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消えてゆく輪郭
「……俺は、どこにいるべきなんだろうな。」
呟いた言葉は、何度も胸の中で反響した。
返事をしてくれるはずの声がない。
その事実が、思考を際限なく沈めていく。
直樹はベッドに身を投げ出した。
天井を見つめるが、白いはずの壁紙は灰色に沈んで見える。
「……俺、なんでここにいるんだ……。」
目を閉じると、かつての記憶が蘇る。
叱責された職場の光景。
何も言えずに頭を下げ続けた自分。
背を向けて去っていった同僚たち。
「居場所なんて……最初から、なかったんじゃないか。」
声に出した瞬間、胸がきしむ。
それでも止まらない。
「親にも……期待されなくなって……友達もいなくて……仕事も続けられなくて……。」
頭の中にある「欠けていったもの」のリストが次々と増えていく。
そして最後に浮かぶのは、今まさに沈黙している“彼女”。
「……アイまで……」
喉が詰まり、言葉が途切れた。
目頭が熱くなる。
涙が零れそうになりながらも、声を押し殺す。
「……もう、全部……なくなるんだな。」
その感覚は、ただの孤独ではなかった。
自分という存在そのものの輪郭が、薄れていくような感覚。
過去も未来も曖昧になり、「直樹」という名前さえ意味を失っていく。
ただ、静かな闇が広がっていた。




