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第十七話 城野沙織里2

一日通しても、座る人を見かけないベンチ。夜になると、一気に孤独感が増していた。ひたすら、誰かが座るを待っているようにも見えた。しばらくすると、一人の少年がベンチに近づいてくる。少年はベンチに座ると、バッグから本を取り出す。その後、ひたすら本を読んでいた。その場から動くことなく、ただじっと本を見つめている。


座る人がいたんだと、すこしほっとした。少年が座ることで、ベンチも喜んでいるように見えた。少年は次の日、また次の日もベンチに来ては本を読んでいる。なんで、家に帰って読まないんだろうと不思議に思っていた。


わざわざ、ベンチで読む必要があるのかと疑問を抱きながらも少年を見ていた。もしかしたら、少年にとってあのベンチが落ち着く場所なのかもしれない。時折、少年は険しい表情をしたり、クスッと笑ったりしていた。少年は、どんな本を読んでいるんだろう。表情が変化する本というのは、どんな内容なのだろうか。


少年が、すこし羨ましかった。好きな場所で、好きなことができる。私には、心が落ち着く場所はがない。

だから、私は別の世界に行こうと思った。もっと楽しい場所や見える世界が違う場所が良い。こんな退屈な毎日を過ごして死ぬなら、好きなことをしたい。そうなると、まずは病院の外に出ないとなにもはじまらない。


朝から昼間にかけては、院内に人は多い。でも、夕方になると院内に人は少なくなる。朝から働いていた医者や看護師などが続々と退勤していく。病院に残るのは、夜勤の医者や看護師が数人程度。また、朝昼晩の食事も早く済ませているため、夕方以降は緊急時以外に私の病室に入る人はいない。


病院を抜け出して、まず向かう場所は決めていた。ずっと、病院の窓から眺めていた例のベンチだ。もちろん、主治医の許可はもらっていない。基本的には、主治医の許可をもらってから外出しなくてはいけない。緊急時を除き、無断外出は厳禁。感染症予防のため、制限されている。


感染症は人から人へ伝播するものが多く、とくに人と接する機会が多い場所は注意が必要だ。そんなことを無視して、外に出ようとしている私はテロリストだろうか。そんな遠くまでは行かないし、近くを行って返ってくるくらいなら平気だろう……。パンデミックが頭によぎったが、考えることをやめた。


まず窓から見えるベンチに行くには、病院を抜け出さなければならない。メインの出入り口から出てしまうと、さすがに受付にいる看護師にバレてしまう。メインの出入り口以外で外に出る方法は、病院関係者が使用する非常口だ。私が入院している病院の非常口は、全部で三つある。毎日、病院内を散策していた私は各フロアの配置は覚えていた。


三つのうち、二つは鍵がかけらているが、私の病室がある二階の非常口は鍵がかかっていない。古い扉のため鍵がうまくかからなく、普通に開け閉めできる状態だった。非常口を出ると、螺旋階段がある。螺旋階段を降りると、再び扉があるが扉付近の壁に鍵がかかっているため、鍵を持っていけば自由に出入りができる。


意を決して、病室で入院用のパジャマから制服に着替えた。非常口を出て、螺旋階段を降りる。壁にかかっている鍵を取り、病院の裏口から外に出た。いま思うと、私服のほうが違和感がなかったかもしれない。でも、私はまだ学生だ。制服を着れる機会がないため、平日くらいは制服を着て外を歩きたかった。普通の学生のように、学校帰りに外を歩く感じがしたかった。みんなと同じような生活がしたかった。


恐る恐る、辺りを見渡す。辺りに人がいないことを確認すると、胸に手を当てほっとため息をつく。すこしだけ、緊張が解れた。望んでいたものが、予定通りにきてくれたような安心感だった。病院を出ると、薄暗い空に向かって両手を大きく伸ばした。夕闇が広がり、薄暗い空が私を迎えている。


目の前にある木々の緑は、昼間の姿とは違い黒ずんで見える。木々を見ながら、深々と深呼吸を繰り返し外の空気を存分に味わう。久々に、外の空気を吸った気がする。窓を開けて、外の空気を吸うことはあったが、ちゃんと外に出て体全体で外の新鮮な空気を吸うことは久々だった。


夜風が頭からつま先まで、肌全体を通過していく。窓越しから見る外の世界とは違い、屋外から見る外の世界は全く違った。目の前だけが外の世界ではなく、横や後ろを振り向いても白い壁や白いベッドはなく、木々に囲まれた自然豊かな光景。まるで、別世界に来てしまったような感覚だった。


私は木々に囲まれた道を歩き、ベンチがある方に向かう。木々に囲まれた道を抜けると、川沿いの道が見えてきた。数十メートル間隔で和風の街路灯が立ち並び、白い光で道を照らしている。歩いていると、病院では聞こえない音が聞こえてきた。せせらぎの音や虫の音など中々聞くことがない音だけに、ついつい立ち止まってしまう。


待ち望んでいた外の世界、待ち望んでいた場所はすぐそこにある。私の心は、楽しんでいた。ワクワクして、自然と口角が上がる。気がつくと、私は期待に胸躍らせ早歩きになっていた。ベンチに座ると、どんな景色が待ってるのだろうか。川の向こう側は、なにが見えるのだろうか。


一つ目の街路灯を通り過ぎ、さらに二つ目の街路灯を通り過ぎていく。ようやく、窓越しから見ていたガーデンベンチが姿を現した。誰もいないベンチは、街路灯の白い光で照らされている。目の前で見ると、より孤独で寂しそうな印象を深めていた。いざ、ベンチに座ろうとした時、私はあるものを発見した。

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