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第二十一話 再会

沙織里に、なにかあったのだろか。このまま、沙織里と離れてしまうのかと考えてしまう。そんな、決心はついてない。沙織里といる時間が、なによりも楽しかった。沙織里と向き合う中で、いろんなことも知れた。人との向き合い方、人との付き合い方。沙織里と出会ってから、僕の日常は少しづつ変化している気がする。悪い方向ではなく、良い方向に。


沙織里と話すようになってから、自分の中の問題を意識する時間が生まれた気もする。いつもなら、考えずに逃げてきた。そもそも、意識することもしないようにしてきた。それに、子どものときのような明るさを徐々に取り戻しているように感じる。


僕は、沙織里と会えることを期待して毎日ベンチに行ったが、沙織里と会うことがないまま二週間が過ぎた。いつも以上に重たい体を動かして、部屋に光を入れるためカーテンを開ける。夏休みは、もう少しで終わりを迎えてしまう。沙織里とは、しばらく会っていない。このまま、会えなくなるのだろうか。


沙織里と会わなくなってからは、いつも通り孤独な時間が生まれた。いつもならベンチで待っていれば、沙織里が来てくれていた。いまは、待っていても誰も来ない。ベンチでは、一人の時間が続いた。実際、これが正解だったのかもしれない。


大前提、沙織里はがん患者だ。毎日ベンチに来て、僕と会って良いわけがない。身体のことも考えると、病室でじっとしているのが良いに決まっている。もし、僕と毎日会ってたせいでがんが悪化していたら?そのせいで、ベンチに来れなくなったとしたら全責任は僕にある。


あと数日ほど沙織里がベンチに来なかったら、次は僕が会いに行く番だと思う。行ったところで会えるかどうかはわからないが、病院まで行った方がいいかもしれない。でも病気の件とは違い、ただ沙織里が僕に会いたくなくなっただけだったら。そうなると、僕はどうするのが正解なのだろうか。


嫌いな人が会いに来ても、困るだけかもしれない。どうすれば、いいのだろうか。なにが正解なのかわからないまま、僕は一人でベンチで過ごす日々が続いた。数日間、一人でベンチで過ごしていてもなにも解決はしない。僕は、思い切って沙織里が入院している病院に電話をかけてみた。


要件は、面会が可能なのかどうか。僕が、沙織里に会えるのかを聞きたかった。要件と患者の名前を電話で伝えると、ご本人と担当の看護師にその旨を伝えてから確認して折り返すとのこと。本人の意思や身体の状態、スケジュール次第では面会が難しい場合がある感じだった。


ただ電話を待つしかなかったが、数日経っても病院からの電話はない。数日後、病院から電話があった。結果は面会不可。理由は説明されなかったが、予定が合わなかったとのこと。その後も、何度か病院に問い合わせた。再び面会不可と言われたが、何度か繰り返すと面会の許可が下りたと病院から電話があった。


難病患者ということもあり、面会はかなり制限されていた。面会時間は三◯分、院内ではマスクの着用が必須で、常にアルコール消毒も必要とのこと。面会当日、病院のロビーで受付を済ませて病室に足を運ぶ。二週間ぶりに、沙織里に会うことができる。


僕は、すごく緊張した。沙織里の病態はどうなっているのか、体に沁みるような緊張が襲う。不安による緊張で、俺の身体からはじわりと汗が出てくる。意を決して、沙織里がいる病室のドアをノックした。数秒後、「どうぞ」と伸びやかな声が返ってくる。恐る恐るドアを開けると、普段と変わらぬ私服姿の沙織里がベッドに座っていた。でも、どこか変な違和感があった。


「急に押しかけてごめん、身体は大丈夫?」

「大丈夫だよ。ベンチに行けなくて、ごめんね」

「謝る必要はないよ。この前まで面会ができないみたいだったから、本当に来ていいのか心配だったんだ」

「今は、平気だから心配しないで」

「そっか。あの、これ良かったら食べて」

「ありがとう。これは果物?」

「うん。食欲がないときでも、食べやすいと思って」

「ありがとう。なんかマスク付けていると、表情がわからないね笑」

「付けていないとダメって言われたから」

「元気だった?」

「僕は元気だよ。それより、沙織里さんは体調どう?」

「ん〜、良くはないかも笑」

「……。そっか」


こういうとき、どうすればいいのだろうか。城野に対して、どこまで踏み込んでいいのか。医療の本には、いつでも話を聞く姿勢、安易な励ましやアドバイスはNG、相手に寄り添うことが重要だと記載していた。

普通に接しなきゃと思うが、沙織里の姿を見ていると、どうすればいいのかわからなくなる。


沙織里をよく見ると、以前よりも痩せていた。変な違和感はこれだった。最後に会ったときもより、痩せているのが顕著に現れていた。沙織里は悲しみを誤魔化して、笑みを浮かべている。僕は、そんな姿を見てられなかった。


沙織里の話では、抗がん剤をしたところでもう変わらないとのこと。また抗がん剤をして、さらに苦しむのは避けたかったらしい。食欲も以前よりは減り、あれほど好きだった甘い食べ物や脂っこい食べ物は食べていないみたいだ。


「蒼汰くん。もし、私に気を遣ってるならそれはやめて」

「え?」

「いつも通りの蒼汰くんでいいよ。ベンチにいたときみたいに何でも聞いてよ」

「ごめん……。沙織里さんに、こんなことを言わせて」

「謝らないで。蒼汰くんに会ったら、元気になってきたみたいだし」

「急に変わるわけないでしょ」

「本当だよ。それより、もう少しで夏休み終わっちゃうでしょ?」

「うん、次の週末を過ごしたら月曜日から学校だよ」

「じゃ、約束しようよ。私も頑張るから、蒼汰くんも勇気を出して、前に進んでみて。身体が良くなったら、また蒼汰くんと出かけたいし。まだまだ、『やりたいことリスト』がたくさん残っているからさ」

「そうだね」

「私が言ったことを頑張ってやってみて。そうすれば、きっと学校生活も変わるよ」

「わかった。夏休み明け、勇気を出して行動してみるよ」


三◯分は、あっという間だった。話の途中で看護師が病室に入ってきて、面会終了を知らせる。まだまだ、話すことがあったのに。僕は沙織里と看護師に挨拶をして、病室を後にした。沙織里を励ますつもりだったのに、僕が励まされてしまった。


自分を変えようと思ったら、いますぐ行動しなくてはいけない。昨日と同じこと、いままでしていたことと同じようじゃ変わらない。子どもの頃のように、真っ直ぐなにも考えずに突っ込んでいくような感覚を戻さなきゃいけなかった。


今の環境が嫌だからといって、逃げ出すのはやめよう。今更、クラスの中に溶け込もうとしても難しい可能性はある。当然ながら、すぐにうまくはいかないかもしれない。僕を変な目で見る人もいれば、無視する人もいるだろう。それでも、やらなければなにも変わらない。僕なりに、やってみようと決心がついた。沙織里に会ったとき、良い報告ができるように。

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