奏音ちゃん○○になる
「深鈴、パンフレット見つかったよ……って、鈴木さん!?」
深鈴にパンフレットが見つかったことを報告しながらリンリンの中に入ると、なぜか鈴木さんがいた。そして、俺の姿を見て、何故かたじろいでいる。
「ええっと、こういちく……じゃなかった、晃二君、さっきぶりですね!」
なんで言い直した!?まあ、それはともかく。
「なんで鈴木さんがここにいるんですか?深鈴と知り合いだったんですか?鈴木さんは奏音ちゃんのお母さんだって、本当ですか?鈴木さんは本当はおいくつなんですか?あと」
「コウ、いったん落ち着きなさい。とりあえず、開いている席にでも座って」
俺は深鈴の指し示す席に座り、一番安いアイスコーヒーを頼む。別にホットコーヒーでもよかったが、暑かったし。紅茶もオレンジジュースも同じ値段だが、まあちょっと大人ぶりたいお年頃なのである。暖かい目で見守ってほしい。
アイスコーヒーがきたのでひとくち飲み、俺は切り出した。
「それで、なんで鈴木さんがここにいるんですか?あと」
「コウ、質問は一つずつにしよう」
はい。
「私がなぜここにいるか。それはお答えすることができません」
「なんでですか?」
「それはまあ、いろいろとありまして」
なんだか聞いてはいけない気がするので、次の質問へと移る。
「鈴木さんは深鈴と知り合いだったんですか?」
「いいえ」
「鈴木さんは奏音ちゃんのお母さんって、本当ですか?」
「本当です」
その時、今まで黙りこくっていた奏音ちゃんが発言した。
「かのんをうんだのはおかあさんだけど、おかあさんはおかあさんじゃないもん!」
……どういうことだ?
すると、深鈴が説明してくれた。
「確かに奏音ちゃんのお母さんは鈴木さんだけど、お母さんとしての役割を果たしていないんだって。奏音ちゃんとの交流もほとんどなかったらしい。本人も認めた」
ああ~……。本人認めたんだあ~……。無自覚の放棄もつらいけど、わざと放っておかれるのが一番つらいもんなあ……。
鈴木さんへの質問が尽きてきたので、深鈴に聞く。
「で、深鈴。その後どうなったかを話してもらっていい?」
「どうもなっていないよ。これから修羅場ろうとしたときに、コウが『みっすずーぅ?』って入って来たんだから」
悪意のあるモノマネである。そしてスベってるし。
しばらく、食器のぶつかり合う音と、店内に流れているビートボックスの音が響いていた。この店のBGMは常時ビートボックスである。クラシックにすれば、雰囲気がよくなると思うのに。自分たちの好みを貫いていく深鈴ママたちである。
沈黙を破ったのは深鈴だった。
「それでは聞きますが鈴木さん、あなたは何のために奏音ちゃんを連れ戻そうとしているのですか?」
「もちろん社長のためです。社長は、奏音を取り戻さないと会社の汚名につながると考えていらっしゃるようですので、私は社長に褒めていただけるような有能な秘書であるために、奏音を探しに来たのです」
鈴木さんが奏音ちゃんの事を何とも思っていないことを理解した深鈴は、なんかもう、すごかった。俺の言葉では表せないので、以下の会話で理解していただきたい。って、誰に話しかけているんだろう?
「……では、もし社長に褒められないならば、あなたは奏音ちゃんを連れ戻しには来ない、ということでいいですか?」
「ええ、もちろん。私と社長の間を邪魔するものは、わが娘とて許せませんもの、いっそのこと、養子にでも出そうかと思っておりまして、準備は実はできているのですよ」
「そうですか。では奏音ちゃんはこちらで譲り受けても構いませんか?」
「ええ、私としては願ったりかなったりですが、……社長がなんとおっしゃるか」
「その点に関しては問題ありません。社長からの許可はとってあります」
そう告げ、携帯電話を取り出す深鈴。録音した音声が流れてきた。
『わが娘、琴寄奏音を花宮深鈴殿に預けることとする。1年が経った後、本人の意見を聞き、花宮深鈴殿の養子となるか否かを決めることとする』
「しゃ、社長……!」
鈴木さんは胸の前で手を組み、感極まったように目をうるうるさせている。
「これで問題はないでしょう。奏音ちゃん、いえ、奏音さんを1年間預からせていただきます」
「はい、よろしくお願いします」
こうして交渉(?)は成功し、奏音ちゃんは仮に、とはいえ深鈴の養子となった。
鈴木さんが帰っていった後、奏音ちゃんがぽつっと言った。
「おかあさん、かのんのこといっかいもみてくれなかった。ずっとみいちゃんだけみて、おはなししてた」
えっそうなの?
「そうだよコウ。逆に気が付かなかったの?」
はい。……なんか、ごめんなさい。
「コウ、交渉とかをするときは常に交渉相手を見て、どんなに些細な動きも見逃さないようにするのだよ。こちらにとってうまくいくようなことが見つかるかもしれないからね」
はーい。
「じゃあ今日は夜ご飯もここで食べて、早く寝よう。実は奏音ちゃんの部屋も準備してあるんだよ」
「ほんとう!?やったあ!でもかのん、きょうはみいちゃんといっしょにねる!」
「ふっふっふ。こんなこともあろうかと、キングサイズのベッドも準備してあるのだよ!じゃあ奏音ちゃん、みいちゃんと一緒に寝ようか」
金持ちだなあ。
「うん!かのん、こいばな?をしてみたい!」
ぶっっっ!?
危うくコーヒーを吹き出すところだった。なんで幼稚園児が恋バナとかいう単語を知っているんだ?
奏音ちゃんおめでとう。
次回、夏休みが明けます.




