ごめん、本当は僕から言うべきだった」

「蒼汰くんも、そのつもりだったの?」

「初めて出来た友達でもあり、初めて恋をした人なんだから」

私は、照れくさそうに肩をすくめた。「なんか、恥ずかしいなぁ。いつから、そんなにきざな男の子になったの笑」


蒼汰は恥ずかしさで、目を伏せてしまう。そこからなんともいえない、もどかしい沈黙があった。その沈黙を乗り越えた後、私たちは再び唇を重ねた。


***


僕は沙織里との面会を終えてから、頭の中が真っ白になっていた。いろいろなことが起きすぎている。現実では、ないんじゃないかと思うくらいに。でも、唇を重ねた日のこと以上に頭の中が真っ白になることが起きた。沙織里は、僕の前からいなくなった。

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