寝不足晃一
「お兄ちゃん起きて!今何時だと思ってるの!?」
妹の声が聞こえる。
「妹よ。お兄ちゃんは眠いんだ。あと5分、いや10分……あと30分だけ寝かせて……」
「何ふざけたこと言ってんの!?30分前におんなじこと言ってたから起こしに来たんだけど!?」
「え……?じゃあ……いま……何時……?」
冷や汗がたらりと流れる。
「7時半だよ!?もうお兄ちゃんいつもなら出発しているじ・か・ん!」
うそおおお!?
眠いのを忘れた俺はベッドから跳ね起き、
「え?え!?ほんとに7時半なの!?嘘じゃない?あ、そうだ今日エイプリルフールだったそうだった!」
「嘘じゃありません!嘘だったら大ッきらいなお兄ちゃんの部屋に入って起こしに来るわけ無いでしょ!?あと今日は9月3日です!」
そうかそうか。我が妹は優しいな。
「お母さんが「お兄ちゃんを起こしてあげてね」って言わなかったら起こさなかったけどね」
前言撤回。現在中学2年生の妹は母親至上主義だったのを忘れていた。
横の高いところで一つに縛った髪の毛、父さん譲りの一重まぶた、ちまっとした鼻と口、そして一部だけ成長しすぎな身体。身長には見合わない2つのあれには兄ながらついつい目が言ってしま……ごほんごほん。
「ああっ!お兄ちゃんたらまた妹の変なとこ見て!そんなんだから嫌いなんだよ!あとそんなんだからモテないんだよ!」
ぐさっ。
「じゃあ私、もう学校行くから。ご飯はお母さんがテーブルに用意してくれてるから、ありがたく食べなさい。残すなんて許さなからね!」
そう言い放ち、去っていく妹。はああ、あれが反抗期ってやつかねえ。母親には反抗していないけど。
……って、もう7時45分!?やばいやばい、早くご飯食べないと……!
マッハで制服を着、荷物をガサガサとまとめて(なにか忘れた気がする)ひっつかみ階段をほぼ落ちる勢いで駆け下りさあご飯を食べようとテーブルまで着くと。
「今日に限ってお粥ってどういうことだよ!?」
テーブルには卵粥と漬物、味噌汁が湯気を上げて並んでいた。
「くっそぉ、食パンかご飯なら行く途中で食べられたのに……!」
あつあつ。うまうま。
「よっし食べ終わった!ってええ!?8時!?」
間に合わない間に合わない!
慌てて歯を磨いて顔を洗って靴をつっかけ家を飛び出し走り始めた。
「遅刻遅刻ぅぅ!」
それもこれも美雷ちゃんのせいだ。あんなすごいこと見せられたら興奮して眠れなくなるだろ!
信号に引っかかったので立ち止まり、昨夜のことを思い出す。
……あのときは美雷ちゃんが落ちるんじゃないかと心配だったけど、今思い出してみると結構安定して浮いてたよな。にしても、かっこよかったなあ〜。雷に包まれても生きてられるとか、電気を操れるとか最高にかっこいいじゃん。あああ〜俺もやってみたいなあそんなかっこいいこと。ぱりぱりって。かたかたって!
『コウ、妄想にふけるのもいいけど、もう歩行者の信号点滅しているよ。あと、コウが信号を渡ると思って待ってくれている車に悪いからさっさと渡りなさい』
どわああ!大変だ!
走って走って走る。地獄の登り坂をひぃはぁ登り、上履きに履き替えて階段をダッシュして教室に滑り込む。
「せええええっふう!」
「……晃一、またまた滑り込んできたところ悪いが、始業は10分遅くなったんださっさと覚えろ。あとお前クマひどいぞ」
あ。
「おはよう紫野さん」
「おはよーめぐちゃん。あ、アホ毛出てるよ、とったげるね」
「あ!美雷たんだ!うう〜ん、今日も可愛いですねえ〜」
「オタク全開にしなくていいからね小林くん。でも私が可愛いのは否定しないよ」
「紫野っち、昨日のドラマ観た?」
「観た観た〜、すっごい感動場面だったよね!特に主人公がヒロインを取り戻そうと悪の組織と戦おうとして、「まずは体力づくりだー!」って言って寿司百貫大食いチャレンジに挑戦してたとことか」
な、なんか美雷ちゃんが人気物になってる!?ていうかどんなドラマだそれ。
『美雷ちゃん、どうやってそんなにたくさんの友達を短時間で!?』
『えへへ。教えてほしい?』
そりゃあもう!激しくうなずく子犬のスタンプを送る。
『昨日ね、晃一くんと別れたあとね』
『うん』
『私の能力で全員に一斉にメール送ったの』
『アドレスはどうやって知ったの?』
『……怒らない?』
『内容による』
『夜に屋上で調節したときにね』
『うん』
『晃一くんの携帯の内容さささーっといじって、私のアカウントをクラスのグループに追加して』
『うん』
『で、帰ったあとに全員と繋いだの』
へー。納得!というハムスターのスタンプを送る。
『そこで晃一くん。ちょっと物申したいことがあるんだけど』
『何?』
『晃一くんの携帯いじったときにね、たまたま、そうたまたまね、見えちゃったんだけど』
な、なんだ?
『携帯にあんまりえっちな画像保存しないほうがいいよ?』
ブロックしようかなこの女。美雷ちゃんの方を睨むと、にまっとしたほほえみが帰ってきた。
『まさかその事拡散してないよな!?』
『もっちろぉん。これから晃一くんが変なことしなければ、だけどね。ほらだって、私端末に触れてなくても携帯操作できるから』
ほんとだ。美雷ちゃんアルプス一万尺しながらメール送ってきてた。
『え、でも電気操る時、手でエアーキーボード叩いてなかった?』
『んふふ〜。実は足でもできちゃうんですね〜』
たしかに、美雷ちゃんの足は小刻みに動いている。でもアルプス一万尺のリズムにノッているようにしか見えない。すごいな。
『ところで晃一くん?デートのお誘いはまだかな?』
はああ!?
ほんっとうに、遅れてごめんなさい。
次回、久しぶりに深鈴ちゃん登場です。あと奏音ちゃんも。




