第二十二話 変心
二週間前、蒼汰と離れたら少し心が楽になるんじゃないかと思っていた。楽しい毎日を過ごすたびに、辛くなってしまう。楽しい毎日を過ごすたびに、離れてしまうのが怖くなる。私は、このままずっと一緒にいれるわけじゃない。会う度に嬉しい気持ちの裏腹に、胸がぎゅっと締めつけられる苦しい気持ちがあった。だったら、もう会わない方がいい。
そう思っていたのに、蒼汰と離れても心が楽になることはなかった。
気を紛らすために本を読んだり、普段話さない院内の人たちと話してみたりしたけど全くダメだった。ベンチに行っていたときのこと、蒼汰と会って話をしていたときのことを思い出してしまう。やっぱり、会いたい気持ちが増していく。
そんなとき、蒼汰からの面会予約を受けたのは驚いた。最初は断っていたけど、何度も何度も予約を受ける。その度に気持ちが、徐々に変化していった。会ってしまうと、離れるのが怖くなる。それでも、やっぱり会いたかった。結局、会わなくなってから二週間後に蒼汰と会うことになった。
面会を断ったのに何度も何度も諦めず、病院に電話をしてくれたのがすごく嬉しかった。少し前から、私は蒼汰に恋をしていたのかもしれない。なんとなく、そんな気がした。
面会当日、あれほど嫌だったのに、気がつくと蒼汰が目の前に現れるのを待ち望んでいた。緊張で、心が押し潰されそうだった。ちゃんとヘアメイクを済ませて、可愛い私服にも着替えた。
コンコンと扉を叩く音が聞こえると、心臓は限界まで高鳴っていた。「どうぞ」、扉の向こうにいる蒼汰に声をかける。恐る恐る病室に入ってくる蒼汰は、すこし緊張しているようにも見えた。会話も、いつもとなんか違う。私に、気を遣っているのだろう。
私が「いつものように話そうよ」と言うと、蒼汰の表情が変わる。どうやら、緊張の糸が解けたようだ。まぁ、無理もないと思う。逆の立場なら、私もどう話していいかわからなくなると思う。なにを話して、なにを話しちゃだめなのか。いろいろ、気を遣いながら会話をするはずだ。
次第に蒼汰は、いつものような微笑が口角に浮かびはじめる。私自身も、久しぶりに口元が緩んでいた。二週間分の笑顔を取り戻せた気がした。これも、蒼汰のおかげだ。蒼汰がいなかったら、とっくに死んでいたかもしれない。つまらない毎日に嫌気が差して、病気で死ぬ前に自殺をしていた可能性だってある。
やっぱり、会って良かった。私の心に、明るさを感じる。霧が晴れるような喜びだった。会話の途中で、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。看護師が病室に入ってきて、面会時間の終了を知らせる。蒼汰は看護師に挨拶をしたあと、私に手を振り病室をあとにした。
「もしかして、彼氏さん?」
「そんな関係じゃありませんよ。けど、私にとってすごく大事な人で……元気をくれる特別な人なんです」
「ふふ、素敵な関係なのね」
看護師と、すこしだけ世間話をしてから再び病室で一人の時間を過ごした。面会時間は、あっという間だった。全然話したりないし、もっと一緒にいたかった。また、面会に来てくれるだろうか。夕焼けがはじまり、橙色に染まる空を眺めながら淡い気持ちを抱いた。その後、私は病室を出ていく蒼汰の姿を思い出し、「頑張れ」と心の中で背中を押した。




