第十九話 城野沙織里4
あれほど緊張していたのに、急いでベンチに向かっていたせいか緊張という感情が風で流されていた。ベンチに到着すると、心配そうに顔をゆがめた蒼汰がこちらを見ていた。
「大丈夫?」「僕は平気だよ。すこし休む?」優しい言葉が連続で飛び交う。浴衣じゃなくて、がっかりしただろうか。言葉には出せないが、そのことだけが心の隅っこに張り付いていた。
その後、念願のフライドチキンを食べながら、花火大会の会場に向かう。会場に着くと、人の多さに驚いた。こんなに、たくさんの人がいる場所に行くのは久々だった。でも蒼汰は、どんどん会場から離れた場所に向かう。どこに行くんだろうと心配だったけど、その後ろ姿は逞しく見えた。安心してついて行こうと思えるほどに。
狭い路地を歩き、たどり着いた場所は広々とした空間だった。その中に、ぽつんとベンチがある。ここから、会場付近で上がる花火が見えるのだろうか。疑問になりながらも、花火が打ち上がるのを待った。
数分後、心配していた私が恥ずかしいと思うくらい大きな花火がしっかり見えた。花火は私が思っていたよりも大きく、色彩豊かだった。花火の破裂音が身体の芯まで響くほどのものだとは想像もしていなかった。
気がつくと、私は涙を流していた。夜空を彩る花火は、こんなに美しいものだったんだと実感した。心の片隅から揺り動かされるような感動を感じる。夜空一面に、花火が広がるたびに涙が頬を伝う。また、素敵な時間を蒼汰と共有できたことも嬉しかった。花火大会が終わると、会場付近を一緒に歩きながら話をする。
会場付近をあとにすると、そのまま集合場所のベンチの方に向かった。段々と、解散する時間が近づく。私は、蒼汰と解散する前に本当のことを話した。なぜ、入院しているのか。私の病気のこと、死期が近づいていること。私が真実を話した後、蒼汰は驚きのあまり呆然と立ち尽くしていた。まるで、世界が瞬時に止まったかのように。
蒼汰はなにも言わず、私を見つめている。蒼汰の顔には悲痛や困惑など、さまざまな感情が表情に出ていた。絶対に楽しい思い出のまま、終わりたかったはず。やっぱり、言うべきではなかったのだろうか。でも隠していたって、いずれバレてしまう。
こんな、かたちで花火大会の日を終えることになって申し訳なく思った。時間が経つと、蒼汰は悲しみに耐える大人の男性の表情に変わっていた。私は、この話をしたら絶対に泣かないと決めていた。なのに蒼汰の顔を見たら、どうしても涙が出そうになる。息を止めて、必死に涙をこらえる。蒼汰の顔には、一瞬きらっと光る涙が頬を伝っていた。




