番外編 深鈴VS鈴木さん(深鈴視点)
コウが出て行った後、私は奏音ちゃんに話しかけようと、口を開いた。
「奏音ちゃん、実は」
りんりん。軽やかな鈴の音が響き、一人の女性が店内に入ってきた。
正直、私とコウ以外の客がリンリンに入店することは、まずないといってもよいので、どんな物好きがリンリンに入って来たのだろうか、と気になったので、さりげな~く観察してみた。
……ってさっきの怪しい人じゃん!何をしに来たんだ?
女性はきょろきょろと辺りを見回していた。何かを探しているようだ。
「何かお探しですか?」
声をかけると、女性は一瞬、ぎくっとした。が、にっこりと笑んで、
「ああすみません。私、このお店に入るのが初めてなもので、どのようなお店かと気になってしまいまして……」
とは言いつつも、目線で何かを探している。怪しいな。
話しかけたいが、これといった理由もないため、一度断念する。
「いらっしゃいませ~!お席にご案内いたしますね!どちらのお席にいたしましょうか?」
ママが案内してくれた。そりゃあ新規の客だものね。完璧にサービスしたいはず。
「自分で席を選ぶことってできますか?」
「もちろんです!どこにいたしましょうか?」
「では、あそこでお願いします」
そう女性が指さしたのは、私たちの席から少し離れた二人用のテーブルだった。なぜカウンター席にしなかったのだろう?
「お連れ様はいらっしゃいますでしょうか?」
「いえ、いません」
席に着き、荷物を座っていないほうの席に置きながら答える女性。
「そうですか、失礼いたしました。こちら、メニューになります。お決まりになりましたらお申し付けくださいませ」
そう告げたママは軽めの足取りで去っていく。新規客の来店に浮かれているな。
「あっ!」
かたたたん。かしゃん。からんからん、からから。
音のしたほうを見てみると、女性の物であろうバッグがひっくり返り、物が床に散乱していた。
「大丈夫ですか?手伝います」
奏音ちゃんにはここで待っているよう言い、床に散乱したものを拾い集める。
「ああ、こんなところにまで転がってしまいました」
女性が、床の隅に駆け寄り、何かを拾っていた。あそこにまでは転がっていかなかったような気がするけどな。
あらかた拾い終わると、自分の席に戻る。
「みいちゃん、あのひと、わざとかばんおとしてた」
「知っているよ。気にしないで、食べていなさい」
「うん……。……みいちゃん、あのね、あのひとね」
「奏音!こんなところにいたのね!さあ早く帰りますよ!」
女性の声が響いた。少しわざとらしく聞こえる。……ああ、そういうことか。
納得した私は、女性の前に立ちはだかる。
「さあ奏音帰りますよ……ってあなた誰ですか!?どいてください!」
「人に名前を尋ねるときは、まず自分が名乗るのが常識ですよ」
「っ私は、鈴木寧音と申します。奏音の母です。はい名乗りました!あなた誰ですか!?」
「鈴木さんですね。私は花宮深鈴です。どうぞお見知りおきを」
そう告げ、名刺(こんなこともあろうかと作っておいた)を差し出すと、女性改め鈴木さんは、慌てて自分の名刺を取り出した。が、あまりにも慌てすぎて、カバンの中身が再び散乱する。
「きゃあああ!」
「……手伝います」
カバンの中身を一通り拾い終えると、私はそばの4人掛けのテーブルを指し、そこで話すことを提案する。
わたしと奏音ちゃんが隣あって座り、向かい側に鈴木さんが座る。鈴木さんは最初、奏音ちゃんを隣に座らせたがったが、奏音ちゃんが私の服をつかんで離さなかったので断念した。
鈴木さんはアイスミルクティーを、私はアイスコーヒーを頼む。奏音ちゃんは少し前に頼んでおいたソーダフロートをちびちび飲んでいる。
それぞれの頼んだ飲み物が来て、ママが厨房にはけたのを確認すると、私は切り出した。
「さて、鈴木さん。あなたが奏音ちゃんのお母様と言いますが、本当ですか?」
「本当です!今母子手帳はもってきていませんが、奏音に聞けば分かります!」
「奏音ちゃん、鈴木さんは奏音ちゃんのお母さんで間違いない?」
「奏音、私は奏音のお母さんよね?」
二人分の視線を浴びた奏音ちゃんは私と鈴木さんを交互に見て、言った。
「おかあさんは、おかあさんだけど、おかあさんじゃない!」
どういう意味だ?
「おかあさんは、おとうさんばかりだいじにして、かのんのことぜんぜんみてくれないもん!」
あ。
数秒、その空間を沈黙が支配した。鈴木さんはあえぐように口をはくはくと動かしている。
「おかあさんがあそんでくれないから、かのんは、いつもひとりで、あそんでるもん!おかあさんは、かのんのことなんてすきじゃないからわすれてたけど、おとうさんのために、かのんをさがしにきてるだけだもん!」
鈴木さんに追い打ちをかけるように叫ぶ奏音ちゃん。よく見るとうっすらと目に涙が浮かんでいる。
「そ、そんな、ことは……」
「鈴木さん、奏音ちゃんの言っていることは本当ですか?」
「え、ええ」
認めたな。
「でも、それが何だっていうの!?人の心の中を読む気味の悪い子供よりも、仕事をしたり、愛する夫と過ごすことの何が悪いの!?」
バン、とテーブルを叩きながら立ち上がった、鈴木さんが怒鳴る。テーブルの上の飲み物がカチャカチャと音を立てた。
その時。
ちりーん、と間の抜けた音が響いた。
「深鈴、パンフレット見つかったよ……って、鈴木さん!?」
深鈴VS鈴木さんでした。




